第479話 フォレストマンたちに漬物を教える
カールくんとバインがちょこちょこ通っては、むしゃしゅ行なるものをさせてもらっているフォレストマンたち。
大変なお世話になっているので、ここらでお返しをしたいと思うのだった。
我が村では今、とても漬物が美味しくできたので、これの製法を彼らに教えるのはどうだろう。
森の中ならば漬物もバッチリいける。
「ということで、フォレストマンにも色々お返しをしたい」
「いいね!」
俺の提案にカトリナがうんうん頷いた。
俺のことを一番良く分かってくれる奥さんである。提案がマズい時にはちゃんとダメ出ししてくれる。
頼れる奥さんである。
「誰かが漬物を教えるために滞在する必要が」
「私が行こうか! あ、でもシーナがむずかるからなあ……。一緒に行こうかなあ」
「森の中の環境は、まだ赤ちゃんに毛が生えた感じのシーナにとってどうか分からんしなあ。いや、間違いなく全然大丈夫だろうが。俺とカトリナの血が流れてるなら信じられないくらい健康だろうからな……!」
「そうだね! じゃあショートもちょっとの間、一緒にいればいいじゃない。心配と言うか、私たちと離れるのが寂しいんでしょー」
「おわかりになりましたか」
ははは、ふふふ、と笑い合う俺たち。
すべて見抜かれているなあ。
付き合いも五年になるもんな。
ということで!
俺とカトリナとマドカとシーナ、そしてクロロックの右腕であるイモリ人のパピュータを連れてフォレストマンのもとに向かったのだった。
「マドカー!」
「ポラポー!」
仲良しなフォレストマンの子どもと出会えて、大喜びのマドカ。
他のフォレストマンのちびっこもワーッと出てきて、みんなでキャーッとはしゃぎまわる。
この光景を、フォレストマンの代表となっている男、マレマが目を細めて眺めている。
「平和な光景だ。ショートたちに出会わなければ、我々は今も息を潜めて森の中で暮らしたことだろう……」
「ジャバウォック取り過ぎたからな……。自然破壊してスマンな」
「放っておけばまた増える。その間に我らはお前たちから、ジャバウォックと戦うための術を身につける。恐れを知らぬまま育つことは危うい。幼子たちにもジャバウォックの恐怖を教えてはおきたいが……危険を味あわせたりはしたくない」
「ああ、その辺りも付き合おう。その代わり、たまにうちのちびどもの合宿に付き合ってくれ」
「もちろん! それくらいのことはいくらでもやる! 任せろ!」
「ありがたい」
勇者村は人種というか、種族のるつぼだ。
だが、それでも同じ村にいると価値観が近くなってしまう。
こういう、隣に全く違う価値観で暮らす人々がいることはとても大切である。
しかも、彼らは俺たちと争うことはない。
できうる限り、佳き隣人としてあってほしい。
そのために……。
「今回はお漬物を教えます」
「ツケモノ!?」
「いかにも……。ここなるイモリ人、パピュータに監修してもらいつつ、この環境に合ったものをお漬物製法をアジャストしていく」
「ほうほう……」
「これが完成予想品だ。食ってみろ」
「ほう、どれどれ……むむむっ!!」
パリポリとした歯ごたえに、酸味。
独特の香り。
「かなり癖はある。そして香りや酸味は腐敗した食物に似ている。だがこれは……お前たちが食べているということは、安心して食べられるものなのだな。我らがキノコを腐らせて食うものと同じなのだろう。しかし……刺激的な味だな。森の中では味わえぬ強い刺激だ」
「フォレストマンにも発酵文化が!」
「あるんですね! ですね!」
パピュータが声を張り上げたので、マレマがビクッとした。
「すまんな、パピュータはとても声がでかいのだ……」
ということで、森で採れる果実を漬物にすることにした。
調理は、フォレストマンの女性たちと親しいカトリナが実践して見せる。
森で作れる石の包丁を使い……。
「こういう感じで」
「おおーっ」
「お塩を使って漬け込んでね」
「そんなに塩を!」
幸い、森は塩に困っていないようだ。
俺がこの間地の底で、岩塩が溜まっているところを見つけたからだ。
この森、何千年も前には海の底だったらしい……。
フォレストマンたちからすると、塩味は大変刺激的なのでちょっと使うくらいらしい。
漬物はめちゃくちゃ使うぞ。
これを、彼らの主食であるキノコで作ったパンに乗せて食う。
ちなみに彼らの発酵文化は、キノコの粉末を水で溶いて発酵させ、これを焼くのだそうだ。
炎をあまり使わない文化なのだが、森のある場所には長時間陽の光が差し込む。
ここに特殊な透き通った石の盆を敷き、水をたたえて天然のレンズとする。
その下に発酵した粉を練って置いておけば、焼き上がるというわけだ。
面白い作り方だ……。
食べさせてもらったのだが、キノコのパンは珍味だ。
食感がパンなのに、風味がちょっとキノコなのだ。
素朴な味だから食べ飽きないな。
漬物を乗せて食ったら、イケた。
ピクルスはパンと合ったりするもんな!
「では、しばらく俺たちはここに滞在するんで、このパンを最高に美味しく食べれる漬物を一緒に作っていこう!」
細かい加減はパピュータが見極める。
今回は浅漬けを作る程度に留めて、しかしこの環境でいかにおいしい漬物を作り上げるのか……!!
やりがいのある仕事である。
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