第477話 雨季の野菜収穫
雨季も半ばを過ぎて、野菜が実り始めた。
勇者村の耕作地は広大であり、穀物ゾーンと野菜ゾーンに大きく分かれている。
さらに野菜ゾーンも、地下茎タイプと実がなるタイプで分けてあって……。
「雨季の野菜が収穫時期だ! 本日はこれより、収穫に移る~!!」
うおおおーっと盛り上がる村人たち。
収穫する気満々である。
この季節は、きゅうりとか、いつの間にか植えられていたシソとかイモ類が収穫される。
みずみずしい野菜メインだな。
今日の晩飯はサラダだ。楽しみ……!
ワーッと畑に散っていく村人たち。
芋掘りは子どもたちの仕事だ。
刃物を使わないからな。
あちこちで芋が掘り返されている。
この光景を見ると、勇者村の最初は芋から始まったなあなどと思い出すのだ。
キャッサバの仲間みたいな芋で、毒があるのを処理して食べられるようにしていた。
懐かしい……。
今はもう、食用の芋だ。
そのまま焼けば食べられる。
昔の芋は罠に使い、イノシシをゲットするために使われているぞ。
贅沢になったものだ……。
「はああー!」
「ビンずるいぞ! 念動魔法は禁止だー!」
ビンが念動力で芋を掘り出していて、ルアブに怒られていた。
アキムのところの次男ルアブも、すっかりでかくなったなあ。
この村に来たばかりの頃はまだ六歳とか七歳くらいだったか?
今はもう大人に混じって働けるほどだ。
子供の成長も早い。
そしてビンは勇者村で一番最初に生まれた子ども。
五歳になり、年齢不相応なほどの知力と人間性を持つ人生二周目疑惑のあるお子様である。
まあ、俺が助産師代わりに取り上げたので、その時に加減が効かずに俺のパワーが流れ込んだ赤ちゃんである説が一番濃厚だが。
「つかえる力はつかったほうがいいんじゃないの?」
「それはお前しかできないじゃん! それだとぜんぶビンがやった方がよくなるだろ!」
「あー、そうかもねえ」
おお、ルアブが理論でビンを分からせた!
ずるいぞ、はよろしくない言葉だが、お前の特別で全部やったら他の人がやれないだろはいいぞ。
俺の目指すスローライフは、みんなが再現可能なスローライフだからな……。
まあ、勇者村の土の質はおかしくなってしまったが。
ちなみに芋掘り、マドカがもりもり掘っていき、サーラはダリアと協力して、ちょこちょこと掘りながら芋を収穫している。
みんな自分のペースがあるのだ。
そうかあ、ダリアも芋掘り参加できるほどになったか……。
元勇者パーティの仲間、ヒロイナの娘で、勇者村ちびっこ軍団の中期デビュー組。
この開拓地を作ってから五年が経過したということは、それだけ色々な子が生まれ、育つということなのだなあ。
俺はしみじみしながら、大人組の作業しているところに向かった。
おお……きゅうりが見事に実っている……!!
鎌を手にして、ざくざく切り取っていくぞ。
作業をしばらくしていると、またポツポツと雨が降って来た。
雨ということは……。
「みんな、スコールが来るぞ! 避難ー!!」
わーっと屋根のある食堂に集まる村人たち。
その直後に、ドジャーっとバケツの底が抜けたような雨が降り注いだ。
いつものこと、いつものこと。
雨季は毎日こんなものだ。
そしてスコールはすぐに気が済むらしく、止む。
一度止めばその日はほぼ降らない。
のんびりと収穫ができるというわけだ。
……と思ったが……。
「今日のはちょっと長えな」
ブルストが呟いた。
確かに。
雨が降り止まない。
「じゃあ、おやつにしちゃおう!」
カトリナが宣言した。
雨の終わりをじっと待つより、せっかくなら収穫したてのお野菜を味わおうではないか!
そういうことである。
俺が連絡を取ると、雨の中に佇んでいたクロロックが行動を開始した。
発行所から味噌を持ってきてくれる。
そう!
採れたてのキュウリを味噌で食うのだ!
うめえー!
水分とカリウムと塩分が体に染み渡っていく……。
野菜は初日こそサラダにするものの、そのまま全部漬物に加工する。
新鮮野菜は今だけなのだ!
雨季はとにかく、ナマモノがすぐに悪くなるからなあ。
みずみずしいパキッと素晴らしい音がするキュウリを、もりもりといただく。
至福の時である。
最初に収穫した分が、全部俺たちの腹の中に消えた。
「しまった」
あまりに美味くて食い尽くしてしまった。
村人みんなで、やっちまったーという空気に包まれる中、雨が止む。
あちこちで、表面の雨粒を輝かせる野菜が見える。
そう、畑にはまだまだあるじゃないか!
収穫しきって、必要なものは追熟させて、熟しているものは漬物にして……。
やることはたくさんあるぞ。
スローライフは作物を育てるのも大事。
収穫してからも大事。
時間はまあまあたっぷりあるが、やることだって後から後からどんどん出てくるのである。
みんな大きなカゴを持ち、晴れ渡った空の下を収穫に出ていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます