第481話 村長の帰還
フォレストマンの暮らしを堪能した。
二週間くらい過ごしたな。
カトリナも持てる限りの技術をこの地の奥様方に伝えたようだ。
きっと漬物文化はしっかり根付いてくれることであろう。
「いやあ、自分、いい仕事をしました! した!」
パピュータも満足げだ。
クロロックの代理としてバッチリ活躍したもんな。
畑の賢者は、きちんと自分の後継者を育てているのだ。
「パピュータはあれか? ある程度できるようになったら、諸国を漫遊したり」
「したいですね、ですね! 師匠も世界を見てきたほうがいいと言ってますし、ますし!」
「なるほどなあ。だがパピュータほどの学問を身に着けた者が、一人で世界を旅するのは危険だな。サイトあたりをつけてやろう」
「サイトさんですか、ですか!?」
「ああ。あいつは力を持て余してるし、身を固める気が全く無いようだからな。むしろパピュータの諸国漫遊に付き合わせた方がいいだろ。ただでさえ、うちの村は過剰戦力なんだ。あいつほどの才能があると、使い所がなくて腐ってしまうかも知れないからな」
思いつきだったが、これはなかなかいい考えである気がしてきた。
「ショートはまた難しいことを考えてるの?」
カトリナが俺の表情を読んできたな。
だけど、今回はそんな大きな問題でもない。
「まあな。クロロックは次々に弟子を育ててるだろ。でも、その才能を勇者村だけに置いておいたら、特殊環境に慣れて腐るかも知れない。だから外の世界の見聞に出そうという話なんだ」
「なるほど、そうだねえー。うちの村は特別だもんね! 私はここにいるだけでいいんだけど……」
「普通の住民はもう定住するだけでいい。それは間違いない。フックとミーなんかもう全く村を出ないだろ」
「あの二人はやって来てから、ほとんど外に出ないねえ。宇宙船村を観光に行った時くらい」
「ああいうのが普通だ。村人はあんまり外に出たりしないんだよ。畑とか見ないといけないしな……」
「うちの家族はみんな旅行してるねえ」
「そりゃあ、村長の一族だからな!」
特別なのだ。
マドカはフォレストマンのちびたちと、ばいばーいと挨拶をしてお別れした。
ごきげんだ。
何せ、またいつでもすぐ会える。
それが分かってるから、泣いたりしないんだな。
ハートが強い。
シーナは姉の真似をして、むちむちした手を振っている。
大変可愛い。
こうして俺たちは勇者村に帰還した。
村は何も変わらない。
二週間くらいでは、景色の変化なんか起こらないのだ。
時間がゆっくり流れているからな……。
森から出てきた俺を最初に出迎えたのは……。
両親だった。
「なんだ翔人、お前、家族を連れて森に行ってるって聞いたけど帰ってきたのか」
「あら、マドカちゃんにシーナちゃん、今日も可愛いわねー」
「そうか、たまたま家庭菜園しに来る日だったか……」
「そうだぞ。日本では今日は土曜日だ。週休二日はありがたいな。こうして休んで土いじりに来られる」
「向こうでも土はいじれるだろ」
「土の質が違うんだよ。それにあっちは冬なんだ! 雪で土なんかいじれないぞ!」
「あー、そんな季節か!」
ワールディアは勇者村で言う乾季は、地球で言う四月から十月。
雨季は十一月から三月なのだ。
そして、俺の故郷は三月でもまあまあ雪が残っている。
いつだったか、四月にも雪が降ったことがあったな。
まあ、最近は暖冬だという話だが。
両親は土いじりを求めて勇者村に来たら、息子が家族を連れて森に旅行に行っていると聞き、孫に会えずにちょっと落胆したところへちょうど俺たちが帰ってきたというわけだった。
「ばあば! じいじ!」
ぴょーんとうちの母に向かってジャンプするマドカ。
キャッチする母。
父が寂しそうにした。
「シーナはじいじに抱っこされるか?」
「んー」
シーナが指をくわえてぼーっとしている。
これは判断がつかない顔だな。
「どれどれ、父よ、シーナを預けてやろう……」
「おおー」
父がシーナを抱っこして、でれでれした。
孫ができると、みんな変わるもんだなあ。
まあ、俺もマドカとシーナにはでれでれだが。
そんなふうに賑やかにしていると、ポツポツと雨が降ってくる。
こりゃあいかん。
雨季の雨は超高確率でスコールになるのだ。
「食堂へ急げ!」
うわーっと走る俺たちなのだった。
案の定、食堂には村のみんなが集まっている。
「ショートじゃねえか! 帰ってきたのか」
「おう、二週間ぶりの帰還だ!」
ブルストとイエーイ、とハイタッチする。
うちの両親はちびっこたちを抱えて必死に走ったので、もう息も絶え絶えだ。
いい運動になっただろう。
雨宿りついでにのんびり休んでもらいたいもんだな。
さて、パピュータは雨の中を嬉しそうに走り回っているし、そこにクロロックがやって来たからあの師弟のやり取りは完了と見ていいだろう。
後はサイトに今後のパピュータの旅立ちのフォローを頼む……と。
「おや? サイトはいないのか」
「彼なら宇宙船村に遊びに行ってますよ。最近は向こうに入り浸ってますね。勇者村が退屈なのでしょう」
珍しく図書館から出てきているブレイン。
のんびりとお茶を飲んでいる。
「なるほどなあ。ならば、やっぱりサイトを旅立たせるのが良さそうだ。ここに連れてきたのは俺だが、あいつは一国に所属していても窮屈なばかりだっただろうからな」
雨が止んだら宇宙船村まで探しに行き、話をしてくるとしよう。
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