第445話 甥っ子か姪っ子の予感

「あらショート。言ってなかったかしら。海乃莉のお腹の中に子どもがいてね」


「な……なんだってーっ!?」


 勇者村に遊びに来ていた母親から、とんでもないニュースを聞いたのだった。


「待て待て待て、母よ! 海乃莉が赤ちゃん!? お腹の中に!? することをしてたってことか!?」


「あんただって子ども二人作ってるじゃない。孫が増えて嬉しいわー」


「ばあばだ! ばあばー!」


「わうー」


「あらーっ!! マドカちゃん! シーナちゃん! あらあらあらー、ばあばですよー!」


 母が甲高い声を上げて、うちのおちびさん二人に挑みかかっていった。

 これはもうしばらく、孫にメロメロのおばあちゃん状態である。

 情報を引き出すことはできまい……。


 俺は衝撃を受け、ふらふらと村の中を歩いた。

 午後である。

 野良仕事を終え、みんな日陰で涼んでいる。


 俺だけが炎天下を練り歩く。

 まあ、どんな気象が襲いかかろうと、今の俺には大した痛痒も与えられないのだ。

 そんなことより、海乃莉に赤ちゃん!?


 パワースの野郎、やりやがったな。

 海乃莉がまだ何歳だと思ってるんだ。

 まだ……何歳……。


 俺がこの世界に召喚された時にはまだ中学生だったけど、あれからもう八年経つから……。

 二十三か。

 あー、もう二十三かあ。


 そりゃあ、できても仕方ないよな。

 俺、冷静になる。


 元々あっちにいた頃なら、俺は納得できなかっただろう。

 何せ、向こうでも平均的な結婚年齢は二十七とか八とかの時代だ。

 二十三で子どもなんて早いのでは!? お兄ちゃん許しません!!とか言ってた気がする。


「だが……俺とカトリナが致して子ども作った時なあ……。カトリナの年齢からして、俺は地球なら逮捕されている……」


 何せ、今年で二十歳になるカトリナである。

 俺とカトリナが結婚して、五年が経とうとしている。


 つまり!

 うちの奥さんはめっちゃ若い!


「俺にパワースを責める資格は無い……。本当に全く、これっぽっちも無い……!! くそーっ!! おめでとうを言いに行くかあ!」


「なになに? どうしたのショート! えっ、ミノリに子どもが!? めでたーい!」


 噂をしたらうちの奥さんだ。

 じゃあ、二人で海乃莉とパワースにおめでとうを言いに行くか、ということになった。


 途中で父とすれ違う。


「おうショート。母さん見なかったか?」


「あっちで孫と遊んでる」


「そうか! 父さんもな、マドカちゃんとシーナちゃんと遊びに来たんだ。じいじも来たよー!」


 父が猫なで声を出しながら、行ってしまった。

 孫というのは、もうめちゃくちゃに可愛いものらしい……。


「じゃ行くか」


「ちょっと待ってショート! 祝福に行くなら、やっぱりちゃんとした一張羅を着ないといけないと思うの。私、この間すごくいいの作っちゃった」


「おお、あれかあ」


「ショートの分も作ったから」


「ペアルックかあ! いいなあ。じゃあ、それで行こう」


 そういうことになった。

 二人で、エキゾチックな民族衣装っぽい格好になり、地球の実家に到着する。

 海乃莉は就職したばかりだと思ったが、もう産休か。確か公務員だったはずだから、休む制度は充実していることだろう。


 ということで。

 二人で外を練り歩き、市役所に行った。


 目立つ目立つ。

 俺の生まれ故郷は保守的な地方なので、民族衣装なんかで歩いているのがいるととにかく目を引くのだ。


 だが、みんなカトリナをみて納得する。

 褐色の肌で、角みたいな飾りを付けたむちっとした美人さんだ。


 外人さんかあ、と理解すると、全く違和感を感じなくなるというものだ。


「ちょっと海乃莉がいる部署を探すから待っててくれ」


「はーい。うふふ、なんかみんな注目してたねー。やっぱりこの服が可愛いって分かるのかな」


「分かるだろうなあ。みんなきっと、今夜はカトリナの服の話題で持ちきりだぞ」


「そお? 嬉しいなー」


 ニッコニコのカトリナなのだった。

 さて、魔法を使って海乃莉を探すまでもない。

 受付で、海乃莉の名前を出して探してもらった。


「お兄さんなんですか? 奥様に服を作ってもらって? へえー」


 受付の、妙齢のお姉さまに物珍しそうに見られてしまった。

 なお、お姉さまの目はカトリナを見て、納得の色に染まる。


「国際結婚、いいですよねえ」


「ああ。文化の違いはあるけど、そういうのを一つ一つ乗り越えていくと達成感があるんだ」


「あの……失礼ですけれどお子さんは」


「娘が二人。かわいくてねー」


「素敵ですねえ……」


 そんな話をしていたら、海乃莉がやって来た。


「ショートくん! 来るなら来るって言ってくれればいいのにー!」


「俺、異世界にいるから電話をするという選択肢がない……」


「あ、そっか」


 海乃莉、久々に見ると垢抜けたものだ。

 仕事をしているから、お化粧もしっかり決めていて綺麗なお嬢さんになっている。


「きゃーっ、ミノリさん可愛い! どういうお化粧をしてるの? 教えてー!」


「カトリナさんもお洋服可愛い! ショートくんとお揃いなの!? やーん、ペアルックいいなー!」


 きゃっきゃとはしゃいでいる。

 うーむ、仲良きことは美しきかな。


 うちの可愛い奥さんと、可愛い妹が二人できゃっきゃとはしゃいでいる。


「あ、そうそう! ミノリさん、おめでとうございます! 赤ちゃん!」


「聞いてたの!? ありがとうカトリナさーん!」


「赤ちゃん可愛いよー。男の子か女の子か楽しみだねえ」


「楽しみ楽しみ! パワースったらすっごく張り切っちゃって!」


「うんうん。子どもができると、お父さんはすっごく頑張るもんです」


 経験者、カトリナは語る!

 確かに、子どもができるとモチベーションの在り処が変わるな。

 人生の主役が自分ではなく、子どもになるような感覚だ。


「色々教えてね? カトリナさんはお母さんの先輩だから」


「任せて!」


 カトリナはどーんと胸を叩いてみせたのだった。

 胸元の立派なものが、ぶるんと揺れた。

 海乃莉がこれを見て、


「はー、なんか母は強しって感じだわ」


 しみじみ呟くのだった。


 いっけね、俺がおめでとうを言ってないわ。


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