第480話 森の暮らしを堪能する

 朝。

 勇者村とは違った目覚めが楽しい。


 俺は今、家族と一緒にフォレストマンの集落で暮らしている。

 彼らに漬物を伝授するためだ。


 まあ、伝授はカトリナとパピュータの仕事で、俺は羽根を伸ばしているだけなんだが。


「だーうー」


「おっ、なんだシーナ。お父さんと一緒に行くかー」


「あーい」


 お母さんたるカトリナは漬物教室で大忙しだし、お姉ちゃんたるマドカは地元のちびっこときゃあきゃあ遊んでるしな。

 まだまだ赤ちゃんのシーナは、なかなか一人で時間を潰すのも難しい。


 俺はシーナを肩車した。


「きゃっきゃっ!」


 視界が高くなって大喜びのシーナ。

 魔法で固定してあるから、コロンと転がり落ちることも無いぞ。


 では、ぶらぶらと集落を歩き回りながらフォレストマンの暮らしを堪能していこう。

 まず、目覚めると彼らは顔を洗いに行く。


 そこは木々や蔓草、砂などが組み合わされており、フォレストマンの誰かがスイッチを入れると上から水が落ちてくる。

 湧き水を組み上げているのだな。


 で、湧き水が様々な物を通過してろ過され……降ってくるというわけだ。

 これを桶に溜めて、ついでに水を浴びて顔と体を洗う。


「きゃあー」


 シーナが俺の肩の上でごきげんだ。

 お父さんの頭で水をペチャペチャ叩いてはいけません。


 よく洗って、体を拭くのはなんと専用の植物があるそうだ。

 水滴を吸い取ってくれる。

 彼らは長年、フォレストマンとそういう付き合いをしてきたのだそうで、もうタオル状に進化してしまっているらしい。


 面白いなあ……。

 地面からタオルが生えている……。


 ちょっとチクチクするが、なかなかいい感じだ。

 あ、シーナ、バンバン叩いてはいけません。


 次に朝飯。

 キノコで作ったパンに、乾燥肉を水で戻したもの、ハーブなどを加えて食べる。

 お好みで、レモン味とかがする昆虫を一緒に食うらしい。


 俺は昆虫食が平気だが、王都の連中はダメだろうなあ。

 腹ごしらえをしたら、次の日の飯を探しに行く。


 主に狩りと採集だ。

 狩りは釣りでも構わない。


「うまま?」


「そう、美味いものを探しに行くんだ」


「あーいー」


 シーナ、二人きりだとよく喋るなあ。

 普段は喋るのをマドカに任せてるところがあるからな。


 さて、俺と同行するのはマレマ。


「フォレストマンの代表が来ちゃっていいのか?」


「お前ほどの男の相手をするのは俺しかおるまい」


「確かに……」


 お互い重要人物だもんな。

 さて、向こうに獣が見えてまいりました。


 鹿だな。

 ハシゴ神経で生きてる、昆虫から進化した鹿だ。


 複眼がこっちを伺っている。


「鹿はゆっくり動くとこちらを捉えられない。ゆっくり、ゆっくり近づく」


「本当に昆虫なんだな……」


「あいー!」


 シーナが手をバタバタさせたので、鹿はビクッとして逃げてしまった。

 あー、しまった。

 やはり狩りに赤ちゃんはいかんな。


 俺は森の中を突っ走り、逃げる鹿に追いつき、

「ていっ」とチョップを首筋に食らわせてはしご状神経を粉砕して捕まえた。

 体内に最小の範囲で衝撃波を放ったから、他はほとんど無事なはず……。


「スマンなマレマ……。いきなり狩りを失敗したら申し訳ないのでちょっと力を使ってしまった」


「ははは、構わない。逃げられるのはいつものことだ。それより、これもショートの贈り物だと思っておく」


「宿泊のお礼ということでどうだ」


「そうしよう」


 鹿を捕まえ、ウサギ(昆虫から進化したもの)も数羽捕まえた。

 このウサギは本当に耳で空を飛ぶ。

 もしかして、蝿の仲間から進化してないか、こいつ?


 他に、カマキリから進化した熊なんてのもいるらしい。

 面白いなあ、生態系!

 なお、ジャバウォックはそういう進化系統とは完全に切り離されていて、どこから現れたか全くわからない種類の生物らしい。


 爬虫類と哺乳類の色々な特徴をぐちゃぐちゃに混ぜたような見た目してるもんな。

 もしかしたら魔物なのかも知れないなあ。


 飯のタネを集めたところで、昼食だ。

 集落から持ってきた弁当を三人で食う。


 勇者村みたいに、しょっちゅう違うものを食うってことは珍しくて、同じものをひたすら食べたりする。

 ということで昼もパンと肉とハーブだ。


 ちょっと味付けが違う。

 うまいうまい。


 シーナもむしゃむしゃ食べた。

 うちの赤ちゃんは好き嫌いしないからなあ。

 その後、おしめを取り替えたりなどするのだ。


「獣は持ち帰りきれないなら、解体する。肉になる部分をなるべく多く持ち帰る。他に人数が入れば、加工できる部位を持ち帰る」


「なるほどなあ。じゃあ鹿はこの場でバラしていくか」


 俺とマレマが持っているのは、背負い籠くらい。

 これに肉などをギュッと詰め込む。


「ハーブとかは採っていかなくていいの?」


「そちらは狩りに向かない者たちの担当だ。狩りをできる体をした者は狩りをする。それがフォレストマンの鉄則だ」


「たしかに、道理にかなっているなあ。みんなで何か仕事をやれたほうが達成感あるもんな」


「そういうことだ。みんなが仕事をしている方が、集落は上手くいく。みんなが責任を持っている。これは大切だ」


 おお、重要な考え方。

 うちの村もそんな感じだもんな。


「んおー?」


「シーナもな。そのうちな!」


「あーいー!」


 分かってるんだか分かってないんだか。

 だが、シーナなら喜んでお仕事しそうだよなあ。


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