第460話 海に地蔵は浮かぶのか

 約束をしていた、海神のところにやって来た。

 つまり水中である。

 俺を出迎えるため、海の小神たちも集まっていた。


 人の姿をしているやつが海神しかいないではないか。

 みんな下手をすると邪神っぽい外見なんだが?


『まだまだ生まれて間もない神であるがゆえに、各地の名産となる海産物の外見に寄っているのでしょうな』


「あー、海の神様ってそういう産まれなんだ?」


『人々の信仰から産まれてくる存在ですからな。以前にビン殿が相手をしたのはタコの姿をしていたでしょう』


「してたしてた。つまりそういうことかあ……」


 海神の説明を聞いて納得してしまった。


『我ら、まだ自我薄い』


『人守る、むつかしい』


「ふむふむ」


 鯛やらヒラメやらの姿をした神が、たどたどしい言葉で話しかけてくる。

 知性も言葉もまだまだ拙いのだが、信者たちの信仰に応えようという思いは本物である。


「ある程度、お前らを信じる人々の力が均等に行き渡るのがいいな。そっちにいる牡蠣の神様なんかまともに動けないだろ」


『……』


「言語系もまだ発達してなかったか。どうやってこっちに来たの」


『あの神は生まれた場所に住む人族の数が少なくてですな。じっくりと成長していくところではあるでしょうな』


「なるほど……」


 信者の分布によって、神の仕上がりにかなりムラが出る。

 平時ならそれでも問題ない。

 新しい神が生まれ、古い神は忘れられて消えていく。

 新陳代謝が起こるのだ。


 だが、今は魔王によってほとんどの神が滅ぼされた時代である。

 ここにいる小神たちの大多数は、俺が魔王マドレノースを打ち倒してから生まれた、いわば神様の赤ちゃん。

 じっくり何十年も掛けて育てていては、その間、信者たちは加護を得られなくて大変辛い思いをする。


 それに生まれたばかりの弱い神ばかりでは、魔王どころかちょっと強いモンスターにすら滅ぼされてしまうかも知れない。

 大変勿体ない。


 神様の育成が急務なのである。


「とりあえず育ちがいいところは?」


『あっはい、我のいる黄金帝国です』


「あっ、お前はタコ型の小神! その後どう?」


『帝国の民が捧げ物をしてくれるので、なんとか上手くやっております。あの時はご迷惑をおかけしました……』


 ペコペコ謝ってくる。

 ビンがアーキマンを使って懲らしめた神様だな。

 前よりも人形に近づいていて、頭はタコ、コウモリの翼に鱗に覆われた肉体になってる。


 ちょっと異形なくらいでちょうどいいよな。

 前よりも理性的だが、ちょこちょこ海を荒れさせてメリハリをつけているらしい。


「ちょっと近隣に信仰パワーを漏らしていい?」


『はい、それくらいなら。民の数が増えていますから』


「黄金帝国、ベビーブームか! そりゃあ何より。人族の数もめちゃくちゃ減ったもんな。増やしていかねば」


 許可をもらったので、黄金帝国付近から、海に浮かべるお地蔵さんみたいなものを作り、信仰パワーを周りに広げるようにする。


「見てろ、まずはこうして……」


 水に浮きそうな形を作る。

 丸くて、上下がある程度あって、そして手出しされにくいようにトゲトゲにして……。


「あっ、ハリセンボンじゃんこれ!!」


 偶然、知っている魚の形になってしまった。

 だが、ワールディアにはハリセンボンが存在しないらしい。

 じゃあいいか。


『神々しい』


『素晴らしい形だ』


『ショート様のセンスを感じる』


 みんな超褒めてくれるじゃん。


「ありがとうな。こいつを各地の海に浮かべる。でかさはご覧の通り、直径2mくらいあるから網に引っかかって持っていかれることも……いや、網が持っていかれるな。それぞれの土地の民にハリセンボン地蔵に気をつけろと伝えるようにな」


 小神たちに言い聞かせた。

 彼らは分かってるんだか分かってないんだか、という返事をして……。


 こうして、ハリセンボン地蔵が世界に広がった。

 具体的には、小神たちに持ち帰ってもらった。


 各地に地蔵が浮かび、世界中の海に信仰を広げていく。


 その海の神ごとに、ハリセンボンの頭に鯛をくっつけたり、ヒラメをくっつけたりしている。

 このシンボルを拝んで欲しい。


 勇者村に戻ってから、地蔵の場所をサーチしてみる。

 うむうむ、いい感じに広がってるじゃないか。


 人が住んでいる辺りの地域は概ねカバーした……気がする。

 喋ることすらできなかった牡蠣の神も、近いうちにお喋りができるようになるかも知れない。


 世はまさに、神様育成時代。

 村の安定が成った今、俺は新たなステップに進んだわけである。


『より最高神めいたムーブになってきていますね』


 ユイーツ神が出てきて、ニコニコする。


「仕方ないじゃん。俺が一番フットワークが軽いし、できることが多いし」


『ほぼ全知全能ですからね』


「まあ全知全能だな……。いやだなあ。完全に実質最高神じゃん」


『予定では、各地の神々がらしいくらいまで育つのにどれくらいですか?』


「そうだなあ……。この速度なら、パンガーレベルなら一年。牡蠣の神レベルなら十年で化身を得て自らの意志で動き回ったり加護を与えられるようになるだろう」


『早い!』


「こういうのはまったりやった方がいいんだろうけどなあ」


 なかなか世の中、ままならぬものなのだ。

 立派に育てよ、神様の赤ちゃんたち。


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