第440話 王都へお出かけ

「おとたん!」


「なんだね」


 今日もマドカが何か思いついたらしく、俺の足のあたりをぺちぺち叩いてきた。


「今農作業中だからお昼ごはん終わったらね」


「ごはんー! わかった!」


 ご飯と聞くと物わかりが一気によろしくなるマドカなのであった。


 お昼は暑くても食欲が進む、冷製スープご飯である。

 テーブルの中心に、蒸した肉と野菜が盛られていて、これを好き勝手に取ってスープに浸けて食べる。

 ソース類は自由に使っていいのだ。


 みんなでさらさらと食った。

 美味い美味い。


 料理のレパートリーは、ミーとスーリヤとポチーナの三人が、宇宙船村に出かけていって取材してきている。

 作れる料理の数はどんどん増えているぞ。


 料理の魔本も同道しており、彼もページが増えていくのを喜んでいるそうだ。

 ちなみに、魔本は記録用紙と、奥様方の護衛の二つを担っている。


 今のところ、全部の料理が美味い。

 これはスーリヤとポチーナという料理上手が、下手な冒険をせず、下味は鉄板の味付けで対応してくれているからであろう。

 感謝しか無い。


「おとたん! たべたよー!」


「おうおう、ごちそうさまだ。それでマドカは何がしたいんだ?」


「あのねー! おうさまねーあうの!」


「おっ、王都か! そう言えば久々だな」


 言われてみれば、最近顔を見せに行っていない。

 トラッピアやハナメデル、息子のアレクスは元気だろうか。


「アレクスも大きくなってるだろうな。もう2歳だ」


「あれくすー?」


「おっ、すっかり忘れている顔だ」


 首を傾げるうちの子である。

 マドカがアレクスに会うのは、三回目になるんだったっけ?


「ちがうよー! まおおぼえてるよ! あかちゃんねー」


「まあ、もうすぐ四歳にならんとするマドカからすると赤ちゃんだろうな」


 そう言えばマドカ、一歳半くらいで割りとペチャペチャ喋ってた気がするな。

 何気に早熟なのではないか?

 やはりうちの子はすごいな。


 俺は親ばか全開になった。

 この凄い我が子をまた見せに行こう。

 そう決めた、今決めた。


「そうと決まればコルセンターだ。おーい、エンサーツ!」


「うおっ!! いきなりだな! ショートか。どうしたどうした」


「マドカを連れて遊びに行く」


「本当にいきなりだなあ! だが、いいんじゃないか。王宮には話を通しておくぞ。おい、陛下と王配殿下に連絡だ。今すぐショートが来るぞ。勇者殿だ!」


 エンサーツが部下を走らせた。


「そのうち、俺も遊びに行くからな。また釣りがしたいな」


「おう、来い来い。なんならトラッピアとハナメデルとアレクスも来い」


「あー、来るだろうなあ!」


 わっはっは、と笑いあって、連絡は終了だ。


「私はシーナのたっち練習があるから、こっちにいるね」


「シーナ、もう立つの!?」


 と思って、よく考えたらもう一歳近いのだった。

 時が流れるのは速いなあ……。

 俺もシーナのたっちを見たい……。


 だが、マドカがなんか王宮に行きたがっているので、ワガママは聞いてあげたいのである。

 ということで。

 魔力でマドカを包んで、シュンッを使って瞬間移動した。


 王都到着。

 風情も何もないが、今回は移動が意味を持っていないからこれでいいのである。


「いよう」


「あっ、勇者様!!」


 俺を見るなり、門番たちが敬礼した。


「こんにちわ!!」


 マドカも俺に抱っこされたまま敬礼を返した。

 門番たちの表情がゆるむ。

 可愛いものは正義だよな。


 すぐさま王宮まで案内されると、王室ご一家は本日オフであった。

 仕立てはいいものの、普段着で出迎えてくるトラッピア。


「本当に急ですわね……」


「マドカが来るって言い出してな。子どもには勝てない」


「天下の大勇者ショートも、弱点があったわけですわねえ……」


 これにはトラッピアも笑うしかない。

 ずいぶん丸くなったものだ。


「国家間の折衝は、専門の機関を養成して、そちらに委託するようにしておりますわ。わたくしは毎週、視察して指導するだけ。気持ちはずいぶん楽になりましたわね」


「毎週ってだけでも大変そうだけどな」


「自分が一から十までやるよりは、全然楽ですわよ? お陰でアレクスと過ごせる時間が増えましたわ」


「乳母に任せたりしないの?」


「母乳は乳母とわたくしで半々ですわよ? 女王たるもの、育児もまた携わって気分転換するのですわ」


 いいご身分である。

 まあ、女王だしな。

 で、ハナメデルだが。


「マドカちゃん、大きくなったねえ」


「おー。まおはいっぱいごはんたべるから、おっきくなるのよ」


「偉いなー。ねえアレクス」


「むうー」


 ハナメデルは目線をマドカに合わせて、床に腰をおろしている。

 そしてハナメデルの膝の上には、王子アレクス。


 ぷくぷく健康的に育った、金髪碧眼の赤ちゃんだ。

 美形だなあ。


「髪や肌はトラッピア、顔立ちはハナメデルだな。すげえ美男子に育つぞ、この子は」


「でしょう」


「僕としては、強く育ってくれればそれでいいなあ」


 おお、両親が目を細めてアレクスを見つめている。

 大変に愛されている。


 なお、アレクスはじーっとマドカを見つめるのだ。

 自分の前でかしこまらない、年が近い女は初めてなのだろう。


「おまえ、なんだ」


「まおだよー」


「まお?」


「あなたはだあれ」


「あれくす」


「あれくすかー。なまえいえるのいいこねー」


 マドカがアレクスの頭をワシャワシャ撫でた。


「わあー」


 アレクスがじたばたする。

 おお、混乱してる混乱している。


 世界を救った勇者の娘、マドカ。

 恐らく、アレクスにとって、初めての対等以上の子どもなのだ。


 この対面は実に面白いなあと俺は思うのだった。


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