第448話 しみじみショート

 勇者村である。

 実家に一泊した後、帰ってきたのだ。

 マドカは一晩中爆睡し、シーナはおむつにおしっこをして目覚めて、ふぎゃぎゃーと泣いた。


 夜泣きイベントに、興味津々で海乃莉がやって来て、「ふむふむ、こんな風に……。へえー」と感心していた。

 今からお腹の子どもの事を考えている。

 準備がいい。


 なお、パワースは寝ていたので、朝になって海乃莉に何やら言われていた。


「いや、俺、敵意を感じないと起きないからな……。戦士は体が資本だから、よく寝ておかないと」


「むう、こっちと常識が違う……!」


 唸る海乃莉だった。

 それは特殊なパターンだからな。な?


 我が家はとにかく、母もいることだし手分けして行こうと言う話で、その場は収まった。


「うちはどうだったかなあ」


 勇者村にて、カトリナと思い出話をする。


「マドカは夜あまり起きなかったような……」


「ちゃんと夜も起きてきて、私がおっぱいあげてたよ? だけどほら、うちってお母さんグループで交代交代でお世話したりしたでしょ」


「そうだった」


 お母さんグループがお互いの昼寝時間を作れるように、チームを組んで子育てしていたのである。

 勇者村は共同体なので、そこら辺がとにかく強い。

 むしろ、現代日本のほうが大変だろうな。


 個人の自由が効く代わりに、手助けを得られないようになったわけだ。

 うちの村は個人的な時間がほとんど無いが、その代わり何をやるにも絶対に助力が得られるぞ。

 俺が作り上げた社会だ。


「ハッ! 海乃莉もこっちに来たらいいのでは……」


「そこはミノリ次第じゃないかなー」


 本人の意志を尊重するカトリナ!

 まあ言われてみればそうだよな。

 パワースはあっちで職に付き、バリバリ働いているそうだし……。


「うう、力を極めてもままならぬ事は世界に溢れているなあ。俺は毎日教えられているよ」


「そこはショートが優しいからだとは思うけどねー。みんなショートのこと好きでしょ?」


「俺、好かれてるの?」


「好意に無自覚なのは良くないよー。私たちが初めての時だって、その事をショートが反省したからでしょ?」


「そうだった……!!」


 カトリナからも教えられてばかりだなあ。

 うちの奥さんは本当に人ができている。

 オーガだけど。


 自慢の妻だなあなどとしみじみ思いつつ、俺はゴロゴロするのである。

 最近、色々活動していたから、一日くらいこうやって転がっていても罰は当たるまい。


「おとたん! あーそーぼ!」


「遊ぶか!!」


 飛び起きる俺である。


「行ってらっしゃーい」


「行ってくる」


 マドカを連れて外に遊びに行く。

 外はちょっと涼しくなってきていて、そろそろ乾季の終わりを感じる。

 雨季はむしっとするけど、雨が降った後はまあまあ爽やかな感じになるんだよな。


 昆虫が大量に発生するので、対策を立てておかねばならない。

 なお、我が村では虫も資源としてちゃんと消費している。

 主にホロロッホー鳥たちのご飯だが、人間もちょっと食べたりする。


 地球にいた頃は、昆虫食などゲテモノであった。

 だが、これがまあ、硬い部分を取り除いて衣をつけて天ぷらにするとなかなか美味い。

 珍味だ。


 いや、普通の肉のほうが全然美味いから、変わり種を食べたいときだけ食べる感じなんだが。

 勇者村の食生活は豊かだからな……。

 だが、増える昆虫を駆除するだけではもったいないではないか。


「おとたん、むし!」


「おう、虫が出てきたな」


 日陰の川べりに、蚊柱が出現していた。

 大量の蚊がぶんぶん取んでいる。


 これは鳥のごちそうでもあるので、近隣から取んできた色とりどりの鳥たちが、飛来してはパクパクやっていた。


「むし、おいしいのかなー」


「マドカは興味あるのか?」


「んー」


 首を傾げるマドカ。

 

「おいしい?」


「たまに大人が天ぷら食べて微妙な顔してからガッハッハって笑ってるだろ。あれだ」


「うえー」


 どうやらマドカにも美味しくなさそうに見えていたらしく、我が家のおちびさんは顔をしかめて舌を出した。


「まお、いらなーい」


「おう。肉も魚もたっぷり手に入るところだからな、ここ。美味しいものが簡単に得られるなら、それが一番だ。ま、維持していくのが大変なんだけどな」


「おー」


 これはわかってない顔だな。

 まあ、まだ三歳になったくらいのおちびだからな。


「マドカ!」


「バインだ!」


 向こうから、のしのしとバインがやって来る。

 後ろにダリアがいるので、二人で散歩をしてたらしい。

 そして、二人は蚊柱を見つけて、おおーっとどよめいた。


「ん」


 ダリアが指差す。

 バインはハッとした。

 なんだ。今、どういう意思の疎通が行われたんだ。


 バインは蚊柱に向って、果敢に突撃した。

 そして通り抜ける。


「んー!」


 おお、バインが何かアピールしている。

 その腕に蚊がくっついて、血をちゅうちゅう吸っているではないか。


 マラリヤとかこの世界はあるのかな。

 ちょっと心配である。


 あ、いや、蚊はバインの表皮を貫けず、針状の口吻がぐにゃっと曲がっていた。

 これがオーガの肌か!


 カトリナなんかは肌が柔らかいが、それでもむにむに揉むと皮膚の弾力が画鋲くらいでは貫通できない頑丈さを感じさせてくれるもんな。

 ということはマドカも……。


「まおもやる! わおー!」


「うおー、蚊柱に突撃した!」


「ん!」


「おっと、ダリアはやめておこうな、な」


「んー!」


 暴れるダリアなのだが、お前さんは人間のおちびだからな。

 オーガの血が混じった二人とはお肌の頑丈さが違う!


 そうだな、ちびたちにもそろそろ、種族の違いというものを教えていく時期が来たのかもしれない。

 そんなことをつらつら考えているうちに、俺の中にあったしみじみとした気持ちは吹き飛んでいくのであった。


 やっぱり、生活のことで忙しくしているのが一番だな……!!


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