第450話 黄金帝国からの台風
「ショートー」
「おお、どうしたビン」
いよいよ雨も多くなってきた頃合い。
乾季の終わりである。
いつものように黄金帝国を守りに行っていたビンが、慌てて戻ってきた。
念動魔法を自在に操るこの幼児は、その気になれば音速よりも速く飛べる。
今回は周辺のものに気を遣って、亜音速くらいでやって来たようだった。
「おおきいかぜがくるよ!」
「大きい風? どれくらい?」
「こーんな」
腕を広げて見せるビン。
彼の腕の先から、念動力で作られた巨大な腕が広がった。
勇者村を越えるほどの規模まで伸ばされた腕が、大きい風とやらのサイズを示す。
「台風じゃん」
「たいふう?」
「そう。こういう巨大な風のことを台風と言う。勇者村は内陸だし、乾季は乾いているからこういうのは発生しないんだがな。黄金王国とここを繋いだことで、気候に変化があったのかもしれないな」
黄金王国にいた海の小神も大人しくなったしな。
「あっちのくにでもひさしぶりだって! みんなおうちに、いたとかはってる」
「板張りにして家の中に風が入り込まないようにしてるんだろう。あるある。じゃあ、勇者村も備えておかねばな……」
台風来たる!
この情報はあっという間に勇者村を駆け巡った。
ついでに、宇宙船村にも知らせておいた。
規模的に勇者村は小さいから、台風対策を行き渡らせるのは簡単であろう。
それに対して、宇宙船村は広いし色々な人間がいる。
言うことを聞かないやつもいるだろうな。
まあ、そこは鍛冶神の采配に任せよう。
「えー、台風が来ます」
勇者村の面々を集めて、厳かに述べた。
すると、みんなが「オー」とどよめく。
これは何もわかってない顔だ。
「じゃあはい、これ、俺の幻魔法でそれっぽい絵を見せるからね。こういう超でかいつむじ風」
勇者村に迫る、アホほどでかい台風の姿を映し出した。
「オー」とどよめく一同。
これは分かった顔だ。
みんな、ちょっとウキウキしながら台風の備えを始めた。
特に、砂漠の王国出身のアキムとスーリヤ夫妻の家なんかは、台風どころか嵐は砂嵐しか知らない。
「湿った嵐ってどんなのなんだろうな!」
「ちょっと楽しみね」
なんて言いながら窓を塞いだりしてるのだ。
なお、ルアブとサーラは普通に怖がっている。
「たいふうこえええ」
「こわいよー。はやくいなくなってよー」
大人の方がはしゃいでるのな。
ところで、ピアとフーとグーの家では。
ピアが頭を押さえてのたうち回っていた。
「頭いたいー! なんだこれー!」
「そ、村長! ピアが大変だ!」
「落ち着けフー」
俺は新人パパにならんとする虎人の肩をたたいた。
「台風が近づくと気圧が低くなる。そうなると頭が痛くなる人がいるのだ。ピアは赤ちゃんもいるし、色々繊細な時なんだ。お前が守ってやれよ」
「そ、そうか!! おう、分かった! ピア、俺が守ってやるからな……!!」
「うう、フー、もふもふさせてー」
「よしよし」
夫婦がイチャイチャし始めてしまった。
グーは苦笑しながら、一人で台風の準備をしている。
「生まれてくる孫のためですからな。苦労とも思いませんわ」
「ああ、どうしても手が足りなければ呼んでくれよ」
さらに肥溜めなどを見て回る。
これは蓋をしておく。
「ニーゲルのところはどうだ?」
「大丈夫だ。ポチーナは家の窓を塞いでる。ショータはなんか喜んでる」
「ショータ、大物になるなあ」
なお、フックとミーの家は安心だ。
ビンがいるからな。
何も備えて無くても、ビンが念動力で守る。
あいつの念動力は一級品だからな。
もうそろそろ小規模な魔王に匹敵するだろ。
さらにさらに炭焼小屋や、発酵所などを見て回る……。
クロロックとパピュータが、ご機嫌でクロクロ喉を鳴らしていた。
「何故かウキウキしますね。ワタシ、台風は大好きです」
「やっぱり。カエルだもんな。それはそうと吹き飛ばされないようにだけ注意してくれよ」
「善処します」
「クロロックさんは自分が守ります! ます!」
「おう、パピュータ! 村の未来はお前に掛かってる。クロロックを頼むぞ」
教会を覗いたら、ヒロイナが「あったまいった!!」とか怒っていた。
そうだな、ヒロイナも頭痛くなるタイプだもんな。
だが、彼女は根性が入っているので、頭痛だろうが台風の備えをバリバリ進める。
最後に自宅だ。
マドカとシーナが、なんだかお祭りの気配みたいなのを感じているのか、二人でキャーッと盛り上がって走り回っていた。
カトリナは二人を好きにさせつつ、サクサクと窓に板を貼り付けたり、吹き飛ばされそうなものを家の中に運び込んだりしている。
オーガでパワーがあるので、こういう作業はお手の物なのだ。
「あらショート。村のみんなは大丈夫そう?」
「おう、問題なしだ。あとは鳥たちとヤギたちをうちに入れればおしまいだな」
黄金帝国方面のそらが、黒くかき曇ってきている。
風も強い。
台風はもうすぐだ。
ホロロッホー鳥たちが、ホロホローと鳴きながらうちのに駆け込んできた。
ヤギたちも入ってくる。
「とりさん! ヤギさん!」
「んまー!」
マドカもシーナも大喜びだ。
ついでにアリたろうも入ってきて、ガラドンと何やら相談を始めた。
おや、二匹とも外に出るのか。
なに?
台風の間、村をパトロールして困っている人がいたら守る?
立派な心がけである。
そろそろ台風がやって来る。
暗くなった家の中で、ホロホロ、めえめえと賑やかな中、その時を待つ俺たちなのだった。
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