第478話 野菜を加工せよ
三日を掛けて、雨季の野菜の刈り取りを終えた。
同時進行で、この野菜の加工が始まっている。
何せ熱くて湿度も高い。
野菜の足は早いのである!
収穫は中盤から男衆の担当になり、力と体力に任せてひたすら刈り取る!
女衆がこれを受け取り、洗い、カットし、ひたすらに漬物にしていく……。
「大物来たぞ! オバケキュウリだ! 2mくらいに育っちまったのがある!」
俺が放り投げたキュウリを、「はーい! 任せて!」とカトリナがキャッチする。
そこをパメラが、ミノタウロスの膂力に物を言わせた大型のナタで叩き切るのだ。
大味だが、漬物にしてしまえば問題ない。
色々な種族がいるうちの村だからこそできる芸当だな。
繊細な漬け込み作業は、ミーとスーリヤが次々に行っていく。
ここに、発酵所から出動した研究員の面々が加わり、ずらり並んだ壺が次々と漬物で満たされていくのだ。
最終日全員で作業をして、これにて完成です。
「勇者村半年分の漬物だ。これでしばらく寝かせたら乾季に食えるようになる……」
なお、今食べているのは前の雨季に収穫したやつね。
こうして食べ物を収穫、加工して勇者村の一年は巡っていくのだ。
「おとたん、すぐたべやえないの?」
「うむ、これは取っておくものなのだ」
「ンー」
収穫したというのに大部分は食べてはいけない、というのがマドカとしては不思議でならないらしい。
漬物とか保存とか、そういうのは三歳児にはまだ早かろう。
もうすぐ四歳だったっけ。
じゃあ分かるかな……。
「おや、マドカさんは漬物に興味があるのですか」
「おつけものすき!」
「うんうん、素晴らしいことです」
おお、クロロック!
「どうです、ショートさん。ワタシがマドカさんに漬物作成体験をしてもらうのは。浅漬けで参りましょう。これはショートさんのご母堂から伝授された技ですが」
「母から!! 頼むぞ……」
ということで、クロロックがマドカに漬物英才教育を施すことになったようだ。
これに興味を持ったのか、他にサーラもついていった。
我が村の未来の女子代表二名が漬物をマスターするなら心強い。
途中でちょっと覗きに行ったら、クロロックに教えてもらいながら、二人とも真剣な顔で壺に手を突っ込んでいた。
食べ物をクリエイトする作業である。
ずっと食べる側だったマドカとサーラとしては大変に新鮮だろうな。
何かを作るというのは、特別感もあるだろう。
いつもならすぐに遊んでしまう二人がこんなに長い間真面目だとは……。
ジーンとする俺なのだった。
学びの力というやつは凄い!
感動しながら戻ってくると、フックとミーが何やら地下倉庫の奥から壺を掘り出したらしく騒ぎになっていた。
なんだなんだ……。
「村長、大変だ。この壺……明らかに古い」
「あっ、本当だ」
見せてもらった壺の作りがちょっと拙い。
つまり……俺たちの焼き物の腕が上がる前に作った壺だということだ。
「中には何が……?」
「今開封するところなんだ。見ててくれ……」
壺にされていたのは、恐らく俺が作ったのであろうピッタリサイズの栓。
それを抜こうとするが……むむっ、固くて抜けないようだな。
「貸してみてくれ」
俺は壺を受け取ると、グッと力を込めた。
フルパワーでは壺ごと粉砕してしまう。
細心の注意をはらいながら、栓だけを抜く……。
「微細振動魔法で栓と壺の間に空間をあけ、そして一気に引き抜く! ツアーっ!」
スポーンと抜けた!
中からは、なんともかぐわしい熟成した漬物の香りが……!
「これは……!!」
「しなびてる……!」
付け込まれている野菜は、野菜というか野草というか、勇者村がこうなる前に山で収穫された果実らしきものだった。
すっかり余計な水分が抜け、塩の中でいい感じのしなび具合になっている。
「ちょっとかじってみるか……。うおおお、しょっぱい! これは米が進む……!!」
凄いものが完成していた。
恐らく勇者村の三年ものだ。
「この壺一つで村の全員に行き渡るな……。あ、両生人は食べたらダメだぞ、干からびる」
「えっ!? そうなんですか!? ですか!?」
イモリ人のパピュータがびっくりして叫んだ。
何せ人間よりも水分量が多いからなあ……。
漬物に水気を吸われてしまう。
ということで、大人たちでこのしょっぱい漬物でちょっと飯を食おうという会が開かれた。
漬物をちょっと並べて、そこに玄米や麦をブレンドして炊いた飯を一杯。
そして熱いお茶。
しょっぱい漬物をかじって、ガツガツと飯を食う。
美味い。
仕事をして汗で抜けていった塩分が補給されていく感覚……。
いやあ、この食生活、体には悪いかも知れないが……。
堪らんものがあるな。
漬物、飯のあとでお茶を飲む。
美味い……。
俺が大変な満足感に包まれていると、若い衆が「肉がほしいな」「やっぱり肉だよな」とか言い始めるのだった。
ですよねー。
「年寄りには嬉しいですな。これを飯に乗せて、上から茶を掛けて……」
虎人のグーがお茶漬けの提案をしてきた……。
生まれちまうのか、異世界にお茶漬けが……!!
村の仲間に美味しく茶漬けを食ってもらうためには、あれだな。
酒だ。
酒を呑ませて締めで食わせる。
これだ。
「ショートがまた何か思いついた顔してる」
「分かる?」
「もちろん。なるべく美味しい思いつきであってほしいなー」
色々お見通しなカトリナなのだった。
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