第468話 勇者村ロイロイ大会

 この不可思議な作物、ロイロイはあっという間に勇者村に広まった。

 そして勇者村の肥沃な土壌に根付き、アホみたいな速度で育ち、あっという間に収穫の時を迎えた。

 アサガオなみの速度じゃないか!!


 なお、収穫量がさほど多くないのと、勇者村の土の栄養が許容量を超えているらしく、放っておくとすぐ枯れるので増えすぎる心配はない。


「皆さん、ロイロイは一般的にこう食べますが、様々な調理方法が考えられます。皆さんの考えたロイロイ料理を持ち寄る大会を開きませんか」


 畑の賢者クロロックはある日、こんなことを言った。

 緩やかな時間が過ぎる勇者村で、こういう娯楽は貴重である!


「やるか!」


「やってみるかな」


「どれどれ!」


「どんなものかしらね」


「やるぞー!」


 などなど、みんな一斉にこのロイロイを使った料理大会に飛びついたのだった。


「俺たち夫婦は、こいつをコーリャンと混ぜて料理することにした」


 まずはフックとミー夫妻のプレゼンだ。

 ほのかな甘味くらいしか癖がなく、焼くとほろほろ崩れてしまう脆く儚いロイロイ。

 これをどう味わわせてくれるのか。


 俺はドキドキしながらそれを待つ。


 コーリャンは、めちゃくちゃ粒が細かいイネ科の植物で、飯に混ぜて炊いたり、粉末を小麦粉みたいに使って焼いたりする。

 今回は……後者の使い方だった。


 ロイロイとコーリャンをミックスした粉で焼いたクッキー!

 こ、これは……!


 ふわふわ、サクサクの新食感。

 単体のみだと味に癖がなく、調理されたあとの姿が癖だらけだったのに、何かと組み合わせるとこれを新しい触感にカスタムしてくるのか。


「んまー! これ美味しいー!!」


 ふわサク食感を、カトリナも絶賛だ。

 俺もこれは好きだなあ。


「んままー!」


 マドカも大喜びでもちゃもちゃ食べた。

 なお、ブルストとパメラは渋い顔をしている。


「食ってる気がしねえな」


「そうだねえ。まるで雲をかじってるみたいだよ。もっと歯ごたえがある方が好みだねえ」


 同じオーガでも、標準的オーガであるブルスト、そしてミノタウロスであるパメラからするとふわサク食感はいまいちらしい。

 食感もまた、味わいの一つだと言うからな。


 そんなブルストとパメラ夫妻が出した答えは……これだった。

 シンプルに大麦に混ぜて焼き上げて、シリアルバーの形にする!


 ミノタウロスは肉も食うが、穀物を好んでバリバリ食う。

 シリアルバーはミノタウロスたちにとって、割とオーソドックスな飯の形なのだ。


 俺からすると焼きおにぎりみたいな感覚だな。

 こいつはザクザクとした小気味いい食感が美味いんだが……。

 今回のは噛んだ瞬間、ホロッと口の中でバラけた。


「おっ!?」


「穀物のザクザク感はそのままに、口の中でほどける感じを変えた……らしい。こいつはパメラが作った傑作だぞ!」


「すげえ……こりゃあ美味いな! ホロホロからザクザクに変わる口の中の変化も楽しい!」


「美味しいねえこれ! おやつで出たらいくらでも食べちゃう!」


 ロイロイがシリアルをコーティングし、口の中に入れると溶けてシリアルが口の中で広がるのか。

 さらにこのほのかな甘味がシリアルバーの風味を華やかなものにしている……。


「まあ、だがちっちゃい子にはきついな。歯ごたえが強すぎる」


「んまー!!」


 バリバリ食べるマドカ!!

 そうだな、お前は別格だったな……。


「まあまあ、こちらも召し上がってみてください」


 アキムとスーリヤ夫妻。

 主にスーリヤが作ったのがこちら。

 砂漠の王国ではほぼ主食の豆。

 ひよこ豆みたいなやつなんだが……。


 これを煮込んだものに、ロイロイが入っていた。

 スーリヤが何度かのチャレンジの後、ロイロイの性質を見極めて作り上げたこの豆の煮込みは……。


「うおっ!! ま、豆の中にスープの旨味が染み込んでる……!!」


「あー、これは美味しい。美味しいわ。普段の豆スープは主食だけど、こっちは完全にスープになってる」


「だよな。飽きずにいくらでも……とは行かないが、スープとして食べるならこっちのほうがいい」


 主食から豪華なスープへの華麗な変身とでも言うべきか。


「使っている材料はいつものものですけれど、ロイロイによって全然違うものに変わることがわかったんです。豆の中までスープの味が染み込むのと、ロイロイが豆を覆うので中の汁が逃げていかなくなるんです。そうすると……豆の滋味が凝縮したところと、ロイロイの味が溶け込んだスープに分かれるわけです」


 スーリヤが分析した結果を伝えてくれる。

 すげえ。

 つまりこのロイロイ、普段の料理に加えることで、全く違う味わいに変えてくれる最高の味変食材ということではないか。


 香りはスパイスやハーブ、甘みとコクはこのロイロイでいける。

 旨味系調味料みたいな植物だったんだな、ロイロイ……。


「んまー!!」


 なお、マドカはすべてを美味しくいただいたようである。

 その後、マドカとカトリナとで、子どもも食べられるもの、お年寄りも食べられるものを選定することにする。


「パメラのシリアルバーは歯が頑丈じゃないとだな」


「スープは味が濃いから好き嫌いあるかも?」


「まおはみんなおいしかったー」


 ということで!

 今回出た三品のロイロイを使った料理で、優勝はフックとミーのコーリャンクッキーということになった。

 これは本当に誰でも食べられる。


「乾いていなければのどごしもいいんですがね」


 クロロックの好みはまたちょっと違ったみたいだが。


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