第465話 三人の王子教育録
イーサンとニルスは、ブレインに師事してコツコツと勉強をして行っているようだ。
その合間に畑仕事もしている。
野心はなく、これといった特技もない彼らは、こうして学のある農夫として暮らしていくのが良かろう。
で、サルナスなんだが。
おお、分身が何人か畑で仕事をしている。
そして分身の一人が二人の王子と一緒に勉強している。
では他の分身はと言うと……。
「うおりゃあ!!」
「う、うわあーっ!」
サイトが振り回す槍を、分身したサルナスが必死に掻い潜っている。
最初は振り回す度に分身が一人消えていたが、最近は割りと避けるのが上手くなってきたようだ。
「おお、避けやがったか! しかし、とんでもない速度で強くなるなお前。ついこの間までは素人だったのに、今じゃ俺の攻撃も五回に一回は躱すもんな」
「あ、はい。分身が得た学習結果が僕ら全員に反映されるので……」
やっぱりとんでもない才能を持った奴だったな。
これは勇者村の戦力として取り込んでおくのが正しい。
そして世界に派遣しよう、そうしよう。
俺は彼を見て、そう決めるのだった。
分身する以外は人間の範疇に収まる能力だが、分身が学習したものを自らのものにできるのは強い。
人間という範囲の中で頂点を極められる力だ。
よし、これはサイトに任せておこう。
俺は他の王子たちの手助けに行かねばな……。
「イーサンにニルス」
「あっ、勇者様!」
「村長だ」
「そ、村長!」
「ああ。あんまりかしこまらなくていい。どう? 畑仕事の毎日に勉強が加わったけど辛くない?」
「ええ、大丈夫です」
イーサンが頷く。
砂漠の王国では、もともと本を読んで暮らしていたらしい。
だからむしろ、ここに来たばかりの時は畑仕事が辛かったんだそうだ。
全身筋肉痛で苦しんだとか。
だが、今は体に筋肉もつき、畑仕事をルーチンでこなせるようになっている。
「また勉強できることが嬉しいんですよ。僕の人生は、勉強だけしかなかったですから。そこに畑仕事が加わって、それに家畜の世話もあって、毎日が充実するようになりました」
幸せそうである。
彼は彼で、勇者村に来たのが正解だったようだ。
それに対してニルスは……。
「自分はいつか、村を出てもっと自分の力を試したいと思っています」
一番サポート向きな能力をした男が、一番野心的だった!
「意外だった……」
「はい、自分、細やかな気配りと他人のフォローがとても得意というのは自覚しているんです。ですが、それは別に自分がやりたいことではないので……」
自分の望まぬ才能を得て生まれてきてしまったわけか……。
無論、砂漠の王の血を受け継いで生まれてきた彼だからこそ、なんでも人よりできる才能を持ってはいるのだ。
だが……だからこそどっちつかずということか。
「ええと……じゃあなんか、帝王学とか学ぶ? 他にはここにいた商人の息子が残していった蔵書もあるけど……」
「読みます!! 学びます!!」
学びに貪欲~!
イーサンと違って、現状に満足してない!
「あ、僕は現状に満足してて、このまま何もなく生きて行きたいです」
「サルナスはダメ!」
「ガーン」
サルナスが悲しそうな顔をした。
だってお前、その力を持ったら普通の人間としての暮らしは無理だよ。
しかも能力の性能を理解した上で使いこなしてるし、勇者村との出会いで本格的に才能の開花が始まってるじゃん。
時代が時代なら主役だよお前?
……ということで、ニルスを連れて魔本図書館を練り歩く。
「おーい、帝王学の本」
『はっ、ここに! いやあ、勇者村の者たちは人はいいのですが、誰もが野心を持っていないために吾輩退屈で堪りませんでしたぞ』
「おうおう、こいつが野心持ってるからな」
『ほう、この者が……。おおーっ、貴き血が流れているようですな! これは良きこと。吾輩がみっちり教育して、新たなる時代の覇王にしてみせましょう!』
帝王学の魔本、テンションが上がってまいりました。
「自分、やりますよ! 覇王になります!!」
いっけね、ニルスもその気になった!
まあ、他人のサポートが得意な男が覇王になれる気はしないんで、こいつは帝王学の魔本に任せてても問題なかろ……。
図書館から戻ってくると、外では八人になったサルナスが、「なんとぉーっ!」とか叫びながらサイトの槍を止めているところだった。
おいおいおい。
次の瞬間には蹴散らされたけど、一瞬でサイトを止められるってとんでもねえぞ。
やっぱりこいつは自由にしてはいかん……。
凡人なのに野心にあふれる向上心のある男と、超人なのに野心が全く無くて凡人に憧れる男……。
砂漠の王国の王子面白すぎる。
しばらくは彼らの育成に力を入れようと決める俺なのだった。
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