第452話 雨季に踊る両生人たち

 雨季が来た。

 ざあざあと雨が降る。


 雨季に育てるのは、水がたっぷり必要な野菜と穀物である。

 

 野菜は、ナスとか、カッパの里から仕入れたキュウリとか、ピーマンとか。


 穀物はトウモロコシに、この土地独自のキャッサバっぽい芋類。

 芋と言えば、クロロックに任せているのだが。


 俺は降りしきる雨の中、頭上に力場で傘みたいなのを作ってトコトコ歩いていくことにした。

 ちょっと向こうでは、今年用に新調された長靴姿の、マドカとサーラとバインがきゃあきゃあ言って水たまりでジャンプしている。

 雨の日でも子どもたちは元気なのだ。


 元気なのは子どもたちだけではなかった。


「はっはっは! ワタシ、とても体の調子がいいですよ! パピュータ、そちらに苗を!」


「です! やります! ます!」


 両生人師弟が、テンションも高く芋畑を動き回っているではないか。

 雨だもんなあ!

 湿気も高いもんなあ!


 両生人の季節がやって来たのである。


「いようクロロック、パピュータ! 元気だなー。やっぱ湿気が高くて雨降ってるとテンション上がるか」


「これはショートさん。ハハハ、ワタシたちの季節がやって来ましたからね。乾季の間は日陰が絶対に必要でしたが、雨季になれば皆さんに傘が必要になり、我々はこうして外を堂々と歩けるようになるのです」


「村長! どうもです! です!」


 本当に元気なようである。

 ついでに彼らに差し入れをした。

 俺が作った魚の肉団子だ。


「これはどうも。ありがたいお弁当です」


 ぺろりと飲み込むクロロック。

 瞬膜をパチクリさせた。


「いい喉越しです」


「あっ、僕も頂きます! ます! んっ! 美味いですねえ!!」


 喉で味わう主義の両生人たち。

 当然ながら、食事速度は爆速だ。


「で、芋はどう?」


「今新種を育てていますよ。この苗です。幾つかの種を交配させたものをそれぞれ別々に植えておりますが、さてどうなりますことやら」


「見事に実って欲しい物だな。そしてどんな料理ができるか楽しみだ」


 夢は広がっていく……。

 食こそ最高の娯楽だからな!

 このあたり、勇者村は日本みたいな価値観が広がっていて、エッチなことをするよりも飯が楽しい……みたいになりつつある気がする。


 勇者村の飯は全てが最高に美味いからな……。

 最近、たまに宇宙船村から人が来て飯を食っていく。


 だが、勇者村に入って飯を食えるのは選ばれた者のみだ。

 具体的には、俺が好き嫌いで選ぶ。


 美食の里、勇者村。

 この話はどうやらこの世界に広く伝わり始めてはいるようだが……。


 わはははは、残念だな!

 俺が認めた者以外には食わせないぞ!!


 きりがないしな。

 ちなみに、苗を植えるのはすぐに終了したようだ。


「雨の中の我々のパフォーマンスは乾季の際の人間の方々よりも高いですからね。骨格も柔らかいので、腰を痛める可能性も極めて低い」


「強い」


 いま明らかになる両生人の強さ。

 雨と湿度の多い地域では、人は両生人には勝てんな。


 森に住まうフォレストマンたちが、ジャバウォック以外の外敵を持たないのに似ている。

 森はフォレストマン以外の人族は生き残れなかったのだろう。


 そうか。

 雨季になれば、フォレストマンたちもどんどん遊びに来るだろう。

 彼らも今は、勇者村のグルメを知り、これを学んで持ち帰っている。


 最近ではフォレストマン料理というのが生まれつつあるらしい。

 今度ご相伴に与ろう。


「さて、我々も仕事が終わりました」


「おつかれおつかれ。じゃあ雨季の村をチェックして回るか」


「そうしましょう。パピュータ、水路の水加減調整をお願いします」


「了解しました! した!」


 イモリ人のパピュータが、ビシッと敬礼をした。

 ヤモリ人だっけ?

 フォレストマンもほぼ両生人だから、彼らはイモリとヤモリ両方の特性を持っているのかもな。


 クロロックと一緒に、村の中を歩き回る。

 肥溜めに到着したら、ニーゲルが雨合羽を羽織りながらせっせと作業をしていた。


 俺たちに気付き、頭を下げるニーゲル。


「お疲れ様ですニーゲル。雨期は肥の発酵も進みやすくなります。ですが、既にこれを完璧にコントロールしていますね。ワタシが教えることは何も有りません」


 クロロックは弟子の成長が実に嬉しいようだ。

 ニーゲルも頷いた。

 寡黙だが、やるべきことをきちんとやる男だ。ポチーナはこいつのそういうところに惚れたんだろうな。


「時にニーゲル、ショータはどう? まだ異常な身体能力を発揮したりしてない?」


 ニーゲルが困った顔をした。

 質問が難しすぎた。


「立って歩いてて、歩くのは早いっす」


「おう、そうか!」


 シーナよりちょっと早く生まれた子だったはずだが、もう足腰がしっかりしてきているらしい。

 肉体的な成長が早い。


「ワタシの子どもも生き残っていれば、今頃もう成人する頃合いでしょう」


「師匠子どもいたんすか!!」


 驚くニーゲル。

 話してなかったもんな。


「クロロックは両生人だからな、子どもの作り方が違うし、成人速度も違う。何歳で成人なるんだっけ?」


「一年でオタマジャクシを終えて、二年でカエル人になって知性を得ます。そこからさらに七年ほどですから、そうですね。十歳で成人でしょうか。そのため、カエル人の寿命は皆さん人間よりもやや短くなっています。五十年ほどですね」


「短いなあ。クロロックは幾つなんだ」


「ワタシは四十に手が届く頃合いです」


「うわあ、良いお年じゃん」


 彼には死なないで欲しいなあ。

 というか、クロロックはいい年だからこそ、終の棲家として勇者村を選んだのかも知れない。

 ここで、後継者を育てて自らの知識や技術を継承しようとしているのかも知れない。


 雨空の下だからではないが、なんとなく湿っぽい気分になってしまう俺なのだった。


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