第490話 おめでたいラッシュだとでも言うのだろうか

 フーとピアの子ども、双子ちゃんで大いに賑わう勇者村。

 そこへ、うちの両親がやって来た。


「翔人、海乃莉が可愛い男の子を産んでね」


「えーっ!?」


 いきなりの不意打ちである。

 俺はものすごい衝撃を受けた。

 最近、神様化してきたのかちょっとやそっとの事では動じなくなってきたなーと思っていたのだが、いやあ動じた動じた。


「なんでいきなりそういうこと言うんだよ。段階ってものがあるだろ段階ってものが」


 お腹の中にパワースの赤ちゃんがいたことは知ってたけどさ。

 それにしたって早すぎないか?

 指を折って数えてみたら、まあまあ十ヶ月だった。


 妥当な出産ではないか……。


「だって翔人、私たちが来る度にしょっちゅう村を留守にしてるんだから」


「知らせようがないだろう。この世界には電話が無いんだろ?」


「無いね」


 それは仕方ない。

 それに地球のことは、俺の力でも確認することはできない。


「ではせっかくなので海乃莉の赤ちゃんを見に行こう……」


「行こう行こう」


「いくぞー!」


「いうおー!」


 あっ、いつの間にかうちの一家が!!

 カトリナが双子ちゃんとマドカとシーナをまとめて世話を見ていたのだった。

 交代でパメラとバインが来たのでタッチし、フリーになったわけか。


「ミノリは私にとっても妹みたいなものだもの! 年上だけど。ミノリの赤ちゃんは私の姪っ子! 抱っこしたい!」


「仰る通りですなカトリナさん!!」


 うちの奥さんは本当に賢いなあ。

 マドカは普通に、地球で甘いお菓子を買ってもらうつもりでいる。

 シーナはよく分からないが、お姉ちゃんが行きたがっているなら自分も行くという意思を示していた。


 うむ、行くしかあるまい。


「ホロホロ」


「トリマル!! お前も行くか」


「ホロー」


 では、ショート一家出発だ。


「あらー、マドカちゃんもじいじの家に来るのかい?」


「それじゃあ、なんでもお菓子買ってあげようねえ」


「やったー!」


「お義父さん、お義母さん、あまりたくさん買ってあげると、子どもは慣れてしまうので……」


「おお、そうかそうか……」


 カトリナとうちの両親が、マドカにどれくらい買ってあげようかという話をしている。

 まだ日本に行ってもいないのに気が早いなあ。


 こうして、六人と一羽になった俺たちは地球に行った。

 もちろん、魔力がこの世界に影響を与えないように結界などを厳重に張り巡らせておく。


 リビングに置かれたテレビがワールディアと地球をつなぐ窓口なのだが……。


「おや? 変なところに出た」


「実は庭にコンテナハウスを用意してな。そこにテレビを置いたんだ。新しいテレビに買い替えたから」


「そうだったのか」


 いきなり狭い建物の中だったからびっくりした。

 つまりここは、ワールディアへ移動するために用意された家ということなのか。


 コンテナハウスとは言うが、中身はちゃんとしてて、断熱材も入っているみたいで良い感じじゃないか。

 どうやら、両親がワールディアに持っていくおみやげ、持ってきたおみやげの倉庫にもなっているらしい。


 トリマルとマドカとシーナがテレビから飛び出して、不思議そうにキョロキョロしていた。


「よし、三人とも外に出るぞ。俺に続けー!」


「ホロホロー!」


「わーい!」


「わー」


 庭に出た。

 狭い庭だ。

 ちょっとだけ木や石が置いてあった庭だったが、完全に平地に均されていてコンテナハウス置き場になってるな。


 ワールディア訪問が二人の生きがいになってるんだな。

 まあ気持ちは分かる。

 最高のスローライフ体験環境だもんな。


 そして、家に戻った母が海乃莉に電話をかけた。


「大丈夫だって! じゃあ行くわよ! 車出すから!」


「コンパクトカーじゃなかった?」


「そうだけど、翔人とカトリナと、マドカちゃんとシーナちゃんとトリマルちゃんでしょ? 大丈夫でしょう」


「言われてみれば大丈夫だ」


 完全に納得してしまった。

 車の後部座席に、俺とカトリナ。

 で、俺とカトリナの前面に念動魔法で子供用の安全な座席を生成。

 トリマルはどこでも大丈夫だろ。


 こうして、車が走り出した。

 海乃莉がパワースと一緒に住んでいるマンションは……。


「どこに住んでるの?」


「にかほよ」


「そこだったのかあ……」


 なので、それなりの時間をかけて車を走らせる。

 シーナはすぐにスピスピと寝てしまった。

 マドカは物珍しそうに窓に張り付き、流れていく景色を眺めている。


 トリマルは……。

 助手席までトコトコ歩いていき、父の膝の上に乗っかった。

 おお、可愛がられている。


 勇者村四天王最強の鳥も、父に掛かると可愛いペットみたいなもんだもんな。

 そいつはある意味俺の長男なのだぞ。


「おとーさん!」


「おっ、なんだなんだ。……マドカ、すっかり口が回るようになって来たんだなあ……」


 今、完全にお父さんって言ってただろ。

 もう赤ちゃんを卒業し、女の子になっていくところなんだなあ……。

 なんかしみじみしてしまった。


「おとーさん! あのね、マドカね、おそとのがびゅんびゅんってするのすごいなって」


「そうだなー」


 ここでカトリナがくすくす笑う。


「あのね。ショートがいないところでは、もうマドカはお姉さんだって自覚してて、ちゃんと喋ろうって練習してたのよ。でもショートの前だと甘えちゃって、ちょっと舌足らずになっちゃうみたい」


「そうだったのか……!! あー、子どもは本当に、あっという間に大きくなっていくんだなあ」


 ジーンと来るなあ。

 両親ももう、嬉しくて仕方ないらしい。

 子どもの成長ってのは最高に幸せになれるコンテンツだよなあ……。


 さあて到着!

 ではこれから成長していくであろう子ども、赤ちゃんを見に行こう!


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