第487話 終戦! 終戦! で、身の振り方を考えるんだな?

 ダイテイオーがあまりにも強い。

 強すぎる。

 一人だけやってるゲームが違う次元だ。


 だが、これはニルスの想定内だったようだ。

 あいつ、勇者村でとんでもない連中を見てきていたからな。

 ニルスは近くの村に向かった。


 そこに、彼が招いた食客がやって来ていたのだ。

 それは……俺がすっごく見覚えのある、一羽の鳥だった。


「トリマルさん、力をお貸しください」


「ホロホロ」


「グンジツヨイ帝国が敗れれば、多くの民が犠牲となりましょう。これより、世界は神や魔や竜の時代から人の時代となります。魔の力を受け継ぎ、強大な力を振るう魔人ダイテイオーを退けることにお力を賜りたく……!!」


「ホロ!」


「力を貸さぬと……? いえ、また参りましょう。帝国はあなたの力を必要としているのです……!」


 一度は退いたニルス。

 彼のいない帝国は防戦一方となるが、この前までにニルスがその采配で減らしていた魔族たちでは攻めきれない。

 ここまで読んでいたか。


 そして、ダイテイオーだけは真っ当な手段では解決不能と見て……。


 二日目、村に現れたニルスはトリマルに声を掛けた。

 唸るトリマル。

 今回もまたダメだったようだ。


 そして三日目。

 二度断られても、やってくるニルス。

 彼の真剣な思いを感じ取り、ついにこのホロロッホー鳥は首を縦に振ったのである。


 リアル三顧の礼じゃん!

 そして……ダイテイオー討伐のために、史上最強のホロロッホー鳥が参戦したのだった。


「ホロー!」


 ホロロッ砲が咆哮し、戦場を薙ぎ払う。

 ギリギリで誰にも当てず、爆風でふっ飛ばして戦闘不能にするだけに留めている。


 腕を上げたなトリマル!!

 そしてついに、ダイテイオーが出てくることになった。


 誰もトリマルの相手にならないのだ。

 かろうじて肉薄した魔族は、トリマルのキックを浴びて『ウグワーッ!?』と吹き飛んでいった。

 おお、手加減している手加減している。


「退け! 俺が出る! この鳥が切り札というわけか! 面白い……!」


 ダイテイオーが槍を抜く。

 トリマルが身構える。

 ついに、グンジツヨイ戦争の最終局面だ。


 ダイテイオーは強い。

 独学、人の身でよくぞそこまで練り上げたというくらい強い。


 ただまあ、相手が悪すぎる。

 槍の連続突きを、飛び上がりながら全て蹴りで受け流すトリマル。

 ついには槍の穂先を蹴り折り、


「馬鹿な!? 魔将から奪った吸血の魔槍だぞ!?」


「ホロ!」


 ほんの一瞬だけ油断したところに、ツツーっと柄を滑りながら飛び込んできたトリマルが……。


「ホロロ!」


「ウグワーッ!!」


 キックでダイテイオーをふっ飛ばした!

 さらに地面を疾走して、吹っ飛ぶダイテイオーを追い越すトリマル。


「ホロロ!」


 蹴り上げる!


「ウグワーッ!?」


 飛び上がったトリマルは、空中でダイテイオーを蹴り落とした。


「ウグワアッ!!」


 地面にめり込んで、ダイテイオーが動かなくなった。

 勝負がついたな。

 これにて、ダイテイオー軍は降伏。


 大量の血が流された戦争の終わりは、やはり血による報復……かと思われたが。


「よし、全員解放! 戦争終了~!」


 俺が登場し、復活させていた全ての兵士と魔族を解き放ったのである。

 みんな、うわーっと戦場跡に降り立った。


「やっと自由だー!」「勉強時間終わりー!!」「戦争は愚か! 戦争は愚か!」


『もう戦いたくない……!』『平和、最高!!』『人間と手を取り合わなくっちゃ!!』


 兵士たちと魔族が手を取り合い、うんうん頷いている。

 これを見て、生き残りだった兵士と魔族はポカーンとした。

 完全に毒気を抜かれたようだ。


 俺は地面にめり込んでいるダイテイオーを、「いよっと」ズボッと引っこ抜いた。


「どうだ。満足したか」


「ず……ズルすぎる……。あんな化け物を連れてくるなど……。何が人間の力だ……」


「お前が人間の次元を超えてしまったから、向こうもホロロッホー鳥の次元を越えた食客で対抗したんだろう。フェアな勝負だぞ。単純にトリマルの方が遥かに強かっただけだ。手加減してたんだからな」


「なんと……!」


 目を丸くした後、ダイテイオーは笑い出した。

 ひとしきり笑った後、


「勇者よ。俺を石に変えてくれ」


「おっ、そりゃまたなんでだ」


「俺は戦いが好きだ。戦いが満ちた世の中を愛する。だが、この世界の戦いはしばらく起こらなくなるだろう。俺の居場所などない。ならば、何百年かしてまた戦いの時代になった時に目覚め、俺の力を振るいたいのだ!」


「なるほどー。それ、いいな!」


 俺はダイテイオーの意見を採用した。

 そして、多くの兵士、魔族たちが見つめる前で、ダイテイオーを石像にする。

 俺の考案したイシニナールという石化魔法だ。


 時限はそうだな、500年にしておこう。

 500年の間は、何をやってもダイテイオーの石像に傷ひとつ付けられなくなる。


 こうしてダイテイオーは神の怒りに触れ、石に変えられた……ということになった。

 魔族と人は和解し、グンジツヨイ帝国の近くに魔族の集落ができた。

 戦争の落とし所としては、こんなものだろう。


 何しろ、城壁がぶっ壊れたくらいで、死者は実質的にゼロ人なのだ。

 全員俺が復活させたからな。


 そして俺はというと……。


「ホロホロ!」


「おっ、トリマル! スッキリした顔してるな。どうだ、帰るか?」


「ホロ!」


「よしよし! じゃあ俺の頭に乗れ! いやあ、お前を頭に乗せていると、卵を孵した頃を思い出すなあ……」


 俺はしみじみしながら、我が家の長男とも言えるトリマルを連れ、勇者村に帰還するのだった。


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