第453話 フォレストマンたち、畑を耕す

 雨季になると、湿った環境大好きな民が活発になる。

 両生人以外の代表はフォレストマンだろう。

 勇者村の奥にある森で出会った、ヤモリ人たちだ。

 ……イモリだったっけ?


 もう曖昧だ。

 だが、湿った環境大好きなのは間違いない。

 彼らは森から出てきて、雨の中を楽しそうに動き回っている。


 俺たちが雨合羽を身に着けて農作業をしていると、それを珍しそうに眺めてくるではないか。


「お前らもやってみるか?」


 フォレストマンに声を掛けたら、あちらさんは目を丸くした。


「いいの? 何か、難しい感じなんじゃないの?」


 俺たちと接するようになって、フォレストマンは共通語が大変上手くなった。

 もう、独自に宇宙船村と取引をしたりもやってるらしい。


「いいんだいいんだ。誰だって初めてはあるし、お前さんたちだって森をちょっと開いて農耕生活してもいいじゃないか」


 フォレストマンがやる農耕生活って、キノコ栽培じゃないかという気はするけどな。

 とりあえず鍬を握らせて、振り方をレクチャーする。

 今は小雨だから問題無いが、降り方が強くなったら俺たちが引っ込む。


 雨の中で頑張れるのはフォレストマンか……?

 いやいや、外部の戦力をあてにしてはいかん。


 それに雨でグズグズになる地面を掘り返してもなあ……。

 勇者村の土は特殊だから、一旦畑の形にしてしまえば、雨くらいでは変形しない。

 外では別だろう。


 さて、鍬をへっぴり腰で振り回すフォレストマン。

 最初はそんなもんだ。

 そもそも身体構造が、鍬を振り回すようにはできていないのだろう。


「やり方の向き不向きがあるだろ。俺ら人族はこう振りかぶるが……。お前らフォレストマンの骨格的にはこう」


 斜めに振り上げて、回転させながら下ろすやり方を伝授する。


「おーっ! やりやすくなったよ!」


 やはり。

 この世界は色々な人種がいる。

 同じ道具でも、人種によって使い方が異なるのは当然なのだ。


 こうして、フォレストマンに鍬の使い方を伝授した俺。

 振り返ると、他のフォレストマンたちもずらりと並んでいた。


 なんだなんだ、畑を耕すのはアトラクションか何かか……!?


「仕方ないなあ……。じゃあ、これが鋤でな。こいつはヤギに繋いで引っ張ってもらうんだ。そう、そう。あ、仕上がった肥持ってきて! ちょっと待ってろ、案内役に分身作るから。ツアーっ」


 俺が分身したら、フォレストマンたちが、やんややんやと盛り上がった。

 見世物ではないぞ。

 だが見世物みたいなもんだな。


 分身は放っておくと自我を持つので、肥を運んでくる指導だけさせて、すぐに戻した。

 気がつくと、畑のあちこちでフォレストマンたちが楽しげに仕事をしているではないか。

 農作業が新鮮らしい。


 仕事とは、こうやって楽しみを見出しながらやるのが健全かも知れない。

 仕事を覚えたフォレストマンたちを、あちこちの畑に派遣するなどした。


 彼らは大いに働き、昼食時に配給された野菜を大歓声で迎えて実に美味そうにガツガツ食べ、満足して去っていった。

 嵐のようであった。


「いやあ、助かっちまったなあ」


 ブルストが、かなりのピッチで畑作業が進んだことに満足している。

 うちの仕事は午前中で終わり、午後はまったりする。

 その午前だけで、フォレストマンに仕事のやり方を伝授し、これによって各畑の作業具合を大いに進行させたのである。


「雨季だからなあ。あいつらめちゃくちゃはしゃいでて、エネルギーを持て余してる感じだった」


「去年まではそうでも無かったんじゃないか?」


「おう。どうやらあいつら、宇宙船村と物々交換の取引をするようになってて、食生活が充実してきてるんだと」


「そうだったのかあ。それで、忙しさが減ったんだな」


 ブルストが納得する。

 そういうことだ。

 狩猟採取生活から、物々交換の文化を得たことで、暮らしに余裕が出たのだろう。

 地球であれば、余裕ができたぶんをさらに生産性へ向け、労働の複雑化と高コスト化を行い、さらに仕事が苛烈で辛いものになっていったなあ。


 足るということを知らなかったからこそ、地球は発展した……。

 だが労働者は地獄めいた毎日を送ることに。


 その点、フォレストマンたちは足ることを知っているのだ。

 物々交換以上のものを望まず、生まれた余暇で趣味をしたり、ゲームをしたりして暮らしているらしいのだ。

 その一団が、今回は畑に遊びに来たということだ。


「あいつら妙に真面目だし、物覚えがいいし、凄く働いてくれたな」


「おう。頼り切りはよくねえが、また来てくれるかなあ……」


 ブルストと二人、去っていくフォレストマンたちの背中を眺めるのだった。

 あっ、去っていくかと思ったら作業を再開したぞ。

 なんて勤勉なんだ。


 だが!

 俺たち村の衆は働かない!

 俺たちは仕事で、フォレストマンは娯楽だからな……。


 仕事はやるすぎると体に悪い。

 娯楽は幾らやってもいいのだ。


 ここで頑張ったら、労働時間のきりがなくなるからな!

 俺たちは鋼の意志でこれ以上の仕事はしない!

 しないったら、しないのである。


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