第455話 星を掠める魔王

 ワールディア周辺には、接近するものを感知する結界魔法が掛けてある。

 何かが近づくと、すぐに俺へと警報が伝わるわけだ。


 今回も、明け方くらいに警報が鳴った。

 俺にしか聞こえないはずだが、マドカがパッと目を覚ました。


「うるちゃーい!」


「マドカも聞こえたかあ。流石、俺の魔法の才能を受け継いでいるな」


 ねむねむなマドカのほっぺをもちもちし、頭をポンポンし、寝かせつけてから外に出た。

 そして、フワリの魔法で飛び上がり、周囲に何もないあたりでバビュンへと移行。

 超高速で一瞬にして宇宙までやって来た。


 今まさに、ワールディア周辺に到達しようとしている流星がある。

 真っ赤な流星だ。


 魔王の気配だな。


「うおーい、ここに落ちるなら宇宙で爆砕するぞ」


 俺が声を掛けたら、向こうは不自然なほど急に減速し、ピタリと止まった。


『なんだと!? この星はオーバーロードがいるのか! せっかく同類が誰もいない星を見つけたと思ったのに……』


「おう、お前みたいなのが何回か来てる。全部叩き潰してるぞ」


『エーテルから伝わってくる魔力、その言葉は本当らしい。わしでは逆立ちしても勝てん。せっかく旅立ったのに、どこにも降りずに倒されるのはあまりにも悲しい』


「なんか悲壮な事を言う魔王だなあ」


『わしらは魔王候補として集められ、選別され、旅立つ資格ありとされたよりすぐりの者だけがこうして星となって移動できるのだ。だが、わしらは所詮、星から出たばかりの若鳥よ。どこかの星に根付いて育たねば力は弱い……』


「そんなシステムだったのかあ……。それで、俺に話して何を期待してるんだ?」


『見逃してくれんか? この星には降りないから』


「他の星が侵略されるのはちょっとあれだけどな」


『わしらはそういう存在なのだ。世界は次々と新たに生まれていく。世界が増え過ぎれば、世界に伝説が満ちる。伝説の重みで世界は崩れてしまうだろう。わしらは、世界が増えすぎないようにしているのだ』


「そうだったの? 初耳だなあ……」


『魔王の星でわしらが習うことだ。だが、魔王になるとみんな忘れてしまう奴ばかりだな。わしはこうして自我を保っているので覚えていた』


「魔王にも大義名分というやつがあるのか」


 俺は感心してしまった。


「だが俺に出会ったのが不幸だったな。一応蹴散らしておくぞ! そーれ、デッドエンドインフェルノ!!」


『そ、そんなウグワーッ!?』


 流星が粉々に砕け散った。

 さて、また寝よう。

 俺はワールディアへと降りていった。


 くっそー、すっかり夜が明けている。

 メンタルとタイムの部屋で二度寝してこよう……。


 たっぷり、異空間で10時間くらい寝た。

 現実では数秒しか経過していないだろう。


「おとたーん! おはよー!!」


 俺が大地に降り立つと、マドカが元気に駆けてきた。

 もう自分で顔を洗ったらしい。

 トテトテやってくるのを、俺は抱き上げた。


「うおー、おはようマドカ! うんうん、やはりこういう素晴らしい世界は壊されてはいけないものだよな」


 世界が増えすぎると、伝説が増えて世界を押しつぶす。

 どういうことだろうなあ。

 ちょっと考えたりもする。


 だが、俺の仕事はこの世界を維持することだし、家族や村のみんなを繁栄させていくことである。

 世界が押し潰される話に対応するのは、別の奴だろう。

 そいつに任せることにする。


 それに、魔王が言ってたのはあいつらが自己正当化する理屈かもしれないからな。

 もりもり飯を食っていたら、すぐ横の空間に穴が空いて、ピカピカ輝くやつが出てきた。


 ユイーツ神じゃん。


「おう、どうしたんだ」


『ビンくんに代理を頼みまして』


「お前、幼児に世界の命運を委ねるなよ」


『ははは、たまにはいいじゃないですか。最近、世界は平和ですよ。大きな争いの種になる者は今のところ、みんな滅びてしまいました。だから何も起こらず、私もこうしてビンくんに神様の職業体験をしてもらえるわけです』


「本当に神様体験できるってのは凄いな……」


 そして、ビンならやりきるだろうなとも思ってしまう。


『実際のところは、ショートさんが神になった時点で業務分担をしていく形になると思うんですが』


「おう。あと何十年後かだと思うから、のんびり待っててくれ」


『神としては一瞬なんですよ。あ、どうも』


 カトリナがニコニコしながら、ユイーツ神に豚肉と野菜のスープを差し出した。


『これは豊かな食事ですねえ。豊穣の神として、嬉しい限りです。聖餐としていただきますよ。美味しい美味しい』


「うわ、スープが輝きだしてる。まあ、豊穣神そのものに食べ物を捧げて、実際に食ってもらうってそういうことだよな。奇跡が発生してやがる」


『たまには直に頂くのもオツなものです。ごちそうさまでした』


「その文句、神様的にいいわけ?」


『いいんですよ。ワールディアはもう神の数が残り少ないんです。こだわりなんか口にしていられません。後継者をとにかく増やさないと』


 魔王が一匹降りてきて、存分に育つだけでその星はボロボロになってしまうんだあ。

 やっぱりあの魔王をあそこで粉砕しておいたのは正しかった。


『あ、今朝の魔王のことですか。他の星の神と交流はないですけど、幾つか魔王の侵略を退けた星があるんですよね。今度会合を開いてみんなで意見交換してみますか』


「いいな、やろうやろう」


『では、会場は勇者村で』


「妥当なところだろうな」


 ということで。

 近隣星系の神々を集めての会議が、勇者村で行われることになったのであった。


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