第464話 王子たちの武者修行

「シルカさんがねえ……。でも、たまには羽根を伸ばすのもいいんじゃないかな」


 カトリナは寛大だった。

 他所は他所、うちはうち、と分けて考えられる、うちのできた嫁さんなのだ。


「私には分かんない世界だけど、砂漠の王様も奥さんたくさんいるし、シルカさんはもう王様に会えないかもなんでしょう? だったらいいんじゃないかな」


「寛大だなあ……」


「もちろん、ショートがしたら許しません」


「やはり! というか俺はカトリナが一番で、二番以降は永久欠番だからな!」


「難しい言い回しするねえ。でも、むふふ、いい気分」


 カトリナがニコニコしているのを見て、遠くで遊んでいたマドカが駆け寄ってきた。


「おとたんとおかたんなかよしねー?」


「そうだぞー。仲良しだぞー」


「仲いいもんねー」


 隣り合って座ったら、マドカが間にピョーンと飛び込んできた。


「まおもなかよしよー」


「凄い跳躍力だ! キャーッチ!」


「キャー!」


 甲高い声をあげて喜ぶマドカ。

 これを見て、向こうからシーナもトテトテ走ってきた。

 もうあの速度で走れるのか!

 フィジカルがすげえなあ。


「んまむー」


「はいはい、シーナおいでー」


 シーナをキャッチするカトリナ。

 ちっちゃくジャンプしてたから、シーナが本来のポテンシャルを発揮する日も遠くなさそうだ。


「それでだな。しばらく王子たちをどうするかなんだが、ブレインに頼んでいるところだ」


「いいんじゃない? 図書館は広いし、勉強もできるし」


「ああ。ずっと畑仕事してたからなあいつらは。うちの村としても、そろそろ働いてもらったお返しをしておきたい。ブレインとサイトに頼んで稽古をつけてもらうとしよう」


「元勇者パーティの賢者と、ショートが認めたサイトくんねえ……」


「くん付け!」


「私、彼と同い年だし」


「あ、さいですか……」


 俺の知らぬ人間関係が!

 サイトは、あらゆる魔法を打ち消す能力を持った男だな。

 生まれるのがもっと早ければ、勇者パーティの一員であっただろう。


 メンタルとタイムの部屋でバリバリに鍛えてやっているから、今は相当強い。

 特にぶつけるところのない強さなんだが。


 あいつは勇者村で畑の手伝いと、見回り兵士みたいな役割を買って出ている。

 ただまあ、ちょくちょく宇宙船村に遊びに行くから、三日に一日は村にいないな。

 素行不良だが実力は確かだ。任せるとしよう……。


 こうして、俺は砂漠の王子たちを連れてブレインのところに来た。


「じゃあ頼む」


「はい、頼まれました」


 ニコニコと引き受けるブレイン。

 横にはめんどくさそうな顔のサイトがいた。


「くっそ面倒なんだけど」


「まあ分かる。サイトは自由にやりたい年頃だもんなー」


「そうそう……って俺はとっくに成人してるっつーの! 周りはあっという間にくっついたりでなあ。まだまだ遊んだっていいだろうが、なんで落ち着きたがるんだか……」


「お前は現代人に感覚が近いなあ。だがやれ」


「うっ、わ、分かった」


 素直なやつは好きだぞ。

 王子の数は……三人? あれ? 四人?


「あ、はい、実は僕が特殊な力を持っていまして」


 王子の一人が手を上げた。

 確かこいつは。


「サルナスです。僕はその、分身っていうんですか? 体を幾つにも分けられるんです」


「あ、それで王子の数がいつも曖昧だったのか……!」


 なんか異能者が混じってたじゃん!

 王子は、最年長でおとなしいイーサン、細かいことに気が付き、サポートすることを得意とするニルス、そして分身能力を持ち一人で様々なことをこなすことができるサルナスの三人だったようだ。


 サルナスだけいきなりキャラが立ってるなあ!

 パンピーふたりの中にいきなり超人がいるじゃん。


「僕の力はあまりにも便利過ぎて、だからこそ父は僕を追放したんだと思います」


「なるほどなあ」


「おもしれえじゃん」


 サイトがこれを見てニヤリと笑った。


「ショート、俺がこいつを鍛えるぜ。身体能力は鍛えてりゃなんとでもなる。分身できるってのがおもしれえ。おいサルナス。お前、分身しても全員自分なのか?」


「あ、はい。僕の意識が分かたれる感じで、でも頭が幾つもあるからめいめい最適な感じで考えてくれて、混乱はしません。あと、分身がやられても、生き残ったのが本体になります」


 強いなおい。

 魔王大戦の時に成人していたら、間違いなく砂漠の王国を救う勇者になっていたぞこいつ。

 こいつを追放したアブカリフの判断は正しい。

 

 というか、他の王子たちは戦いに向かないから遠ざけられたと言っていたが、その実、サルナスを王国からいなくならせるためについでで追い出されたな?

 サルナスの力は、それを手に入れたものが国を手にできるほどの力だ。

 そしてたちが悪いことに、サルナスは賢い。


 彼一人で、王位争奪戦はワンサイドゲームだ。

 俺は彼を善人として育て上げて、ビンやカールくんの助けとなるような男にせねばならん。


「頼むぞサイト」


「おう、任せてくれよ! でサルナス! お前、女を知ってるか? 知らない? じゃあ俺がまずは女遊びをだな……」


 俺はサイトをぶっ飛ばした。


「ウグワーッ!?」


「ヒエーッ」


 サルナスと他の王子たちが飛び上がる。

 お前らは悪い大人に育たないでくれよ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る