第457話 魔本たちの湿気対策
雨が降り続く。
まあ雨季なんだから当たり前だ。
この季節はめちゃくちゃに雨が降る。
「あー、もったいない! お肉の残りがカビちゃった!」
カトリナが嘆く声が聞こえる。
昨日の夕食で出た肉が、ちょっと余ったのだそうだ。
後で食べようと思ってたら、忘れて今気付いたと。
「おお、見事な青カビ! あっという間にカビちまうなあ」
俺は感心してしまった。
そしてふと気づく。
「食べ物がさっさとカビるということは、本だってカビそうなもんだな。魔本はどうなんだろう?」
興味が湧いてきたので、これはもう見に行かねば、ということになったのだ。
「おとたん、ごほんみにいくの? まおもいくね!」
「お、そうかそうか。じゃあ一緒に図書館に行こう」
そういうことになった。
傘を差して二人で道を行く。
マドカは今のサイズに仕立て直した長靴を履いて、楽しげな鼻歌を聞かせてくれる。
ミーに教わったらしい。
ホホエミ王国の歌だな。
歌詞が完全にうろ覚えでかわいい。
おっといかん。
このままではいつまでも、マドカと雨の中で遊んでしまう。
十五分くらい遊んでから図書館に行ったのである。
「やあショート、久々に来ましたね」
「ようブレイン! 最近本を読む生活していなかったからな……」
ブレインとカタローグが出迎えてくれた。
人の姿をした魔本目録であるカタローグがいれば話が早い。
「なあカタローグ」
『なんですかな』
「魔本もカビるの?」
『放置しておくとカビますな』
やっぱり!
これで俺の知的好奇心は、ほぼほぼ満足してしまった。
だがこれだけで済ませるのも勿体ないだろう。
「カビない対策をやってるのか? それを見せてもらいに来たんだ」
『なるほど! 魔本たちも村長が顔を見せてくださると喜びますぞ。ささ、こちらへ……』
俺とマドカで、魔本たちが収められている書庫へ向かう。
ここ、空間が歪んでいるからな……。
図書館の外見的には、ちょっとでかい家くらい。
中身の広さはドーム球場数個分くらいあるんじゃないだろうか。
「また広がったな!」
『世界からぞくぞくと新たな魔本がやってきておりますからな。最近、勇者村を訪れる各国の知識者があるのをご存知ですか?』
「そうなのか!」
知らなかった。
どうやら、魔本を読みにやって来るらしい。
図書館からほぼ出てこないので、俺の目に止まらないのだ。
このあたりの許可は、全てブレインに一任している。
勇者村の知識担当なのだ。
「おとたん! まおね、えほんさんとあそんでくる!」
「おう、行ってらっしゃい!」
マドカは絵本ゾーンへとトテテテテっと走っていった。
向こうから、魔本の絵本たちがワーッと歓声を上げてマドカを出迎えている。
彼らはいつでも、子ども大歓迎なのだ。
特にこういう雨降りの日ならば、なおさらだろう。
マドカが接待され、絵本の朗読を聞いていい気分でいる間に、俺は魔本のカビ対策を聞くことにする。
『実はですな。これもまた魔本の力を使っておりましてな』
「ほうほう! 自分たちでやってたのか!」
ちょうどやってるらしいので、見せてもらう事にする。
俺が姿を見せると、そこにいた魔本たちがワーッと盛り上がった。
『村長!』
『村長がやってきた!』
『こんにちは村長!』
「みんな久しぶり! 何やってんの?」
『虫干しですよ』
『直に日に当たると劣化してしまいますからね。魔法的な熱と風によって、湿気を取り除くんですよ』
「なるほどー」
炎の魔本が、熱だけを発生させる。
これを風の魔本がふわ~っと全体に送り込み、湿気を図書館から追い出す。
乾いたところで、本が傷んだ部分を癒やしの魔本が治癒したりすると。
これ、かなり高度な魔法工学のやりとりが行われていない?
『魔本だけでこうして社会は完結しているんですがな。やはり本である以上、読まれたいという欲求があるわけです』
カタローグが説明してくれる。
うんうん、そうだろう。
彼らの本懐とは、読まれることであろう。
「じゃあ、ちょっと読んでいくか……」
『やった!』
『俺が俺が俺が』
『我が我が我が』
「落ち着け落ち着け! 順番順番!!」
厳正なくじ引きを行い、三冊選んで読むことになったのだった。
結構時間を食ってしまったな、と思いながら絵本ゾーンへ向かう。
そこでは、絵本を枕にして、マドカが寝ていた。
大量の創作を取り込んで、すっかり満足した顔をしているな。
「何冊読み聞かせを? えっ、二十冊!? そりゃあ満足するはずだ」
絵本たちも、いいお客さんにニコニコだ。
俺はマドカをそーっと抱き上げると、彼らに別れを告げた。
図書館を出る。
もういい時間になっていた。
戻る途中、勇者村の入り口に馬車が止まっているのが見えた。
雨季の最中だというのに、不便を押して本を読みに来る人がいるのだ。
知的好奇心、大したものだなあ……。
なんか気付いたら、馬車や馬を休ませるための馬房が完成してるし。
この読者たち、勇者村は無償で迎え入れているらしい。
ただし手弁当だし、こちらからはケアをしない。
入ってくる人はブレインが選別する。
一週間に一組、みたいな。
馬車から降りたおっさんやおばさんたちが、目をキラキラさせながら雨の中、図書館に向かって歩いていく。
うんうん、良い光景じゃないだろうか?
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