第489話 ダブル赤ちゃんやってくる!

 ピアが産んだ双子だが、虎人と人間の血が混じってるのが分かる。

 混血児は強靭になるらしい。

 新しい種の誕生だなあ。


 きれいにされて、おくるみに入って、赤ちゃんがすぴすぴ寝ている。

 少ししたら目覚めておっぱいを欲しがることであろう。


 しばらくは、勇者村奥様チームから一人が常にピアの手伝いをする。

 これが村社会の強みだ!


 お蔭でピアは、母乳を上げる時以外はたっぷり休めているようだ。

 どれ、俺も赤ちゃんの様子を見に行くことにしよう……。


 フー&ピア邸に到着すると、既に奥様方がたくさんいた。


 おやあ……?

 順番に赤ちゃんを見ているはずでは。

 だが、現に奥様方はわんさかいるのだ。


 なぜか?

 簡単である。

 かわいい赤ちゃんは、村にとって最高の娯楽なのだ。


 俺はそろーっと奥様方の後ろから覗き込んだ。


「ちょっと触っても?」


「あら村長。どうぞどうぞ」


 許可をいただいた……。

 ちっちゃい赤ちゃんは、まだぷにぷにではない。

 しわくちゃだ。


 目もまだ開いておらず、触ってみるとふにふにとした不安定な触り心地であった。

 マドカもシーナも、みんなこんな感じだったなあ……。


「どれどれ、魔力をちょっとだけ流してみよう……」


「村長あんまり無茶しないでね」


 ミーに注意されてしまった。

 大丈夫大丈夫……。


 そもそもこの赤ちゃんは俺が取り上げたので、ちょっとくらいは魔力に耐性があるはずなのだ。

 案の定、魔力を軽く流したら、双子の片方はまだ本来目が開かないはずなのに、すうっと薄目をあけた。

 目玉の奥が魔力の本流で、青白く輝いているな……。


 意識は混濁しており、曖昧だ。

 赤ちゃんだからな。

 だが、魔力に反応しているのは分かる。


「おおかわいいかわいい。きっとお前は大物になるなあ」


「ふぎゃあー」


 あっ、泣き出した。

 そうかそうか、大物はなりたくないか……。

 これからある程度平和な時代にはなるもんなあ。


 ということで、赤ちゃんを降ろした。


「多分うんこしたぞ」


「あらあら」


 ミーが素早く赤ちゃんのおしめを替える。

 奥様チームは全員経験者。

 強力な赤ちゃんサポーターなのだ!


 双子をそれぞれチェックしてみる。

 うむ、どっちもかわいい。

 どっちも可能性を感じる。

 勇者村の未来を担ってくれるに違いない。


 男の子二人ということで、これからどうなっていくのか実に楽しみ。


 ピアの様子も見ることにした。


「元気?」


「あ、はい村長! もう、お腹が減ってお腹が減って……」


「出産でめちゃくちゃエネルギーを使っただろうしな。そのうえ、母乳をあげているわけだしな」


 腹が減って当たり前だ。

 ピアはとにかく、もりもり食べているらしい。

 いいことだ。


「フー、父親になった感想は?」


「いやあ、まだ全然実感が無くて……」


 そうだろうそうだろう。

 新米お父さんとはそんなもんだ。

 父親の自覚はこれからできてくるのだ。


 かくして、畑に仕事に行くフーなのである。

 男は働き、糧を作らねばならん。


 次は、ダブル赤ちゃんの名前だ。

 俺が名付けると、取り上げた上に名付けまでするということで、絶対にヤバい。


「フー、お前が名付けるのだ」


「お、お、俺ですか!?」


 お前以外に誰がいる。

 だが、学問を修めたりしていない農夫にそれは厳しかろうな。


「図書館に行くぞ。勉強だ。ピンポイントで名付けに関するところだけ学ぼう」


 ということで、フーを連れて図書館へ。


「なるほど、名付けですか。いいですね」


 ブレインがニッコリした。


「そのために、慣れていない勉強をしていくのも大変でしょう。ここはピンポイントで」


「村長と同じこと言ってる……」


 考えることが同じなのかもしれん。

 こうして名付けのためのお勉強がスタートした。


「名付けは基本的に、過去の偉人や一般的な名前などを調べてこれに倣うものだ。下手に個性を出すと、子どもが暮らしにくくなるからな。恨まれたりする」


「ひええええ」


 フーが震え上がった。

 虎人だが小心者である。いや、肉食獣というものは気が小さいくらいでちょうどいいんだろう。


 フーは必要な勉強を必死でやった。

 そもそも文字をあまり読めないのだ。

 読み聞かせてもらうことになる。


 魔本のアドバイスに必死に耳を傾け、考える。

 恐らくフーの人生で、ここまで必死に頭を使ったことは無かっただろう。


「故事から……英雄の名前とか……うーん……」


『農夫の子ではありますが、将来的にどうなるかは読めませんからな』


『ショート様が取り上げて、しかもぷにぷに触っているんでしょう?』


『凡人にはならない』


『ちょっと気張った名前を付けても全然もんだいないですよ』


「そ、そうかな……そうかも」


 魔本に説得されてる。

 こうして3日くらい過ぎ……。


 ついにフーは名前を決めたのだった。


「古代ワールディアで伝説を作り上げた、双子の王子の名をもらうことにしました」


「いいじゃんいいじゃん! ナイスセンス!」


 俺は褒めたたえた。

 変なオリジナリティなんぞいらんのだ!

 さあ聞かせてくれ。


「ウルガーとサルガーです」


 ウルガーとサルガー!

 右と左か……!

 地球でもそんな感じの意味の綴になるのだが、これは偶然の一致だな……。


 こうして名付けられた双子の赤ちゃんは、もりもりすくすくと育っていくのだ。

 ぐんぐん大きくなれよー!


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