第492話 雨季の終わりに虫が減り
トリマルが帰ってきてから、勇者村の中をぶんぶん飛んでいた虫の数が明らかに減った。
あいつがちょこちょこ食べているんだな。
どれだけの速度で飛翔する虫だろうが、トリマルにとっては止まってるようなもんだもんな。
お陰で、マドカ他ちびっこたちが、虫に刺されて痒そうにしていることが減った。
こういう田舎を飛び回る虫、マラリヤみたいな病原菌を持っていてもおかしくないのだが……。
昔から刺されても全然病気にならないんだよな。
この世界の人間は魔力があるから、そういうのである程度の病原体には抵抗できるのかも知れない。
地球に行ったパワース、全く病気に掛からないと言ってたしな。
「おっ、そんな事を考えていたら晴れてきたな。最近、晴れ間が多いぞ。雨季はそろそろ終わりかあ」
この季節は、水がたっぷり必要な作物を育てている。
生け簀では淡水魚も育てていて、餌をやってたっぷり太らせている。
水が減ってくる乾季になったら食べてしまうわけだな。
どれどれ、生け簀や畑の様子を見に行くとしよう。
ぷらぷらと外に出る。
そんな俺の横を、マドカがばびゅーん!と凄い勢いで走っていった。
「どこ行くんだー?」
「あそぶのー!!」
「気を付けてなー!」
「うーん!!」
元気元気。
地球ならもうすぐ五歳が見えてくる年齢だけど、まだまだお姉さんになる気は無いようだ。
よしよし、存分に遊べ。
さて、俺は雨上がりに発生する虫を観察に行こう。
本当にトリマルが全部たべているのか確認したい。
あまり虫を食べすぎると、もうすぐやって来る受粉の季節に虫不足になりそうだからだ。
「トリマルー」
「ホロホロー?」
俺とトリマルは言葉だけではなく、ある程度の距離ならテレパシーめいたもので繋がれる。
俺が卵から孵したので、そういうものが繋がっているらしい。
最近気づいたんだが。
トリマルが村の向こうから、壁を駆け上がり屋根を飛び越え、こっちまでやって来た。
「ホロホロ」
「おうおう。最近虫を見かけなくなったと思ったんだが、トリマルが虫を食べてるのか?」
「ホロホーロ」
「あ、違うのか。そっか、ホロロッホー鳥たちは合鴨農法みたいな感じで草とかたくさん食べてるもんな。わざわざ飛んでる虫は取らないか」
「ホロホロ」
「なに? 新顔の鳥のモンスターがいて虫を食ってる? そりゃあまずいな」
ただの鳥ならいいが、モンスターだと虫を食べすぎてしまうかも知れない。
やり過ぎはよろしくない。
話をつけに行くとしよう。
「ホロホロ。ホロー!」
「もがー」
「めぇー」
「あっ、勇者村四天王が集まってきたぞ!!」
トリマルが一声掛けたら、ビン以外の四天王が集結してしまった。
アリたろうとガラドンはどうやら暇していたらしい。
「まあ、ずっと暇なのが勇者村だからな。イベントはなかなかない。よし、久々のイベントだ。俺に続け」
「ホロホロー」
「もがー」
「めぇー」
大変賑やかな一行になってしまった。
雨上がりを楽しんでいる村のみんなの注目を浴びる。
「おおショート。珍しい顔ぶれだな」
「ブルストか。いやな、最近虫が減っただろ。このままじゃ春先の受粉に影響が出ると思ってな。原因が新顔の鳥モンスターだって言うからそいつと話をしに行くんだ」
「ほうほう。鳥って言うとあれだな。めちゃくちゃ早いやつが毎朝空を飛んでるんだ」
「そんなもんがいつの間にか……」
俺が色々忙しい間に。
どれどれ?
魔法で魔力を探知する。
ほう、見慣れぬ魔力が続いている。
森に分け入っていくと、四天王があとに続いた。
もう、森に住む猛獣もモンスターも、俺たちの気配を感じ取った瞬間に息を潜めて出てこない。
特に、ガラドンはいい感じでこの辺りで暴れたから、特に恐れられているのだ。
「やんちゃしてしまったな、ガラドン」
「めぇめぇ」
なんのなんの、まだまだアリたろうの兄貴にも勝てないっすからね。大したことないっすよ、みたいな事を言ってる。
謙虚になったなあ。
研鑽によって強者の地位を保っている、コアリクイのアリたろう。
ガラドンに完全に慕われているな。
さてさて、魔力を辿っていくのだが。
「いたいた」
樹上が結界のようになっている場所がある。
あれで俺たちの目を誤魔化しているつもりなのだろう。
それはつまり……。
森の主ガラドンみたいなのに目をつけられたら危ない……くらいのモンスターなのだ。
「おーい。この辺りに引っ越してきたみたいだが」
結界が揺れた。
俺を警戒しているようだ。
警戒しようとどうしようとムダだぞ。
「虫をちょっと食いすぎだ。もっと魚とか食え。虫は色々大変なんだよ。受粉とかに関係あるからな。お前の図体で食いまくるのはちょっとな」
『ギギィ』
おっと、モンスターが姿を現した。
全身鱗に覆われた鳥みたいなやつだな。
大きさは大型犬くらいある。
虫ばかりだと腹が膨れないだろうに。
『ギギギ!!』
「威嚇するな威嚇するな。俺とお前じゃ格が全く違って勝負にならんからな。じゃあ俺も威嚇するぞ。威嚇するぞ……。カッ!!」
『ギギェー!!』
鱗鳥が落下してきた。
目を回して泡を吹いている。
いかんいかん!
もう俺、この程度のモンスターならにらめっこをするだけで完全無力化できてしまう。
だが、今回は平和的に片付けるつもりなのだ。
俺は鱗鳥の顔をペチペチした。
「虫ばかりなのはなんでだ? 図体に対して頭が小さいからか? だったらどうして魚を狙わない?」
『ギ、ギギギ』
「あ、泳げないのか! 完全に理解した。じゃあな、泳げなくても魚を取れる場所を教えてやろう。滝壺の辺りでな、落下してくる魚がたまに着水失敗して横に飛ぶんだ。で、地上をピチピチ跳ねながら水に戻るが、その前にゲットできる……」
『ギギギ!?』
「いいってことよ。ちょっと見本を見せるからな。ついてこい」
『ギイギイ』
「ホロホロ」
「もがもが」
「めめぇー」
ということで、新入りに色々教えてやりに行くのである。
その頃には、空はカラッと晴れていた。
これ、本格的に雨季の終わりだなあ。
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