第484話 ダイテイオーとの対峙

 俺がスパーっと行ってダイテイオーを粉砕してもいいのだが……。

 それでは何も解決しないのである!


 何せ、人に頼り切りってことになっちまうからな。

 いや、俺はそのうち神様になる可能性があるんだから、神頼みか……。


 ここはグンジツヨイ帝国に頑張ってもらわねばならない。

 俺はちょこちょこ手を貸すくらいはできるからな。


 皇帝ケンサーンは臣下の連中を集めて、会議を始めている。

 俺はスーパーバイザーとして後ろに控えているのだ。


「開戦は避けられないか……」


「陛下。ダイテイオー軍はこちらを見下ろす場所に陣を敷いております。数は多くはありませんが、明らかに人間ではない魔の者の軍隊……! ダイテイオー殿は魔王に魂を売ったのでは……」


「ぐぬぬ……!! 兄上は戦の天才。それと戦うというのか、この私が……!!」


「いけるいける」


 俺は応援した。


「ゆ、勇者殿の魔法で敵を一掃……」


「お前、今後も俺を頼るつもりか? ある程度は手を貸すが、それは人智を超えた次元の奴が出てきた場合だけだ。人間同士の争いなら、もう俺は手出ししない」


「ぐぬぬ……!!」


 胃が痛そうなケンサーン。

 一度は戦争を経験しておいた方がいいぞ。

 現実に今、避けられぬ戦いが軍事強い帝国を襲っているのだからな。


 それに、この国の軍隊は強い。

 めちゃくちゃに強い。

 間違いなく世界最強である。


 ケンサーンもそれを知っているのだろうが、総司令官である皇帝が自分なので、その辺りの自信が無いのだ。


「いいかケンサーン。皇帝は確かに総司令官だが、それは先代がマジモンの傑物だっただけだからな? 親父のマネをしようとするな。なんなら才覚があるやつを将軍に任命してだな……」


「な、なるほど!」


 ケンサーンがハッとした。

 そして宰相と相談をして、誰を将軍職に据えるかを決定したらしい。

 グンジツヨイ帝国が動き出した。


 さて、次は、ダイテイオーの様子を見に行こう。

 俺は城を飛び出して、ダイテイオー軍の陣地にやって来た。


 なるほど、明らかに魔族と思われる連中がわさわさといる。

 こいつらは本来この星、ワールディアには存在しない生物だ。


 魔王マドレノースが引き連れてやって来た連中だな。

 それがすっかり世界に定着してしまったわけだ。


 ファンタジー的なこの世界の生き物と違って、魔族は俺の故郷である世界でいう悪魔みたいな外見をしている。

 あとは現地のモンスターが魔王に力をもらった奴らもいて、こいつらはあくまでモンスターね。

 東方の地の妖怪とかもそう。


『と、突然空に現れた!!』『うがああ攻撃だ攻撃!』『うおおおお』『ま、魔法が通じない!』『矢も跳ね返されているぞ!』『くそっ、空中戦を………』


「ツアーッ!!」


 俺はチョップで迎え撃った。

 敵の魔槍らしきものを叩き折り、俺のチョップは翼ある魔族の胸板を叩く。


『ウグワーッ!?』『あっ! 戦闘隊長がやられた!』『耳から血を吹きながら落ちてくるぞ!』『馬鹿な、チョップ一発で!!』


「よく聞け魔族よ。俺は元勇者のショート!」


『な、な、な、なにぃーっ!!』


 揃って驚愕する魔族たち。

 うむうむ、驚いただろう。

 お前ら魔族を徹底的に追い詰めて世界から駆逐し、最後には親玉であるマドレノースを一騎打ちの末に仕留めた、まさに魔族全ての天敵が俺だからな。


 だが……。

 今の俺はその辺りは水に流してもいいと思っている……。

 魔族、かなり少なくなってるしな。


「俺は今回、ダイテイオーに事情を聞きに来たのだ。一応グンジツヨイ帝国側だが、必要以上の手出しはしないからな。公平を期すために……」


「なぁにが公平だ、勇者ショートよ」


 野太い声がして、奥にあった大型テントからのっそりと巨体が姿を現した。

 黒々とした髪に、豊かなあごひげ。

 顔に走る刀傷。


 恐らく、若き日のグンジツヨイ上帝がこんなんだったのだろうと思わせるような偉丈夫だ。


「おお、久しいなダイテイオー」


 俺も降り立った。


「お前のことだ。力で魔族を従えたか」


「そういうことだ。こいつらにはもう頭がいねえ。魔将はめぼしいやつをみんな、あんたが殺してしまっただろう」


「うむ。知略系の奴が多かったからな。正面から対決すると割りと楽勝だった」


「知略を謀略で破り、影にいた魔族を引きずり出したお前がよく言う……」


 ニヤリと笑うダイテイオー。


「それで今日は、俺たち魔の軍勢を滅ぼしにでも来たか?」


「いや、ダイテイオーが今更何をしに来たんだろうって気になってな……」


「ははあ、その顔、本当に興味本位で来たのか……。一人で飛び込んできて、危険だとは思わなかったのか? ……思うわけないよな。マドレノースすら打ち倒した、この世界最大の化け物であるあんたが」


「はっはっは」


 俺が笑ったら、魔族たちが一斉にビクッとした。

 怖がっている……。


「で、どうなんだ?」


「ああ。今の腑抜けたグンジツヨイ帝国を見ていられんだけだ。俺程度を討てぬようなら、帝国は一度更地にして魔族の国に作り変える。力こそが重要だ。安定すれば世界は腐る」


「なるほど」


 根っこでは俺に近い考え方をしてたんだな。

 ダイテイオーのうちにある思いは、己の権力欲ではなく、落ち着き丸くなっていくグンジツヨイ帝国を見ていたくない、という思いだ。

 誰よりも国に愛着があるんだなこいつは。


 だとすると……。

 今まさにグンジツヨイ帝国内で着々と牙を研ぎつつ、未来の覇王として育つニルスの存在を知ったらどうなるだろうな。

 ちょっと楽しみになる俺なのだった。


 そうだ、この機会にこいつらをぶつけよう!

 死者は戦後に蘇らせておけばいいや。


 俺はそう決めたのだった。


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