第486話 グンジツヨイ戦争、いい感じに進む

 神様視点で戦争を眺める俺。

 死んだ連中は復活させ、アイテムボクース内に設けた待機部屋に入れてある。

 これは人間も魔族も一緒だ。


 なぜか?

 魔王が死んだし、そろそろ魔族連中も自由意志で動き出している頃であろうと思うからだ。

 多分、こいつらもユイーツ神の加護でこっちにいつき、他の種族と子どもを作れるようになっているのではないか。


「なあ、そこんところどうなの?」


『あっ、仰るとおりです、はい! なんか復活させてもらってすんません』


 山羊の角が生えた大柄な魔族がペコペコ頭を下げてくる。


「いいんだよ気にすんな。そっか。お前らも人間と子ども作れるようになったか。じゃあ立派なワールディアの一員だな!」


『あー、考えてみればそうなるんですねえ。マドレノースが滅んだんで、自分らはもう宇宙に出ていけないですからねえ。この星に骨を埋める他ない。気が早いやつはドワーフの女と駆け落ちしましたね』


「駆け落ち!! そりゃあ結構なことだ」


 魔族残党連中の結束なんかもガッタガタになっており、そこにダイテイオーがやって来て魔族の国なんていう甘言を囁いたんだそうだ。


『冷静になってみりゃ……魔族の数だと国なんか無理ですねこれは。どっちにせよ他の種族と一緒に生きていかないとダメじゃないですか』


「そうそう。そういうことなんだよ。あちこちに残ってた魔将は中途半端に強いから、次の魔王になろうとしたりしてたけどな」


『ははあ。でもあれでしょ。勇者さんが全部殺したでしょ』


「そうだぞ。超越的な力があるのに野心があるやつなんか危険極まりないからな」


『怖あい……。ところで、人間側の指揮をしてるやつ、大した腕ですね』


「おう。先代グンジツヨイ皇帝から戦略や戦術を叩き込まれているやつだ。本人の強さ的には凡人もいいところだが、頭の回転と胆力は凡庸じゃない。それで、大局を見ながら軍隊を指揮してお前を包囲し、追い込んだわけだ」


『いやあ……兵士を何人か殺しましたが、やたらと粘るからそっちに掛かりきりになりましたからね。その間に自分も殺されました。人間、群れると本当に強くなりますねえ』


「だろ?」


 他の魔族たちも揃って頷く。

 人間の怖さみたいなのを思い知ったようだ。

 戦意を失っているし、今後はムダな争いをしたりしなくなるだろう。


 おっと、またぞろぞろ死んだぞ。

 俺は外に出て、死者をポイポイとアイテムボクースに放り込んだ。

 そして復活させる。


「どうだ。ここで戦況のハイライトが流れている」


「オー」『オー』


 兵士たちや魔族たちは、十人ごとくらいに別々の部屋にいるんだが、みんな異口同音で感嘆している。


「凄い用兵ですねこれ」


「だろ? グンジツヨイ帝国軍司令官ニルスの仕事だ」


「上帝陛下の威光を嵩にきたいけすかないどこぞの馬の骨だと思ってましたが……。これ、俺ら兵士の力を十二分に引き出してますよね。あっ、魔族をまた包囲した。敵の特性に合わせて各個撃破してるのか!」


「ケンサーンは平時の名君だろうが、ニルスは戦乱が起こると英雄になれる男だ。カリスマだけが無いからな……」


 あいつが歴史の表舞台に出るには、まだまだ時間が掛かるだろう。

 だが、今回のグンジツヨイ戦争とでも言うべき戦いは、ニルスの名を轟かせる始まりとなる。


「おお、夜になった。また帝国軍が守りに入るな」


『夜は我々魔族の時間ですからね。ここから押せ押せですよ!』


 暗くなると、魔族は月から魔力を享受できるようになる。

 こいつらは何倍にもパワーアップするわけだ。


 おお、今度は防衛についている兵士たちが死んでいく。

 俺はまたこいつらを拾い集めてきた。

 復活させる。


 一晩中の戦いが終わると、朝だ。

 朝担当の兵士たちが外にウワーッと溢れてきた。

 夜通し攻めていた魔族は魔力切れで、この兵士たちにやられていく。


「あ、いや、今回は動きがあるぞ!」


 俺は戦況を確認して唸った。

 槍のように鋭い陣形を組んだ一団が、戦馬にまたがって猛然と戦場を駆け抜けていく。


 撤退する魔族たちの動きをも突っ切る凄まじい速度だ。

 これは、ダイテイオー軍の本陣を目指すつもりか。


 魔族側は数を減じている割合が大きく、これを止められない。

 なるほど、ここを見越して力を溜めていたか、

 ここ数日間の戦いは、全てこの本陣突撃の布石だったのだ。


 やるな、ニルス!

 互いの本陣が近い戦争だからこそできるやり方だ。


 ついに、突撃隊がダイテイオーと接触した。

 おお、戦いが始まる……!


『あっ、ダイテイオーさん頑張れ! あ、いや、頑張っても魔族の国はそもそも無理だからなあ』


「我が軍がんばれー! 行け行け行けー!」


 俺は全ての部屋に存在しており、全ての部屋の連中とやり取りしている。

 魔族側が微妙なテンションなのに対し、人間側は大いに盛り上がっているな。


 人間側の成功体験、そして魔族側への厭戦感情の植え付けはかなり効果がありそうだ。

 突撃部隊がダイテイオーと戦闘を開始する。

 あいつ、取り巻きの一人も置いてないのか。


 魔族の部下を信用してないんだな。

 一人でどこまでやれるというのだ。

 負けるつもりだったんじゃないのか?


 あ、普通に突撃部隊を全滅させやがった。

 ダイテイオー個人がバカ強いのか。


 これはバランスブレイカーだなあ!

 だがまあ、戦争は一人ではできないのだ。

 それを、これからニルスが見せてくれることだろう。


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