第467話 グンジツヨイ帝国土産をいただく
前皇帝はニルスをえらく気に入ったようで、帰る俺にお土産までくれた。
最近戦わなくなったグンジツヨイ帝国は、国内で生産する穀物や野菜に力を入れているらしく……。
「なんだこれは」
「うむ! 最近栽培を始めたらしい植物でな!」
俺の手の中には、コロコロとしたちっちゃいカブみたいな物があった。
真っ白で葉っぱがついており、しかし手のひらで転がすと乾いた音を立てる。
「乾燥してるな」
「うむ、それは実は穀物なのだ」
「なにっ!? どう見ても野菜なのに……」
「魔王大戦の時に隔絶しておった地方と最近連絡が取れてな。そこの民たちがこの穀物……ロイロイを育てておったのだ。どうやら魔王とともに世界の外から来た穀物なのだそうでな。少ない水で育ち、あらゆるものを養分として実をつける。まあ、実の数は少ないのだがな」
「なるほど、それなら現存する穀物とシェアを食い合わないな」
ロイロイという奇妙な穀物をもらい、俺は勇者村に帰還したのだった。
真っ先にこの穀物に食いついたのは、やっぱりクロロックだった。
「な、なんということですか! 世界の外からやってきた穀物とは! 正真正銘、ワタシが初めて見るものです! はあー、珍しい。ほおー、コロコロと音を立てて転がりますね。どう食べるのですか」
「砕いて水に溶かし、粥にして食うらしい。多分、他にも色々な食い方がありそうだ」
「確かに! 試してみるとしましょう」
クロロックと俺で、ロイロイをどう食うかの検証を始めることになった。
「あらショート、帰ってきたの? おかえりなさい! 何か変わったものもらってきたねえ」
カトリナがシーナを連れてやって来た。
「うむ、変わった穀物なんだ。クロロックと食ってみるところなんだけど、カトリナも食べる?」
「もちろん! いつもショートが先に毒見してて羨ましかったんだから」
「両生人であるワタシと、オーガであるカトリナさんの舌があれば、村人の殆どの味覚は網羅できるでしょう。ではまずはオーソドックスな食べ方から……」
クロロックはすり鉢を用意し、ここに入れたロイロイをすりこ木でゴリゴリとこすり始めた。
おお、あっという間に粉になっていく。
ちなみにこの粉の状態でも、一定量があれば土に撒くことでロイロイが芽吹くらしい。
「これを水につけて……」
「お水だと美味しくなさそうじゃない? ミルクにつけましょう」
「カトリナからナイスなアイデアが出たぞ」
「あーうー!」
シーナも食べたがっております。
さて、ヤギのミルクに漬けたロイロイは、ぺったりとした感じになった。
なんだろうな。ちょっと粘りのあるヨーグルトみたいだ。
味は……。
「ヤギのミルクの味だな」
「喉越しはなんだかぺったりしてますね」
「ちょっと甘い。悪くないんじゃない? 飽きなさそうな味」
試しに水で溶いたものも食べてみた。
プルプルした粘りのあるゼリーになった。
ほほー、ほのかに甘い。これだけ食べても、確かに食べ飽きない感じだな。
グンジツヨイ帝国の、隔絶されていた一地方がやってこれたのは、間違いなくロイロイがあったお陰だろう。
そこではどうやら、地面という地面にロイロイが植えてあるらしい。
一株からはあまり量がとれないのを、植えた数でカバーしたんだな。
これ、案外魔王たちの宇宙食なのかも知れないな。
「んままー!」
シーナも食べたがったので、カトリナが一匙与えてみた。
ヤギのミルク味のロイロイをむにゃむにゃしたシーナ。
訝しげに首を傾げている。
うんうん、粘り気のあるヤギのミルクだもんな。
美味しいわけではない。
「可能性を感じますか」
「どうだろうな……。水に恐ろしく溶けて、とろとろになっちゃうだろ。なら、少ない水で練って何かに焼き上げるのはどうだ」
「火を加えるのですね。確かに、穀物のほぼ全ては水と火によって食べやすくするものです。やってみましょう。まあ、ワタシたちは丸呑みですが!」
クロロックがカパッと口を開いた。
カエルジョークだ!
シーナはカエルジョークを初めて見たらしく、ポカーンと口を開けてクロロックに見入っていた。
さて、俺とカトリナとクロロックで、それぞれロイロイを練って造形し、お料理の形にしてみる。
「俺はプレーン。ちょっと砂糖入れた」
「私は中に甘い糖蜜を入れて、みたよ。包むこむ感じ」
「ワタシはこれです。麺」
おおーっ。
三者三様。
これに火を通してみる。
水に晒すと溶けてしまいそうだからな。
調理方法が限られるか……。
焼いてみた。
俺のプレーン焼きロイロイは、サクサクした甘い塊になった。
なんだこれ?
「んまま!」
シーナはサクサク食べている。
気に入ったようだ。
なんだろうな……。赤ちゃん用のミルクせんべいの甘いやつをもっと儚くしたみたいな。
カトリナの作ったものは、サクッと噛み切った後にねっとりとした糖蜜が出てくる。
おお、お菓子としてアリだ。
「創意工夫だなあ……」
「私なりに他の奥さんたちの技を見て盗んでますから!」
フンス、と鼻息で得意げなうちの奥さん。
そしてクロロック。
「棒になってしまいましたね」
「麺じゃなくなっちゃったな」
そう。
まっすぐ伸ばした麺は、棒になった。
茹でられないもんなあ……。
水分だけ飛ばしたらこうなるよなあ。
ちなみに、長く伸びた焼きロイロイはちょんと触れるとサラサラと崩れた。
儚い。
「ふむ、これはしばしワタシに預けてください。研究してみるとしましょう。これ単体でどうこうするのではなく、他の作物と合わせたほうがいいと思うのです」
「クロロックが燃えている!」
こうして、変わった作物は、勇者村は畑の賢者、クロロックの手に委ねられたのである。
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