第461話 ちっちゃい海の神様を持って帰ってきてしまった

 仕事を終えて帰ってきたら、もう真夜中である。

 俺はそろそろ体質的に睡眠を取らなくてもよくなっているが……。


 家を覗いたらカトリナがちびたち二人に挟まれてぐうぐう眠っている。

 俺も眠ろうかなー。

 ということで、やたら広い我が家のベッドに転がり込んだのだった。


 朝。


「おあよー! おとたんおあよー!!」


 マドカの声で目を覚ます。

 最高の目覚めでは?


「おとたん、なんこれー!? なんかついてるよー!」


 何か硬いものをベシベシ叩く音!

 何事であろうか。

 俺は起き上がった。


「わー」


 マドカが俺の首に掴まったまま持ち上がっていく。


「おとたん、おはよ!! なんかついてるよ!」


「おはようマドカ! 今日も可愛いな! ……なんか頭に? 硬いものが?」


 触ってみると、明らかに貝殻めいたものがくっついている。

 パコッと外して眼の前に持って来ると……。


「あっ! 牡蠣の神じゃん!!」


『……』


 まだ自意識すら曖昧な、牡蠣の神様……名付けてオイスター神が俺の頭に引っ付いていたのだ!

 やべえ、連れてきちゃったよ……。

 しかも枕にして一晩寝てしまった。


「大丈夫か、オイスター神」


『……』


「まだ言語を覚えてないんだったな……。こいつどうしようかな。塩水用意するか」


 そういうことになった。

 とりあえず、桶に水を汲み、食塩をパラパラした後にオイスター神を漬け込んでおいた。


 おお、プシューッと貝殻を開いている。

 息を吹き返したか。


 こいつ、自分で主張をしてこないからどうしたもんかなあ。

 でかさは長さ30センチくらい。

 牡蠣としてはでかく、そしてちょっと神々しい輝きを放っている。


 神々しい牡蠣。

 神様っぽさはそんなにない。


「お、ショート、そりゃなんだ? お土産か? 酒のつまみにしてもいいのか?」


 ブルストが気づいた。


「いや、実はな、こいつは神様なんだ」


「なんだと!?」


「でかい牡蠣だったんだろうが、ここ数年で神様になったようで……しかしまだまだ意識が牡蠣のままなんだ」


「そうだったのか……。しかし、酒のつまみになりそうな貝だなあ……。誰かが間違って食っちまうぞ」


「そりゃあ困る」


 朝食を摂りながら、オイスター神の取り扱いについて考える。

 どうするかなあ。


「かわいいー」


「なにこれー」


「おー、ぎざぎざ」


「なにかいってるねえ」


 マドカとサーラがつんつんつつき、バインがギザギザの貝殻を褒め、ビンがオイスター神の言葉にならない声を聞き取った。


 な、なんだとー!?


「聞こえるのかビン!」


「うん! えっとね、もじょもじょいっててこまかいのわかんないけど、おなかへってるとおもう」


「ハラヘリかあ。牡蠣は何を食うんだろうな……?」


 とりあえず、プランクトン並まで細かく魔法で裁断した野菜を流し込んでみた。

 おっ、吸い込んでる吸い込んでる。


「おいしいって!」


「これでいいっぽいな……。呼吸と同時に飯を食うんだな、牡蠣って」


「あと、かみさまだからしおみずじゃなくていいって!」


「なんだって」


 それは凄い。

 飯の後、俺はオイスター神を連れて川に行った。

 そこでクロロックがまったりしているではないか。


「クロロック、こいつを見てくれ」


「おお、牡蠣ではありませんか。のどごしが素晴らしいんですよね」


「ああ、生牡蠣美味いらしいな。だがこいつは神様だ。食ってはいかん」


「なんと! 神様でしたか。これはこれは失礼しました」


『……』


 相変わらずオイスター神は無反応である。

 クロロックと相談し、しばらくの間、勇者村に置いておくための設備を考案した。


「海に戻してこないのですか?」


「よく考えたらな。淡水で行けるなら、勇者村で育成したほうが早めに神様としてそれなりになるかも知れないんだ」


「なるほど、確かにそうですねえ」


 海の少神たちを全ては育成できないが、こうしてくっついてきた縁だ。

 オイスター神くらいはしっかり育ててやってもバチが当たるまい。

 いや、そろそろ俺がバチを当てる側なのだった。


 川に深く棒を立てて、オイスター神をくくりつける。

 流水が穏やかになる辺りだ。

 ここなら水中を何か流れてくるだろうし、食い物もあるのではないか?


 ビンに聞いてもらうとしよう。

 

「ここでいいって。たべものもながれてきてるって。たべてるとげんきもりもりでびっくりだって」


「やはり勇者村にあるもので育てると、他よりも育ちが良くなるみたいだな」


 川もその例外ではなかった。

 神気とやらを帯びつつある土地だ。

 でっかいだけの牡蠣であったオイスター神が、神様として仕上がっていくことだろう。


 早ければ一年くらいで喋りだすんじゃなかろうか?

 そうなったら海に戻してやろう。


 棒にくっついて、川の水に浸かったオイスター神。

 物珍しさから、村の仲間が次々見に来た。


 危ないのは、海にいたことがある仲間だな!

 牡蠣は食べ物であると理解している。


「神様だからな。食べたらだめだぞ。こいつがどこかの海の未来を背負ってるんだからな……」


 俺はいちいち、オイスター神の重要性について説明をすることになるのだった。


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