第493話 別時空からの侵略を撃破してから飯を食う

 大体、侵略というものは早朝あたりに来るものである。


「ええい、シーナがむずかって起きて、あやして寝かせた後に二度寝するのが至福だというのに」


 俺は不機嫌になって飛び起きた。

 ワールディア全体に張り巡らせた、俺の防衛網みたいなものに侵入者が引っかかったのである。


「なんたることだなんたることだ」


 俺はそーっと部屋を抜けると、家の外に飛び出した。

 ふわっと浮いたところで、飛翔の爆音を殺しながら亜音速で飛翔する。


 今回は近いところだから、この程度の速度で良かろう。


 俺がこうやって勇者村で暮らすようになってから、都合四度目か五度目くらいの侵略だ。

 今回は時空の壁を越えてやって来たな。


 巨大な球体のようなやつで、人面の泡みたいなものが次々浮かんでは消える不気味なやつだ。


『オオオオオオ……これが世界の壁か……。豊かな世界の姿が見える……! 数々の魔王が植え付けたアンカーが私をここに引き寄せてくれた……! 魔王を越え、邪神にならんとするこのナツドー様がこの世界の全てを吸い尽くして……』


「ツアーッ!!」


 実体化しようとしていたので、俺は非実体のそいつを拳でぶん殴った。

 泡が一気に百個ぐらい潰れる。


『ウグワーッ!? な、なんだとー!?』


 ははは、世界の壁を超えて殴られたのが衝撃だったようだな。

 非実体のままキョロキョロしているぞ。


 お前はこちらをあまり認識できていないようだが、俺は認識できるぞ!


『きょ、強大な魔力が私に叩きつけられた……! おのれ! こうなれば強制的に新たなる世界に移動して魔力を吸い尽くす……』


「ツアーッ!! おかわりもどうぞ! ツアーッ!!」


『ウグワーッ! ウグワーッ! ウグワワーッ!!』


 連続攻撃で、そいつを宇宙まで弾き飛ばしたぞ。


『ぐわあああああ私の体が世界の外に追い出される!! そんな馬鹿な! 何者だ! 誰が私の妨害をしているというのだ!!』


「お前が破ろうとしている世界の壁ごとお前を宇宙に押し出したのだ! あと、名乗らなくてもここで始末するから問題なかろう! ツアーッ!」


 俺の地獄突きがそいつに突き刺さった。

 これは概念的な地獄突きである。


 相手に首があろうとなかろうと、サイズ差があろうが確実に敵の首筋に当たる部分に突き刺さる。


『オゴーッ!!』


 球体はたくさんの人面の泡を吹き出した。

 だが、その全ての泡に俺の概念地獄突きが決まっているぜ!!


『オゴゴーッ!!』


 泡も喉を疲れてオエーッ!となった顔になり、みんな弾けて消えた。

 もう泡が出てこない。


『なぜだ……! なぜ私は今、理不尽な攻撃を食らって消えていこうとしているのだ……! ありえない! 世界の壁を挟んで攻撃してきて、こちらが実体化する前だからどうしようもない状況など……! 今まで私がやって来たことが全て私に返ってきているような……!!』


「がははははは、お前が何なのか知らないが、中途半端な邪神には一撃目の攻撃すら放つことを許さんぞ! さらばだ! デッドエンド・インフェルノ!! 一兆度だぁ!!」


『ウグワーッ!!』


 世界と世界の間で蒸発した。

 侵略者は滅びた。

 一体何者だったんだろうな。だが倒したので気にする必要もない。


 そろそろ、勇者村の夜明けの時間だった。

 俺は毎年のルーチンワークみたいな作業を終えて、戻って来る。


 いやあ、今日は一日眠いだろうな。

 たっぷり昼寝をしよう。


「おとうさーん!」


「おーマドカ! 早起きだなあ」


「おとうさんおそとにでたから、マドカもずっとまってた!」


「なにいーっ」


 待たせてしまったかー。


「お父さんはな、この世界を襲う悪いやつをちょいっとやっつけてから来たのだ。しかしまあ、時空の壁を超えて侵略してくるんだから、ちょっと向こうの時空の悪い奴らがいる辺りを破壊しておかないとな。村を安全に保つためだ……」


「???」


 マドカには難しかったかー。

 しかし、マドカもお転婆なところが少しずつ収まってきており、だんだんお姉さんらしくなっている。

 これは従弟の力人を見てから、お姉さんにならねば的な気持ちがむくむくと湧いてきたためらしい。


 シーナはもっと小さい時にできた妹だったもんな。

 完全に物心がついてから見た小さい人は、衝撃であろう。

 血がつながっているのが、なんとなく分かっただろうしな。


「こんどね、りきとがいぬをかうってー」


「そうだなあ。次に会いに行ったらどんな犬がいるだろうな」


「たのしみねー」


「楽しみだなあ」


 二人で顔を洗い、朝食準備を始めた奥様チームのお手伝いに回る。


 早起きな女の子たちは、お料理手伝いをする子も多いのだ。

 勇者村では、この辺は役割分担されてるからな。

 こういう役割をぐちゃぐちゃに混ぜてしまうと、その社会の規律的に良くない。


 屋台骨みたいなものが弱くなってしまうのだ。

 なので、一見して非合理なこのシステムをうちでは採用している。


「じゃあマドカ、てつだってくるね!」


「おう、行ってらっしゃい!」


 マドカがトテトテと共同台所へ走っていく。

 先に来ていたサーラが、「マドカ、おはよう!」と元気にあいさつしてくる。

 マドカも「おはよー!」と大きな声で返した。


 うんうん、今日もいい一日になりそうだ。




 

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