第439話 フォレストマン ミーツ カッパ

 またカッパが遊びに来た。

 今度は、マドカが子分にしたカッパの子どもたちだ。


「うわー、あっちー!」


「しゃくねつじごくってやつかー!」


 わあきゃあ騒ぐカッパのちびたちを、日陰に移動させる俺である。

 まさか、彼らがやって来る日がバッティングするとはな!


 日陰に入ったカッパたちは、マドカとの再会を喜び合う。


「おやぶんじゃねえか!」


「げんきだったか!」


「げんきだよー! あのねー、サーラとね、バインとね、ダリヤとね、ビン」


 サーラを見たカッパキッズ、美少女っぷりにうおおおおとどよめく。

 バインを見たカッパキッズ、牛鬼だ牛鬼だとどよめく。

 ダリヤを見たカッパキッズ、将来に期待だなとささやきあう。

 ビンを見たカッパキッズ。


「……」


「……」


「黙ってしまったな。ビンの凄みみたいなのを感じ取ってしまったらしい。いかにも、この男は世界で多分三番目くらいに強い」


「? ショート、ぼくそんなにつよくないよ?」


 ビン、まだ自覚が無いようだな……!

 そして、カッパキッズたちと逆方向、森の側から、新たな勢力が現れたではないか。


「マドカー! サーラー!」


 ヤモリ人であるフォレストマンの子どもたちだ。

 先頭に立つポラポちゃんは、もうすっかりお姉さんである。

 初めて会ってから一年半くらいだろうか?

 子どもの一年半は本当に大きいからなあ。


「ポラポー!」


 マドカが駆け出していって、ポラポとがっしり抱き合った。

 おお、マドカがポラポを抱き上げてぐるぐる振り回している。

 うちの子のフィジカルは凄いな。


「おやぶんすげえなあ」


「たいかくさがむいみだぜ」


「まさにすもうだな」


 カッパキッズたちが、実にわかっているセリフを口にした。

 さて、勇者村キッズ、カッパキッズ、フォレストマンキッズが揃ってしまった。


 このうち二つの勢力は強い日光に弱いので、日陰で遊んでもらうことにする。


「監督役は俺がやる。あちこちから預かった大事なちびっこたちだからな」


「よろしくおねがいします」


「よろしくおねがいしまーす!」


 フォレストマンキッズとカッパキッズが、仲良く挨拶してきた。

 おお、元気があってよろしい。


 では、何をやって遊ぶか……となったのだが。

 相撲、と言いかけたカッパキッズは、ビンとバインを見て静かになった。


 ビンはともかく、バインもカッパから見てヤバいレベルか。

 いつもはお姉さんたちの尻に敷かれているから目立たないがな。


「ショート、バインはね、ガラドンとおしずもうできるよ! ガラドンはやさしくしてあげてるけど」


「おっ、そうなのか! そりゃあ凄いなあ」


 ビンからバインの成長報告を受けて感心する。

 ガラドンと押し相撲できるちびっこなんか、この世界に片手で数えられるくらいしかいないだろう。

 その全員が勇者村にいるがな。


 純粋なパワーだけでガラドンとやりあえるなら、バインは超フィジカルエリートと言ってよかろう。

 これに将来匹敵するのは、ニーゲルとポチーナの家のショータくらいのものであろう。


 マドカは爆発的な魔力量を用いたパワーだし。

 いや、シーナは案外、肉体方面の才能を受け継いでいるみたいだから彼らに並ぶ可能性もある……。


 ふむふむ、と俺が考え込んでいたら、ちびっこたちは遊ぶ内容をけっていしてしまったようである。


「たんぼであそびます!」


 わーっとみんな拍手した。

 本来、田んぼで遊ぶというのは米のために良くない。

 だがここは勇者村である。


 言うなれば、トリマルが手加減したホロロッ砲を食らってもピンピンしているくらいパワフルな稲が実る場所だ。

 ちびっこが遊んだくらいではびくともするまい。


 相撲で自信喪失するよりは……ということで、カッパキッズたちも賛成したようである。

 世界は広いよな!

 今度、九千坊に強い相撲を教えてもらって来るんだ。


 田んぼはキレイなおべべを纏っていると汚れてしまう。

 ということで、マドカ、サーラ、バイン、ダリアは汚してもいい服を着てきた。

 なお、ビンは普段着である。


 この男、余裕だ……!

 体の上にミリ単位で展開した念動魔法が、あらゆる汚れを弾いてしまうのだ。

 魔法の精度、また上がってるなあ。


「いいなあ。こんどおしえて!」


「いいよー。でもむつかしいよ」


 サーラにねだられて、真面目に応えるビンである。

 カッパキッズがざわめいた。


「あのびしょうじょにねだられて、へいぜんとしてる!」


「なんだあいつ」


 ずっと見てたから気付かなかったが、サーラの美少女……いや、美幼女っぷりがどうやら凄いらしい。

 小麦色の肌に、儚げな雰囲気。

 大きな目はいつも潤んでいるようだものな。


 カッパキッズたちのハートを鷲掴みだ。

 なお、ビンはそんなもの通じないのか、まだまだお子様なのか。


 後者だろうな。


 その後、ちびっこたちはわちゃわちゃと水田の中で遊び回った。

 泥を掛け合ったり、泳ぎ回るゲンゴロウを捕まえたり。


 健康的で大変結構。

 その合間をホロロッホー鳥たちが泳ぎ回り、害虫や雑草を食っている。

 器用器用。


 ちびっこたちがはしゃぎ回ることで、水田の水が盛り上がった泥で濁り、陽の光が水中に届かなくなるのだ。

 こうして雑草の生育は邪魔される……。


 合理的だ。

 勇者村で育つ雑草、かなり強いからな!

 これくらいの荒療治で生育阻害をせねば間に合わない。


「お、おい、むすめ! カッパのさとにこいよ!」


「あそびにきなよ! かんげいするぜ!」


「あ、そっちのおねえさんも……」


 そんなちびっこたちの大騒ぎの横で、サーラと、フォレストマンのポラポちゃんがカッパキッズにナンパされたりしているのだった。

 モテモテじゃあないか……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る