第482話 パピュータとサイトの旅立ち

 宇宙船村までひとっ飛びした。

 そして透視魔法で隅々までサイトを探すと、あいつ、お姉さんと遊べるお店にいたな。

 俺はのんびりと彼が出てくるのを待つ。


 スッキリした顔でサイトが出てきたので、「よう、お疲れ」と声を掛けた。


「うおーっ!!」


 サイトが飛び上がって驚く。

 そこまで驚かなくてもいいだろう。


「なんだ、村長か……」


「そうだ、俺だ。実はお前に折り入って頼みたいことがあってな」


「なんだよ……。せっかく週に一度の命の洗濯でスッキリしてきたところだったのに」


「命の洗濯、頻繁にやり過ぎじゃない? それはともかく、今回の話はお前にとって朗報だと思うぞ。何せ、いつまでも勇者村でくすぶっていなくていいという話だ」


「なにっ」


 サイトが目を見開いた。


「ま……まさか俺を村から追放するのか……!! 一人、嫁も取らず畑も耕さずにブラブラしてるから……」


「お前は多分スローライフが向いてないんだろうなあと思ってな。追放というか、旅立つ奴がいるからそいつの護衛になって一緒に旅をしてくれという話だ」


「なーんだ」


 胸をなでおろすサイト。

 俺がお前を追放するわけ無いだろう。


 全ての魔法を打ち消す体質を持ち、さらに身体能力自体も極めて高い男、サイト。

 遅れてきた勇者パーティの戦士要員と見られる彼は、魔王討伐に間に合わなかった。

 そのせいで、サイトは活躍する場もなく燻っていたわけだ。


 勇者村に来ても、ここは基本的に過剰戦力なのでサイトの出番はない。

 そうなると彼はさらに燻らざるを得ないと。


「確かに……旅に出るというのは考えてないわけじゃなかったな。サルナスは修行の途中だが、あいつを鍛えられるやつなんか勇者村に幾らでもいるだろうしな。俺はまあ、旅をする宛がなかったんでずっと村に留まっていたが……」


「目的ができたら話は別だろう?」


「だな」


 話が早い。

 サイトはもうやる気だった。

 俺は彼に宇宙船村で宇宙船蕎麦なるものを奢り、壮行会の代わりとした。


「村長、先に戻っててくれ。俺はのんびり歩いて帰るからさ。で、外に行くってのはパピュータだろ? クロロックがそんな感じのことを言ってたもんな」


「察しがいい。じゃ、俺は先に行って待ってるからな」


「ああ」


 俺は飛び上がると、すぐさま勇者村に戻った。

 パピュータはいそいそと旅立ちの準備をしている。

 とは言っても、日差しを防ぐためのコートと背負い袋、そして筆記用具に水袋くらいだ。


「装備が少ないなー」


「僕は水さえあればしばらく生きていけますからね! からね!」


「そこら辺り、両生人は強いよなあ。日差しには弱いが」


「そこはこの遮光コートでがんばります! ます!」


 やる気満々のパピュータである。

 クロロックもやって来て、


「あなたが旅立ち、無事に旅を終えて戻ってくることがワタシの願いです。どうか健康で」


「がんばります! ます!!」


 師弟は握手したあと、抱き合った。

 美しきかな……!


 とりあえず、彼らが別れを惜しんでいる間に色々準備をすることにした。

 主にサイトの武器の槍な。

 俺はちょっと宇宙まで飛び立って、その辺りの小惑星から金属成分を集めてきた。


 こいつをぐっと丸めてニューっと伸ばして……。

 その過程で真っ赤に燃え上がるのだが、そうなると柔らかくて幾らでも調整できるようになる。

 こいつを俺の魔力で鍛える。


 魔力を込めたりすると、サイトの魔法消去の力で打ち消されてしまうからな。

 だからあくまで、究極に鍛え、磨き上げた逸品にする。


 そうすると……。

 長さ2mほどある槍になる。

 柄に風をイメージした紋様を刻み込んでおいたぞ。


 そうだな……。

 命名は、グレートショートスピアでどうだ。

 ショートは短いわけではなく俺の名前だ……。


 降りていくと夕飯時だった。

 飯を食い、マドカたちと遊び、寝かせつけ、カトリナと夫婦の時間を過ごしてから朝。


 サイトが戻ってきた。


「一晩中歩き回ってたのか」


「まあな。色々考えることがあってよ。一晩寝なかった程度ではなんともねえよ」


 そこは心配していない。


「じゃあサイト。俺からの手向けだ。こいつを使ってくれ」


 グレートショートスピアを手渡す。

 受け取り、目を丸くするサイト。


「こ……こいつは……!! とんでもねえ業物だ!」


 槍を振り回し、突き出し、振ったりして確かめるサイト。

 どうだどうだ。

 手にすれば軽く、突き込んだ瞬間に敵には重く突き刺さり、しなって手元へ戻る。


「いいのか?」


「ああ。銘を、グレートショートスピア……」


「だ、だせえ」


 なんだとぉ!?


「ま、適当に名付けておくわ。ありがとうな、村長! こいつがあれば誰にも負けねえよ」


「おうおう。こいつで頑張ってくれよな。オーバーロードの宇宙船の装甲程度なら……そうだな、三枚まではぶち抜ける」


「なんだか分からんが凄そうだ……」


 凄いぞ。

 実質単物質槍みたいなもんだからな。


 こうして、パピュータとサイトは並んで街道を歩んでいく。


「厄介事にはバンバンハマってくれよな! 俺が蹴散らしてやるからよ」


「いやいや、安全第一ですよ! ですよ!」


「えー! 俺の活躍がなくなっちまうじゃんか!」


「平和が一番です! です!」


「いやいやちょっとだけちょっとだけ……」


 なんか言い合いながら遠ざかっていくな……。

 まあ仲良くやって行ってくれるだろう。



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