第442話 王都土産は新種の丘ヤシ

 マドカとアレクス王子を遊ばせて、満足したので帰ってきた。

 最後までアレクス王子は警戒態勢だったなあ。

 また次に行く頃には変わっているだろう。


 子どもの成長はとにかく早いのだ。

 一年くらい見てないと別人に成長している。


 今はまだ、人見知りとかする時期なんだろう、うむ。


「たのしかったねー!」


「そうだなー」


「おとたんなにかもらったー?」


「もらったよー」


 俺はアイテムボクースから、もらったそいつをマドカに見せた。

 それが何なのか、すぐに理解したマドカが目を輝かせる。


「おかやしだー!! まお、だいすき!」


「おうおう。ジューシーで甘くて美味しいよな。だけど、こいつは新しい丘ヤシなんだ。それも、これから植えて増やしていくやつな」


「うめるの?」


「そう。畑で育てるの。そうしたら、新しい丘ヤシがたくさん成るんだ」


「おー!! たくさん!!」


 マドカがテンションをめちゃくちゃ上げるくらい、勇者村の子どもたちにとって丘ヤシは定番スイーツなのだ。

 もともとは、普通の丘ヤシ。

 甘さ控えめのこの世界らしい果物だったのだが……。


 どうやら、年を重ねる度に丘ヤシの糖度が増しているようだった。

 昨年あたりに、モノによっては甘いスイカくらいの糖度を達成し、ついに勇者村丘ヤシは一つの極みに到達した。


 そしてトラッピアからもらったこの丘ヤシは、収穫量を増やす品種改良が施されたものだという。

 前よりも多くの丘ヤシが穫れるかもしれない。

 これは嬉しい。


 樹木ごともらったので、すぐ植えられる。


 帰還後、マドカは「おかたんにあれくすのことおしえてくるねー!」とトテトテ走っていってしまった。

 俺は農作業スタートだ。


 もう、時間帯は夕方。

 男たちは明日の準備のため、道具の手入れをしたりゴロゴロ転がったりしている頃合いなのだが……。


「ほう、新しい丘ヤシですか!」


 涼しくなるこの時間に、活発に動き出す者がいる。

 そう、勇者村は畑の賢者、カエルの人ことクロロックである。


「王国でもらってきてな。俺たちがいない間に、品種改良が進んでたらしい。平和な時代も五年続いてるからな。こういうのをじっくりやれるようになったってわけだ」


 何よりである。

 最初の丘ヤシを手に入れたときは、カトリナがめちゃくちゃ喜んでいたっけなあ……。

 しみじみしていたら、クロロックがその辺りをトコトコ歩き回り、ここだというところでカッと目を見開いた。


「ここです! 木を植えるなら、土の質がとても良いです! 丘ヤシは本来、砂漠に生える植物ですからね。砂の中を深く根を伸ばしているのです。つまり、土は柔らかい方がいい」


「なるほど、つまりここがいいわけか! 行くぞ! ツアーっ!!」


 俺は叫ぶと、大地を衝撃波でえぐり取った。

 そして、樹木をスッと植える。


「ショートさんがいると、話が早くてとてもいい! これで植樹は終了です。しっかりと根付くのを待ちましょう」


 そういうことになった。

 勇者村の土地は魔力とうか、神気に満ち満ちているので、普通の木でも馴染んでしまえば特殊な個体に変化するのである。


「大きく育てよ、丘ヤシ……!!」


 幹をぺちぺちして、こいつの今後に期待する。

 なお、味はうちの丘ヤシがダントツで優れているらしい。

 数年して、収穫量に優れたこの新種が甘く育ってくれれば何よりだ。


 夕食の席で、「新しい丘ヤシの木を植えた。本格的に食えるのは再来年くらいだろうが、めちゃくちゃ収穫量が増えるぞ」と伝える。

 大人たちの反応は好意的だったが、小さい人々は「えーっ」と不満げなのだった。


「なんでなのだ」


「ながいよー!!」


 マドカのみならず、ビンまでが不満げだ。

 子どもの2年間は永遠みたいな長さだもんな……!


「仕方ない。じゃあ今日は丘ヤシで俺がスイーツを作ってやろう……。特別だぞー?」


 俺の宣言に、小さい人々がうわーっと盛り上がるのである。

 今回のスイーツは、丘ヤシを凍結させて作るシャーベット。

 緻密な凍結具合のコントロールが必要になるから、非常に高度な作業である。


 傍目からは、あっさりとシャーベットが完成する。

 勇者村にはこの辺りの専門家がいないので、みんなやんややんやと盛り上がるわけだ。


「いいなあ。ぼくもつくれるようになりたいなあ」


「ビンは念動魔法中心だからな。やるにはちょっとしたコツが必要だろう。今度やり方を教えてやる」


「まおも!」


「わたしもー!」


「ん!」


「やる!」


 マドカとサーラとダリヤとバインまで挙手してきたぞ!


「四人とも、魔法を学ぶつもりか……。いけるかなあ……」


「ししょう! ぼくがてつだいます!」


「カールくん!!」


 優れた弟子が協力を申し出てくれた。

 これはありがたい。

 俺の魔法を正統に受け継いでいるのは、このカールくん一人だけなのだ。


 では、みんなでシャーベットを作るため、氷魔法の習得会を開催するとしよう。


 みんなすっかり、丘ヤシの話を忘れて、いかにしてこの美味しいシャーベットを作るかという話で盛り上がるのだった。


 ちなみに、俺の魔法をマスターしてしまうと通常の魔法を使えなくなってしまう。

 いいのかな……。

 いや、いいのか?


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