第454話 フォレストマン、宇宙船村と交渉する

「フォレストマンがうち以外とやり取りしてるらしいじゃないか。見せてくれ」


「興味があるか。いいだろう。来い」


 俺が特に親しくしているフォレストマン、マレマに頼むと、快諾してくれた。


「ぼくもいくー!」


 今日はビンも一緒か。

 二人で森の中に入っていく。

 すぐに森の外で、宇宙船村との交流を見せてもらうんだけどな。


 俺たちがやって来たら、フォレストマンたちが大いに盛り上がった。

 まるでヒーローでもやって来たかのようじゃないか。


「ショート、お前は我々にとって、新たな世界を切り開いてくれた恩人なのだ。我々は原始的な生活から抜け出し、広い世界と交流することができるようになった」


「おう、そうか……。でも俺としては、こう、プリミティブなお前らの世界に薄汚い世界の法則を持ち込んでしまったような気分がするんだが」


「それは上から物を見る考え方だな。我々の生活は良くなった。ジャバウォックに怯え、息を潜めて暮らさなくても良くなった。見よ、これを」


「むっ、これは……!!」


 フォレストマンの村は、森に溶け込むような形をしていた。

 ジャバウォックが嫌う植物を生やしたり、その臭いを周囲にばらまいたりなど工夫がされていた。

 だが、今は違う。


「トラバサミ……!! でかいやつだ!」


「これにジャバウォックが掛かる! 我々が総出で槍を投げて仕留める!」


「おおーっ! 狩りだ!」


 狩りが成立している!

 トラバサミは、左右からロープで移動させて、ある程度位置のコントロールができるものだ。

 そして上を通過する大きな動物がいた場合、トラバサミが発動する。

 上に牙状の罠が。

 下に地面を深くえぐる爪が展開されて固定される。


「あの素早い化け物も、動きを止めてしまえば恐ろしいものではない。罠も、そしてこの決して折れず、欠けぬ槍も宇宙船村と交換した」


「あーっ、宇宙船の外装で作られた槍! 硬度的には鉄以上だもんなあ……」


 エーテル宇宙を長期に渡って移動するために作られた装甲は、温度変化に強く、スペースデブリの激突に耐える。

 つまり、腐食しづらく、劣化もしづらいということだ。

 とんでもない武器を手にしてしまったな、フォレストマン。


 弓矢などは、矢を無くしてしまう可能性があり、あの強力な刃物を喪失するとこれは危険であるという考えから、槍を使うことにしているらしい。

 確かに、槍ならでかいからすぐに見つかるもんな。


「むっ、交渉の時間だ」


「こんな空が見えないような森の中なのに時間分かるのか」


「我らフォレストマンは、正確に時を知る力を持っている」


 マレマがニヤリと笑った。

 そんな大人の話をしている間、ビンは現地の子どもたちとワイワイ遊んでいたのだが。

 年相応だなあ。


 ビンの子どもらしいところを見てほっこりした後、移動するフォレストマンについていく俺である。

 ビンはまだまだ子どもたちと遊ぶらしい。


「こっちだと、むらでできないあそびできるもんね」


 ほうほう、遊びを持ち帰り、こちらに勇者村の遊びを伝えるつもりだな。

 遊びを通じた交流だ。 

 よきよき。


 森の外れでは、フォレストマンの集団と、宇宙船村から来た若者たちの一行が物々交換をしていた。

 森で捕れるジャバウォックの内蔵や特殊なキノコ、山菜は、宇宙船村で高く売れるらしい。


 物の価値というものを知らないフォレストマンに、二束三文のものを売りつけてはいないか?

 俺はそこらへんが心配だった。


「安心しろ。我々フォレストマンは、勇者村を知っているのだ。どんなものにどれだけの価値があるのか、よく分かった上で交渉している」


 マレマに言われてみれば確かにその通り。

 宇宙船外装の盾を売りつけようとする男がいる。

 それは、外装の板に雑に取っ手をつけただけのものだ。これを高い価値があると言い張る男だが……。


「大したものではない。支える腕があっても、ジャバウォックが来たら吹き飛ばされる。ならば避けるほうがいい。だが、板の価値が半分でいいなら交換に応じる」


「ぬうっ、全然チョロくない……!!」


 若者が歯噛みしていた。

 もっと年かさの男女もいて、彼らはこの様子に笑っている。


「だから言ったろ。田舎者だと思って甘く見たらダメだ。フォレストマンはちゃんと物の価値ってのを分かってるんだよ」


 なるほど、フォレストマンとのやり取りが長い者たちは、よく理解しているのだ。

 その日は、罠のお代わりと、若者が差し出した外装の板を受け取ることになった。

 板の値段はなんと若者の提示の三割ほどまで値切られていた。


 それ相応のキノコで交換されている。


「なかなかフォレストマンもやり手だなあ!」


「交渉上手が育ってきている。楽しいものだ」


 マレマが笑う。

 他のフォレストマンたちも楽しげだ。

 この交流もまた、彼らの娯楽なんだな。


 彼らの間に、確かに新しい文化が育ってきている。

 なお、安く手に入れた外装の板を何にするつもりなのかを聞いてみたら……。


「我々の技術ではこの板を加工できないからな。このまま使うとしたら……ちょっとしたアイデアがある」


 その後、ジャバウォックを誘い込んだフォレストマンたちは、ちょうどいい高さにねじ込まれた外装までにかの猛獣を飛び込ませ、自分から首をふっ飛ばさせたらしい。

 とんでもない武器を手に入れてしまったなあ!

 世の中、工夫しだいなのだ。

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