第483話 グンジツヨイ帝国の乱!?

 なんかグンジツヨイ帝国の現皇帝、ケンサーン。

 皇家の三男であり、本来は皇帝になるはずではなかった男だ。


 実直で、真面目。

 人が良く、奥方も普通っぽい感じで優しい雰囲気の人だ。

 なんか俺の英雄伝説に憧れているらしいけど。


「勇者様!! 勇者様ーっ!!」


「おう、なんだなんだ。めちゃくちゃ慌ててるじゃん」


 生真面目で、常に俺への敬意を忘れない。

 なんというかこの男、後輩気質なんだよなあ。

 家臣タイプと言うか……。


 政策も、臣下に執政担当の官僚を何人も抱え、彼らと協力して行っているらしい。

 実質、合議制みたいなもんだな。

 革新的な執政はできないだろうが、国を安定させ、維持していくことなら得意であろう。


「実は……我らグンジツヨイ帝国には第一皇子がいたことはご存知かと思うのですが」


「おうおう」


 グンジツヨイ帝国は、魔王軍との戦いで最前線を支えていた一国だ。

 今は引退して、裏で未来の覇王を育成している上帝は、そりゃあ凄かった。

 半端な魔族なら本人がその剛力と帝国に伝わる魔剣を使って、なぎ倒していたからな。


 その皇帝には、息子が三人いた。

 ケンサーン以外に、次男のハナメデル。

 今はハジメーノ王国の王配をしているが、優しい男だ。

 彼は本当に争いに向かない。


 で、長男。

 本来ならグンジツヨイ帝国を継ぐはずだった男、その名はダイテイオー。

 もう、お前が皇帝にならずして誰がなるんだって名前のこいつは、魔王大戦終結後しばらくしてから出奔してしまったらしい。


 大戦中も何度も死亡説が流れ、その度に戻ってきたり、また死亡説が流れたり。

 とにかく無茶をする男で、死地に自ら飛び込んでいく。

 そして生還する。


 凄いやつではあった。

 だが、今のグンジツヨイ帝国には向かないだろうなあ。

 なんというか……上帝に預けているニルスとは違って、猛将タイプの男だったのだ。


「ダイテイオー兄者が生きておられたのです!」


「ほうほう、またか」


「そのダイテイオー兄者が、謎の軍勢を率いて現れまして」


「なんだって」


「私に譲位を迫ってきたのです!!」


「一大事じゃないか!!」


 ということで、俺はグンジツヨイ帝国に向かうことになったのだった。


 今、ケンサーンと話をしているコルセンターの魔法を用いて移動する。

 この窓枠をぐいっと広げてな。


「あっ!」


「ツアーッ!」


 世界の距離を飛び越えて、俺がそっちに降り立つのだ。


「あーっ!! こ、この魔法にこんな力があったなんて……」


「あったんだぞ。だが、俺からそっちに繋いで勝手に来るのでは、その国の面目というものが立たないだろう。だから移動は全てバビュンでやっていたのだ」


「勇者様の気遣いだったのですね……」


「そうなる……」


「ゆ、ゆ、勇者様! ああ、勇者様がいらっしゃったわ!」


 あっ、皇妃が目をキラキラさせている。

 顔立ちも態度も、なんかこう素朴な感じの女性なんだよな。

 俺は結構こういう人間性は好き。


「陛下、陛下、わたくし、勇者様のお話を直接聞きたい」


「お、おう! 勇者様! 事が終わったら、后にどうか英雄としての冒険譚を語って頂けまいか」


「いいぞいいぞ」


 しかしケンサーン、この奥さんどこで見つけたんだろうな。


「でだ。ダイテイオーが戻ってきた話だろ」


 話を戻すことにした。

 色々過去の思い出話ばっかりで終わっちゃうからな。


「はい。最初に現れたのは使者でした。私の前でも兜を脱がぬ騎士で、無礼だと大臣が発したところ……脱いだ兜の下には頭が無かったのです!」


 思い出すも恐ろしい、という感じでケンサーンが言った。

 そうだなあ。

 予定通りじゃない流れ、不得意そうだもんなあケンサーン。


 相手は人間じゃなかったということだ。

 つまり、ダイテイオーは人間ではないものを使いとして送ってきて、国を寄越せと言ってきた。


 その使いだけでは信用できなかったが、使いが指し示した丘の上に、ダイテイオーがかつて率いたグンジツヨイ帝国第一王子直属部隊の旗が見えたと。


「先頭の馬にまたがる鎧姿は……間違いなく、魔王大戦の時になんども見た兄のそれでした……! 兄は帰ってきたのです! そして、私を皇帝に相応しくないと……!」


 ガクガク震えるケンサーン。

 

「落ち着け」


 俺は彼の脳天をチョップした。


「ウグワーッ!」


 玉座から転げ落ちてのたうち回るケンサーン。 


「へ、陛下ーっ!」


「なんて恐れを知らない男だ」


「勇者だもんな」


「魔王を単体で滅ぼした本物の怪物だからな」


「皇帝の脳天にチョップをするくらいは朝飯前ということか……」


 大臣と官僚たちが震え上がっている。

 チョップは衝撃的過ぎたな……。


「だがケンサーン、落ち着いただろ」


「は、はい……! 私の中にあった恐怖みたいなものが、脳天の痛みによって追い出されました」


「うむ。恐怖なんてのはそんなもんだ。では、色々対策を考えていこう。ここはお前が皇帝として最初に超えなければならない障害だ。あれだろ? なし崩し的に皇帝の位を受け取ったみたいに考えてるだろケンサーン」


「な、なぜそれを!!」


「新生グンジツヨイ帝国の皇帝はダイテイオーじゃダメだ。お前じゃなきゃいけないんだよ。俺はそう思う。他の連中にも思い知らせてやろうぜ」


 俺は彼の肩をバンバン叩いた。

 グンジツヨイ帝国を襲ったとんでもない事件。


 こいつは絶対に解決しなくてはなのだ。


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