第449話 乾季終わりの大収穫

 乾季が終わろうとしている。

 ちょっぴり涼しくなってきたもんな。


 今年も米は刈り取りが終わり、乾かすシーズンに入っている。

 雨季になる前に乾燥を終えねばなのだ。


 ずらりと並べられた稲穂の束を見ると、達成感が湧き上がってくる。

 うむ、今年もたくさん作物を作った。

 こいつが雨季から来年の乾季までの間の飯になるのだ。

 楽しみ、楽しみ……。


 雨季の間は、二毛作だ。

 アホほど肥沃な勇者村の土だが、そこにニーゲルがブレンドした肥料が、それぞれ育てる作物ごとに最適化された栄養分でプラスされる。


「あっちは大豆、こっちは小麦、こっちは……」


 割当を考えるのも楽しいものである。

 この五年間で、すっかり農業の人になった俺だ。

 いやあ、農業は実に奥深い。


「どうもショートさん」


「おっ、葉っぱの日傘を差したクロロック」


「風情があるでしょう。大型の葉っぱは水気を含んでいますから、日差しに煽られると水分が蒸発し、ワタシの肌も潤いを保てるのです」


「そんな仕組みが……」


「ワタシもしばらく発酵所で加工品を作成していたのですが、また畑の仕事もしようと思いまして」


「おっ、畑の賢者の帰還だな! いいぞいいぞ!」


 クロロックは、農業に関しては俺の師匠とも言える男だ。

 というか、勇者村の農作業の全ての根幹にこの男がいる。


 クロロックがいなければ、勇者村の現在の繁栄はなかっただろう。

 まさしく、勇者村の父である。


「それで、クロロックは今度は何をやろうと?」


 なんとなく洋画の翻訳っぽい質問をする俺。

 カエルの人ははい、と頷いた。


「品種改良をしましょう」


「品種改良を!!」


「この土地に実っている作物は、どれも自ら勇者村の地質に合わせて変化してきてはいます。ですが、基本的に彼らは通常の土地で育つ作物なのです。栄養が多すぎると、さぼってしまう作物が存在します」


「な、なんだってー!!」


「芋類がいけません。なので、栄養が多くてもサボらない……むしろ貪欲に栄養を溜め込むタイプの芋を作り上げましょう」


「おおーっ!!」


 すごい発言が来た。


「つきましては、研究用に畑の一部を拝借したく」


「いいぞいいぞ」


 ということで、二人で畑の一角をクロロックの品種改良用とすることにした。


「では、ジャガイモとサツマイモとキャッサバっぽい芋を託す……」


「託されました」


 ガッチリと握手を交わす俺たちなのだった。

 しっとりしてるなあ。


「スキンケアは大切ですからね」


「確かに」


 クロロックの新たな挑戦にエールを送りたい。

 これからは雨季だし、うちの村周辺の両生人や爬虫人も元気に動き出すことだろう。

 カッパだってやってくるだろうし。


 去りゆく乾季を惜しみ、村の中を練り歩く。

 いやあ、しかしこりゃあ殺人的な直射日光だな!

 だが、湿気がない分、日本よりも快適だな!


 日本のあれは死ねたからなあ。


 日陰で休憩しようとしたら、深刻な顔をしたリタがいた。

 アムトの嫁さんになった彼女だが、その困った顔はどうしたことだろう。


「あっ、村長……!」


「どうしたどうした」


「実は……。ピアに赤ちゃんができたのに、私はまだなので焦ってしまって」


「焦るのが早すぎる」


 せっかちすぎないか。


「いいかリタ。そもそもそんなに簡単に赤ちゃんはできない」


「そうなの?」


「そうなのだ」


「じゃあなんでピアはこんなに早く」


「することをたっくさんしたからだ」


「することを……!!」


 おっ、リタが真っ赤になった。


「さてはお前ら夫婦、まだ初々しい感じだな……? いいんだぞいいんだぞ。ゆっくり距離を詰めていけ……」


「は、はい……」


 解決したようである。

 故郷の世界だとセクハラだな! わっはっは。

 俺は若人にアドバイスをした達成感に満たされながら戻ってきた。


 すると、今度はブルストとパメラが何やら木陰でお喋りしているではないか。


「よう!」


「おお、ショートじゃねえか! 散歩か?」


「ああ。村の中を見回っててな。二人ともどうしたんだ、夫婦揃って」


「それはな……」


「二人目を作ろうかって話をしててねえ」


 おっとパメラから爆弾発言が!!

 まだまだ、まだ増えるのか、勇者村の赤ちゃんたちは!!

 ベビーブームが来てるなこれは。


「いいんじゃないか。バインも大きくなってきたもんな」


「ああ。それに小さい頃のカトリナよりあいつは頑丈でな……。本当に手が掛からない」


「抱っこされるよりも、自分の足で走り回ってる方が好きだしねえ。村にはバインに色々教えてくれるお姉さんたちもいるしさ」


 おお、マドカとサーラな。

 完全に尻に敷かれてるもんな、バイン。

 兄貴分であるビンは、バインからするとあまりにも人間的に清廉すぎて参考にならないようである。


 リタは子どもができないと悩んでいたが、こっちはなんかあっという間に二人目ができそうだよな。

 ブルスト、年の割にめちゃくちゃ元気だもんな……。


 カトリナが片付いてから、かなり若返った気もする。

 そういう意味では彼の若さを担保しているのは俺でもあるのか……!


「ショートは三人目行くのか?」


「無論だ」


 ガッツポーズを見せる俺。

 男の子か女の子。

 どっちが来ても最高に可愛いからよし!


 勇者村の人口はまだまだ増加傾向。

 留まるところを知らないのだ。


 少しずつまた、村も拡張していかなければなあ……!


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