第451話 台風、やって来た

 びゅうびゅうと風が吹き、扉がガタガタ鳴り始めた。

 ホロロッホー鳥とヤギたちが、ホロホロめえめえと騒ぎ出す。


「落ち着け落ち着け。うちは安全だからなー」


 俺が呼び掛けると、ホロホロめえめえがちょっと落ち着いてきた。

 とても信頼されている。


「おとたん! おそとみたい!」


「おー、マドカは好奇心いっぱいだもんなあ。いいぞいいぞ。窓を開けるわけにはいかないから、外の風景をここに映し出してやろう。コルセンターの応用で……こうだ」


 締め切られた我が家の空間に、巨大ディスプレイみたいなものを出現させた。


「そーら、台風だぞー」


 ビュービューと風が吹き、木々の枝が折れてぶっ飛び、浮かび上がるホロロッホー鳥の小屋。


「ホロホロー!!」


 ホロロッホー鳥たちがわあわあ騒ぎ始めた。

 我らの家がー!という驚愕であろう。


「大丈夫大丈夫。また作ってやるから。今はこのエンタメを楽しもう」


「めえめえ」


「なに? ヤギたちは腹が減った? ちょっと待ってろ」


 俺は外に瞬間移動して、草をかき集めてきた。

 これをどっさりと家の中に置く。

 すると、ヤギと鳥が集まってきて草をもりもり食べ始める。


 飯を食っていると落ち着くようだ。


「かぜすごいねー! とりさんもやぎさんもたのしいねー」


 マドカはこの非日常にニッコニコ。

 てくてく移動して、ホロロッホー鳥を撫でたり、ヤギをぺちぺちしたりしているな。


 カトリナは膝の上にシーナを載せて、なんだか楽しげに鼻歌だ。

 彼女のこれはこれで楽しんでいるらしい。


 シーナは、ガタガタっとか、ビューっとか外で音がするたびにハッとして、キョロキョロする。

 一番普通の反応かもしれない。

 だが、姉のマドカが平然としながら動物たちをモフっているのを見たら、自分もやりたくなったようだ。


「あーわーうーいー!」


 何かを赤ちゃん語で宣言すると、カトリナに床に下ろすように要請した。


「はいはい。マドカ、シーナに気をつけてあげてね」


「はーい!」


 マドカがいいお返事。

 シーナは最近、ちょっとした距離ならもりもり歩く。

 なので、動物たちまでの道のりをトテトテトテ!と移動していった。


 転ぶことを恐れぬ移動!

 そしてバランスを崩したところで、近くにいたホロロッホー鳥のお尻に突っ込む形で体を支えた。


「んーま!」


「ホロー!」


 ホロロッホー鳥がびっくりしているな。

 そしてシーナをひょいっと抱えて起こすマドカ。

 いいパワーだ。


「んまむー!」


 シーナがじたばた動いたので、マドカはそれをひょいっと床に下ろした。

 着地するシーナ。

 うーむ、歩き始めたばかりの赤ちゃんとは思えぬバランス感覚……。


 間違いなく俺の遺伝だ。

 いや、オーガも歩き出すのが早いらしいから、カトリナの遺伝かもしれない。


 まあ、間違いなく双方のフィジカルを受け継いでいるだろうな。

 魔法が得意なマドカに対して、俺の見立てではフィジカルが強めなシーナと考えているので……。

 今のマドカ以上のパワーになるわけか。楽しみである。


「すっかり落ち着いちゃったねえ。でも、台風って初めてだけど……怖いものだと思ってたなあ」


 カトリナがしみじみしている。


「本当は怖いんだぞ? 俺が台風経験者だったんで、対策立てられたのがとても良かった」


 村の各家庭でも、今頃は台風対策の家篭もりを堪能している頃であろう。

 こうして、数時間ほどびゅうびゅうガタガタという台風を堪能した。


 少しして、カーっと気圧が上がってくる気配がある。


「台風が去った。凄い速さでいなくなったな。これ絶対、勇者村の土地からエネルギーを受けて加速して、通過しながら燃え尽きただろ」


 後で聞いた話では、宇宙船村でそれなりの被害を出しながら、突然消滅したらしい。

 やっぱり燃え尽きたんだ。

 この世界では、何もかもが魔力で動くからな。使い切ったら消えるのだ。


 外に出るとカラッと晴れていた。

 ワイワイと外に出る俺たち。


 対して、クロロックとパピュータとフォレストマンたちが台風の中でパーティしてたらしく、晴れ渡る空の下でそれぞれの住処に戻っていくところだった。

 自由だなあ、両生人たち。


 あちこちの家から、子どもたちが飛び出してくる。

 きゃあきゃあ言う声が聞こえて、村の広場で合流。

 台風の感想などを話し合うではないか。


 うんうん、一大イベントだったもんな。

 対する大人たちは、一部はぐったり疲れてて、一部はちょっとテンションが高い。


 疲れてるのは、ピアとフーだな。


「ひいー、なんかうち、生きた心地がしなかったー」


「ピアが心配でずっとハラハラしてた」


「お腹に赤ちゃんいるもんなあ」


 ピアは今が一番不安な時期らしい。

 どうにか無事に済んで良かったな。


 これに対して、アムトとリタは元気いっぱいだ。


「いやー、テンション上がっちゃって」


「うん……も、盛り上がっちゃった」


 盛り上がりましたか……。

 台風チャイルドが誕生するかもしれない。


 我が家の扉からは、ホロロッホー鳥とヤギたちがわーっと外に飛び出していった。

 外に出てまず、彼らはフンをした。


 家の中でしないように気を遣ってくれたんだな……。

 なんてできた動物たちだ。


『もがもが』


「おお、アリたろう。なんだって、台風がちょっと怖かったから静かに隅っこにいただって? 道理でアリたろうの気配がしなかったはずだ……」


 アリたろうにも苦手なものはあるのだなあ。

 さて、この後は、肥溜めの囲いを外したり、炭焼小屋の復帰をしたり、鳥小屋の再建をしたり……。

 忙しくなるぞ!


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