第447話 パワースこの野郎
旧友と旧交を温めて、なんかほんわかした気分になって帰ってきたらパワースが帰宅していた。
「あっ、ショート」
「パワースおめでとうこの野郎!!」
俺は縮地の要領で間合いを詰めて、パワースの肩をバチーンと叩いて祝福をした。
「ぬおおーっ!?」
これをギリギリで受け流すパワース。
腕は鈍ってないな。
個人戦闘力ならば地球最強であろうパワースだが、慢心せずに戦うセンスを磨いていたらしい。
お陰で俺のツッコミを回避できたというわけだ。
俺はめちゃくちゃ手加減してたけどな!!
「危ねえ……! 本気で命を取られるかと思ったぜ」
「俺ももう人の親だからな。そう、大人になったってことだ」
「ああ。念のために体を鍛えていて良かったぜ」
ニヤリと笑うパワース。そして俺。
「ショートくん、何やってるの!! だめでしょー!!」
いかん!
海乃莉も近くにいた!
叱られてしまった。
「それは叱られるよねえ。私はショートならちゃんと寸止めするって信じてたけど」
「お、おう、寸止めだよ寸止め」
カトリナの目の純粋な輝きに見つめられ、震える俺。
いや、これは分かってて俺をたしなめてるな!?
流石うちの奥さんだぜ……。
「これからも寸止めだよね?」
「はっ、寸止めです!」
うちの女たちは強いな……! とても勝てん。
ということで、パワースとは握手して仲直りしたぞ。
海乃莉にお茶を淹れてもらい、談笑などする。
子どもの性別はどっちがいいとか、名前は何がいいとか。
両親は、この家を二世帯住宅に改築するつもりらしい。
でかくなるんだな。
これは楽しみだ。
そんな話をしていたら、お茶の間の大型テレビを抜けて両親が帰ってきた。
あっ、一緒にマドカとシーナがいるじゃないか。
「おかたん!」
「んまー!!」
ちっちゃいのが猛烈な勢いで走ってきて、カトリナにダイブした。
「留守にしててごめんね! おー、じいじとばあばに遊んでもらったの? 良かったねえ」
右腕にマドカ、左腕にシーナを軽々と抱きとめ、優しく語りかけるカトリナなのだ。
あのパワーは流石、オーガだな。
なんかマドカとシーナをお手玉してるし。
「これ? これね、二人が喜ぶあやしかたなの。やってみるといいよー」
「俺とカトリナしかできないやり方だよなあ」
オーガのパワー、小柄で、ちょっと肉付きのいい人間の女性みたいな見た目のカトリナでも、ヘビー級ボクサーくらいの身体能力があるからな。
特に鍛えなくてそれである。
あれだ。
ゴリラは草だけ喰ってても、ゴリラであるというだけでムッキムキでパワフルなのと一緒だ。
鍛えているオーガは、ブルストみたいになる。
あいつ、腕力だけならヒグマといい勝負だろう。
なお、俺はドラゴンに一方的に殴り勝つので、まあ比較対象としては不適格である。
「へ、へえー。びっくりだなあぁ」
海乃莉が引いてる。
お前の横にいるパワースも多分同じこと出来るぞ。
今度は両親と二世帯住宅についての話をした。
ほう、父親の退職金を使って?
将来の生活は大丈夫?
「いざとなれば勇者村に頼らせてもらうから」
「あー、そっちかあ」
俺としてはやぶさかではない。
ただなあー。
うちの世界、ワールディア、人の寿命ってのが明確に定められてる世界なんだよな。
こっちに来た瞬間に二人ともポックリ逝くかもしれん。
ま、それはその時だろう。
一応そういうリスクも話しつつ、二世帯住宅の計画を聞かせてもらったのだった。
海乃莉の子どもが生まれる来年辺りには完成させるつもりらしく、これは楽しみである。
遊びに来たい。
「子どもが出来るからな。俺はちょっと仕事を増やして頑張ってる」
パワースがいっちょ前に父親の顔になろうとしている。
以前のギラギラしてた感じとは別人だな。
「落ち着いてきたじゃん」
「おう。なんかな……。まだ生まれてないけど、海乃莉と子どものためなら命を賭けられるって気持ちだ。ショートもこんな感じだったのか?」
「うむ。お陰で落ち着いた」
「落ち着いた……?」
訝しげな表情をするな!
そんなやり取りをしているうちに、カトリナに抱っこされたマドカとシーナが、ぷうぷうと寝息を立てて眠ってしまった。
「あれ、もう寝てしまった」
「向こうで晩ごはん頂いてきたから大丈夫よ」
母が、孫の寝顔を見ながら微笑んでいる。
なるほど、では俺とカトリナは、こっちで夕飯を食って帰るとするか。
俺たちが飯を食う間、マドカとシーナは布団を敷いて寝かせてもらうことにする。
うーむ……。
奥の座敷で娘たちが寝ている姿に、手前のキッチンでは海乃莉とパワースが飯を作っている。
現実世界の光景だなあ。
本来はこっちが俺の居場所だったのだろうが、今は、異世界との扉となったテレビの向こうが帰る場所だ。
ファンタジーな異世界が居場所になるとは思わなかった。
可愛い奥さんも超可愛い娘たちもいるしな。
「なー」
「ねー」
俺が同意を求めたら、何を言わんとしているのかをすぐ理解したらしい。
カトリナがニコニコしながら頷いた。
「私がショートが向こうにいる理由を作ったんだから」
「おお、言いますねえカトリナさん」
「それはもう。妻ですので」
お互いに見つめ合って、わはは、こいつめーと笑いあった。
そこで、本日の夕食がサーブされてくる。
「ハタハタでーす」
「なっつかし……!!」
地元名産の魚を食べつつ、ゆっくりと夜は更けていくのだった。
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