第469話 立派に育てよロイロイ
道端にロイロイをもりもり埋める。
これが、雨季はじゃんじゃか雨が降るのですぐに水を得て育つのだ。
芽が出る。
にょろにょろと伸びて、太って茎になり、やがて花が咲く。
「早いなー」
「一ヶ月で収穫可能になりましたね。驚くべき生育度合いです。穀物としては破格に早いですね」
クロロックと肩を並べて感心する。
まあ、収量はたいしたことないんだが。
この一本で、手のひらの中央に収まる程度の量が穫れる。
「収穫量は改善できないのかな」
「これはおそらく、成長の早さで同じ種同士が食い合わないようにするため、意図的に出来上がる種の量が少ないのだと思いますね」
「そんなことが!」
「天敵が少ない植物なのかも知れませんね。何しろ、魔王が連れてきた植物ですから」
「そうかあ……。しかしこれを育てた側もよくやるよな。魔王の植物だから侵略してくるとは思わないのか」
「切羽詰まってたんでしょうね。そして一か八かで育てたら案外イケたと」
「なんというギャンブルだ」
収穫したロイロイを料理して、クッキーなどに混ぜて食う。
美味い。
かるーい食感は、ロイロイでなければ不可能だな。
食べながら思う。
これ、宇宙船村に売り込めないか?
いや、売り込むというよりは向こうで育ててもらうわけだが。
新しい食感は言うなれば娯楽だ。
食の楽しみを増やしていこうと考えた時、ロイロイはその選択肢になるだろう。
「クロロック」
「ええ、ワタシも考えていました。この作物を全国デビューさせましょう!」
俺と畑の賢者は、堅く握手を交わしたのだった。
「苗にして売り込むか」
「種のままでもいけますけれどね。では向こうで試食会を開きましょう」
そういうことになった。
話がトントン進んでいく。
宇宙船村に広まれば、そこから世界に向けて出荷されていくだろう。
そうなれば、誰もが気軽にロイロイの歯ざわりを楽しめる時代がやってくる。
待っていろ、世界!
食は娯楽でもあることを分からせてやる。
まずはさらに一ヶ月を掛けて、ロイロイを大量に育てた。
すごい量だ。
勇者村なら消費するのに一ヶ月は掛かるくらい大量にできた。
これをアイテムボクースに詰め、クロロックとともに宇宙船村へ赴いた。
相変わらず栄えている。
村という名前だがどう見ても街なのもいつも通りだ。
「あっ、これはこれは勇者様」
宇宙船村の入り口辺りには何人もの見張りが歩き回っており、彼らはみんな俺の顔を知っている。
さらに。
「あっ、こっちはカエルの人!!」
「勇者村から来たカエルの人ということは、勇者様が唯一その力を認めたという現代の偉人じゃないか」
「どうぞお通りください!」
俺とクロロック揃って、うやうやしく案内された。
ちょっと来ないでいると、全然様変わりするな。
前はこんな見張りなんかいなくて、フリーパスだったのに。
「なんでちょっと厳重なまもりになってるんだ?」
「あっ、それはですね」
説明してくれる見張り。
発展する宇宙船村。
ここでは日々、イノベーションとかが生まれ続けている。
そこで生まれる実りを手に入れようと、良からぬ輩が何人もやって来たらしい。
鍛治神が村長から引退し、村の選挙によって選ばれた村長が治めているのだが、神から人族になったもんだから目が届かない。
ということで、良からぬ輩が暗躍し大変なことに。
そこに遊びに来ていたサイトとサルナスが活躍し、良からぬ輩を次々に討ち取ったのだとか。
俺が知らないところで英雄っぽい動きをしてやがるな。
「今日は新しい作物を紹介に来た。これをやる」
「やる!?」
見張りが目を剥いた。
「取引ではなく? あ、一応取引担当のところに案内します」
「おう」
案内してもらったのだった。
取引担当なんて役職ができてるんだなあ。
国家になるのカウントダウンだろ。
しかも選挙をしてたらしいから、間違いなく宇宙船村は民主国家になる。
俺が叩き落したオーバーロードの宇宙船から全てが始まったんだよな。
超文明の塊である宇宙船を解体するために人が集まり、やがて村ができ、街になり……。
感慨深い。
その後、取引担当だという男がやって来たので、こいつにロイロイの種と苗をあるだけ手渡す。
「うおーっ、多い!! 手ぶらで来られたので大した量ではないと思っていたのですが」
「アイテムボクースの魔法で死ぬほど積載できるからな。これだけあれば来年にはあぜ道がロイロイで埋め尽くされるぞ」
「勘弁してください」
ロイロイを預け、その後ロイロイ料理を振る舞った。
未知のかるーい食感は大評判である。
新たな村長にも食わせた。
「これは……食べ物が娯楽になりますね」
誰かと思ったら、俺が以前畑作を指導したことがある若者だった。
若いのに村長か。
リーダーシップを買われたんだろう。
頑張って欲しい。
こうしてロイロイは、宇宙船村に渡った。
「ワタシはワタシで品種改良などをやってみますよ。いやはや、楽しくて仕方がありません」
クロロックは満足そうに喉をクロクローと鳴らすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます