第458話 射的の挑戦者

 宇宙船村まで遊びに行ったのだが……。

 そこで、俺は声を掛けられた。


「勇者ショートだな!?」


「むっ」


 振り返ると、そこには明らかに世界観が違う男が立っていた。

 洗いざらしのジーンズに色あせたジャケット。

 テンガロンハット。


「西部劇の世界から出てきたようなやつがいる」


「何を言っている! 俺を……この俺を忘れたとは言わせんぞ!」


 男の年齢は三十代くらい。

 俺はまじまじと彼の顔を見る。

 ……明らかに……見覚えがない。


「どなた様?」


「それが、それが勇者の傲慢だ! 俺はお前を覚えているぞ勇者ショート! よく聞け! 俺はな! 西方大陸でお前と出会っている!」


「西方大陸で……?」


 今は亡き大陸だ。

 降りてきた魔王と魔王狩りの戦いに巻き込まれ、全土が水没した。

 そして今は、俺の分身だったアソートが神となり、物語の女神ナイティアとともに新たな世界を作っているところだ。


「西方大陸は残念だったなあ」


「ああ。だがあれはお前は別に関係ないだろ。魔王の脅威とやらがあれほどのものだとは俺たちも知らなかった」


 西方大陸は、魔王マドレノースからの侵略を受けなかった場所なのだ。

 俺たちがいる大陸を支配したマドレノースは、やがて西方大陸に手を伸ばしたことだろう。


 だがその前に俺がやって来た。

 ほぼ完全支配されていた大陸は、俺によって解放された。

 この大陸は魔王との戦いで疲弊していたが、魔王から離れていた西方大陸は勢力を保っていたわけだ。


 そしてあそこにいるポリッコーレという国の連中は、魔王と戦った俺たちの世界を戦争好きだと喧伝し、ついにはハジメーノ王国をプロパガンダを用いて戦争を引き起こし潰そうとしたわけだ。


「俺はポリッコーレの新聞社に突入し、あの会社の全員を洗脳したくらいしかしてないが……」


「それだ!! それこそが俺の復讐理由だ!!」


 うおーっと叫ぶテンガロンハット。


「俺は……俺はな……!!」


 新聞社に家族でもいたのか?


「あそこに出入りしていた清掃業者だったんだ!!」


 俺はちょっとずっこけた。


「新聞社は猫ちゃん新聞を発行するようになり、やがて解散した! 俺は上得意先を失い、経営が危なくなった会社に解雇された! 全て勇者が悪い!」


「バタフライエフェクト的に俺が悪いかもしれないな、それは」


「俺は幾つもの国を渡り歩き、ついにお前がいるという勇者村まで来た! だがよく分からないアリクイにペチッと殴られて失神した! あそこに突入するのは怖いので宇宙船村で馬を育てる仕事をしながら待っていたのだ! 勝負しろ勇者ショート!!」


「俺に勝負を受ける得が全然ないんだが」


「勝ったらそこの屋台で一食奢る」


「やろう」


 そういうことになった。

 勝負内容は射的!

 テンガロンハットの男は、名もなきアベンジャーだと名乗った。


 アベンジャーが俺と射的で勝負!

 世界は平和である。


「じゃあやるか、トラクタービーム射的。これは俺も結構下手くそなんでいい勝負だぞ」


「なにっ!? お前、この復讐者を相手に手加減するだと!?」


「よく考えてみろ! 俺が本気でやってもトラクタービーム射的は下手なんだ! つまり、全力だ!」


「おお!!」


 アベンジャーの目が見開かれた。

 なんかストンと腑に落ちたんだろうな。


「フェアな勝負というわけだな! いいだろう! 行くぞ! うりゃあ!!」


 初手、アベンジャー!


「ウグワー!?」


「あっ、射的屋のおっさんに当たった」


 おっさんが宙に持ち上げられている。


「ちっ、外れか。次はお前だぞ勇者!」


「いいだろう。行くぞ! ツアーっ!!」


「ウグワーッ!?」


「お前も射的屋のおっさんに命中か。互角だな。次は俺が……」


「コラーッ!! 出ていけーっ!!」


 俺たちは射的屋のおっさんにめちゃくちゃ怒られて追い出されてしまった。

 くっそー。

 射的の名手であるカトリナがいれば楽勝だったのに。


 一人でちょっと覗きに来たらこれほどの屈辱を味わうとは……。

 今度カトリナに射的のコツを教えてもらおう……。


「やるな、勇者!」


「ああ。全くの互角だったな……」


 つまり、アベンジャーも射的が下手だったということでもある。

 だが、アベンジャーは満足したようだった。

 なんか、俺と互角だったことが嬉しかったらしい。


 屋台で宇宙船そばという謎の料理を奢ってもらった。

 黒いつゆに脂が浮かんでおり、そこに細めの小麦麺が入っている。

 ざく切りの野菜が湯通しされて、タップリ盛られた満足の一杯。


 いい感じで脂っこくてしょっぱくて、それが野菜で中和されてて美味い。

 これいいなー!

 ジャンク麺料理。勇者村には存在しなかったジャンルだ。


 食いながら味を覚える俺である。


「ふう……人生の目的を果たしてしまった」


「俺とトラクタービームで引き分けることがお前の人生の目的だったのか……」


 凄い人生だな!

 アベンジャーは寂しげに微笑むと、二人前のそば代を払って去っていった。

 きちんと奢っていくとは、いいやつだった。


 だが、久々に西方大陸のことを思い出したなあ。

 この間会ったアソートの様子を見に行ってみてもいいかもしれない。

 その前に、いくつかやらなきゃいけないことが、神様会議で決まってたんだが。


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