第443話 元勇者の英才教育!?
勇者村の小さき人々に魔法を教える約束をしてしまった。
丘ヤシシャーベットを作るべく、おちびさんたちは鼻息も荒く集まってくる。
本日は午前中、俺がおちびたちの相手をするので、手が空いた奥様数名が俺の代わりに畑に出ている。
済まんな。
任せたぞ……!
「わーわー」
「おーおー」
「うえー!」
シーナとギアとショータが、地面に敷かれたゴザの上で手をペチペチしている。
お兄ちゃんたちとお姉ちゃんたちが今から魔法をやる、というのを分かってるんだろうか。
完全に観客モードだ。
ちなみに、まだまだ赤ちゃん要素が強いこの三人は、アリたろうがちゃんと見てくれている。
安心だなあ。
「はいはい、ではシャーベット魔法を教えまーす!」
わーっと小さき人々が拍手した。
「はい! おとたん!」
「なんだいマドカ!」
「まほうのおなまえ、なあに!」
「あっ」
マイクロサイズのワールドエンドコキュートスだったので、俺としてはワールドエンドコキュートスちっちゃいの、という名付けを脳内でしていた。
だがこれはいかん。
可愛くない。
魔法は名付けたもののイマジネーションが威力や範囲を決めるところがある。
少なくとも、俺が作り上げた魔法は全てそうだ。
つまり、ワールドエンドコキュートスなどという名前にしてしまうとだな。
アホみたいな威力の危険な魔法を伝授してしまうか、あるいは名前の意味が分からなくて、おちびさんたちが使いこなせない可能性が出てくるのだ。
「うーん……シャベシャベ」
「かわいくなーい」
「ぶー」
「だめー」
おっと、女子たちからダメ出しが出たな。
「じゃあ、みんなで名前を考えてみよう! いい名前を付けるんだぞ」
小さき人々は「はーい!」といいお返事をした。
なお、これで魔法を生み出し、身につけた瞬間に俺と同じ系統の魔法以外使えなくなる。
最初に身に着けた魔法系統で、その人物の魔法適性は決まっちまうみたいなんだな。
俺がたまたま見つけた、勇者魔法とでも言うべき異常な威力と異常な拡張性と、異常な自由さを持つこの魔法。
才能があり、最初にこの魔法を唱えなければ使うことができないのだ。
「みんな! ひえひえにして、おかやしを、おいしいシャリシャリにするまほうだよ! かんがえよう!」
「流石カールくん、ちびさんたちが理解しやすいワードを選んでくれる」
なお、ビンはふんふんと頷き、なんか念動力を使って周辺の魔法元素の動きを停止させ、冷凍する魔法みたいなのを発動させている。
おいおいおい。
ちょっとは手加減してくれ天才。
俺も知らない原理で全く新しい魔法を生み出しちゃったよ。
「ビン、ステイ、ステイ」
「あっ、ごめん!」
ビンは慌ててオリジナル凍結魔法を消した。
ちびさんたちが振り返った時には、ビンの魔法はどこにもない。
危ない危ない。
あれは再現不可能な魔法だからな。
ビンのユニークスキルみたいなものだ。
「なーにやったの」
「ひみつ!」
「えー!」
マドカに迫られて、ビンが誤魔化しながらふわーっと飛び上がった。
「にげたー! ずるいー!」
わあわあ騒ぐマドカである。
「マドカ! おなまえかんがえなくちゃ!」
そこできちんと本題を忘れないサーラである。
さすがはこの場にいるおちびさんたちのお姉さん役。
「そだった。おなまえねー」
マドカが戻ってきた。
付き合いが長いから、サーラはマドカのコントロールをよく分かっているのだ。
「シャリシャリ!」
バインが意見を発した。
横にいたダリヤが、じーっとバインを見る。
「シャリシャリ?」
「シャリシャリ!」
「シャリシャリかあー」
マドカが頷く。
「まおはいいとおもうなー」
「わたしもそれがいいな!」
おお、サーラの許可も出た。
小さき人々は、新たな魔法の名前をシャリシャリとすることに決定したのだった。
「よーし、じゃあ魔法を使うぞー。ここにいるみんな、魔法を使う才能があることは確認してるから、あとは魔力を練るだけだ」
だが、小さい人々はまだほんの子どもである。
集中するのが難しかろう。
魔力を練るのは退屈だったりもするからな。
なので……。
「これは俺が作り出した、魔力練り練り装置だ!」
取り出したのは、くるくる可動する知恵の輪みたいなモノである。
俺が魔力で作り出した、ちびっこを魔力練りに集中させるアイテム。
ぶっちゃけ、こいつには何の力もない。
だが、むちゃくちゃに頑丈で、バリバリに動く。
小さい人々は、すぐにこれに熱中した。
うわー、とか、わおーとか言いながらぐるぐる回している。
集中してバリバリ回すところに、俺は指示を与えた。
「シャリシャリ! はい続けて!」
「シャリシャリー!」
ちびさんたちが叫ぶ。
魔法を名付けさせたのはこのためだ。
この子たちの間で、丘ヤシをシャーベットに変える魔法は、シャリシャリである。
つまり、シャリシャリという言葉はそういう概念を含んでいると言える。
小さき人々がそれを意識しながら、シャリシャリの名を唱えて一心不乱に練り練り装置を回せば……!
「ししょう! まりょくがでてきてます!」
「いいねいいね」
これで魔力を練れるようになったら、シャーベットを作る時にはいつでも練り練り装置をイメージさせて、魔力を一定の形で発動させることができるわけだ。
ビンみたいな、イメージだけでなんでもやってくるタイプは別。
あれは天才。
だが、この小さい人々も全員が魔力という才能を持っている。
サーラまで魔法が使えるようになっているのはびっくりしたが。
「よーし! じゃあ、明日はシャーベットに挑戦しよう!」
俺が宣言すると、小さき人々はキャーッと大歓声をあげるのだった。
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