第437話 カトリナ、刺繍チャレンジ!

 マドカが、可愛い刺繍のされたお洋服が欲しいと言った。

 この願いを受けて立ったのはカトリナである。


「行ってくるね!」


「おう、いってらっしゃい!」


「おかたんがんばれー!」


「だうー」


 家族に見送られ、カトリナは旅立っていった。

 どこへ行ったのか?

 教会である。


 本日は、奥様が集まって色々やる会なのだ。

 何日かに一度開かれているのだが……。


 今日はカトリナたっての願いで、刺繍教室。

 マドカのために、カトリナは戦いに赴くのだ……!

 頑張れ、うちの奥さん!


 シーナも乳離してきたことだし、カトリナは自由に色々やるべきである。

 そもそも、趣味が家事全般みたいな人なので、生活と趣味が両立できてはいるのだが。


 もっとこう、無産方面の趣味があってもいいのではないかと思っていたので、刺繍教室は願ったり叶ったりだ。


「あばうばうばー?」


「そうだなー。お母さん頑張ってるなー」


「うばー」


 シーナが俺に抱っこされて、もちゃもちゃ赤ちゃん語を口にしてくるのだ。


「おとたん!」


「なんだなんだマドカ」


「まおね、あそびいってくる!」


「おう、気をつけてな!」


「うん!」


 トテトテーっと駆け出していくマドカ。

 俺はシーナと一緒に、昼下がりをまったり過ごす事にした。


「ほわあ」


「おっ、あくびした。お昼寝タイムだな。マドカもお昼寝タイムなんじゃないのか?」


 ふと思いながら、シーナを寝かしつけるのである。

 すぐに寝てしまった。

 うちの子たちはみんな寝付きがめちゃくちゃにいい。


 この間作ったベビーカーにシーナを収め、俺は考えた。


「カトリナの頑張りを見に行くか!」


 見られて困るものでもないだろう。

 だが、気まずく思うかもしれない。

 ということで、気付かれないようにそーっと見に行くことにしたのである。


 木製ベビーカーがカタカタ動いても、シーナはぷうぷう寝たまま起きる気配がない。

 一度寝たら数時間起きなくなるのだ。


 あまりお昼寝させると、夜寝なくなるのではないかという疑念はあるだろう。

 だが、こと、シーナについては問題ない。

 目覚めた時にたらふく食べさせると、またすぐ寝るのだ。


 食って寝て、食って寝て、こうしてうちの子どもたちは大きくなっていく。


「んにゃんにゃむ」


 何かもちょもちょ言ってる。

 さて、シーナが寝ている間に、そーっと覗いてみよう。


「あら、ショートじゃない」


 ダリアを連れたヒロイナと遭遇した。

 まあ、教会はヒロイナの家なんだから当然なのだが。


「刺繍教室やってる?」


「やってるわよー」


「ヒロイナは参加しないのか」


「あたしはパス。こういうのはフォスの方が得意だから」


 ヒロイナ家は旦那が家事全般担当だったな……。


「あかちゃん」


 ダリアが背伸びして、ベビーカーを覗き込んでいる。


「おう、シーナがな。お昼寝してるんだ。ダリアはお昼寝しないのか?」


「んー」


 ダリアはもじもじした後、ちょろちょろ走ってヒロイナの足に抱きついた。


「ダリアはねえ、眠くなったりならなかったりだから、無理にお昼寝させてないのよ」


「ほうほう」


 ちょろっと振り返るダリア、シーナをじーっと見ている。

 眼力が強い。


「シーナ見たいか? 起こさないならちょっと突っついてもいいぞー」


「ほんと?」


 ダリアがちょこちょこ近づいてきた。

 意思疎通ができるようになってるんだなあ。


「ダリアって人見知りするんだけど、ショート相手だとすぐに慣れちゃうのねえ」


「そうか?」


「そうよー。シーナちゃんは見ててあげるから、ショートはカトリナを見に行くんでしょ? 行ってきなさいよ」


「いいか。ありがたい」


 こうして、そろりそろりと教会に潜入する俺なのだった。

 奥様方が、なにやらスーリヤから講習を受けている。


 講師スーリヤ。

 生徒カトリナをはじめ、ミーとポチーナ、シャルロッテ、そしてリタとピア。


 勇者村の奥様勢ぞろいではないか。

 ピアはどうやら、生まれてくる赤ちゃんの服を作ろうと参加したようである。

 狩りばかりでなく、奥様っぽいことも学んでいくのだな。


「柄については、砂漠の王国伝統のものがありますから、これを教えていきますね。一番簡単なのは丘ヤシの花。これが全ての基本になります。それから、サバクハヤブサとハシリトカゲ。トカゲは男の子向きですね」


 スーリヤが絵を見せながら説明する。

 型紙があり、これを布の上で擦ると、絵が移る。

 その上から、針と糸をちくちくやって刺繍していくのだ。


「わ、私、サバクハヤブサをやるわ!!」


 カトリナ、宣言!

 ごく簡単な刺繍はできるもんな。


「そこそこ難しいですから、無理しないでやっていきましょうね。ではリタとピアは丘ヤシの花から。ミーとポチーナとシャルロッテは、ハシリトカゲで行きましょう」


 ほうほう、三人の奥様は刺繍経験者であった。

 ハシリトカゲが一番難易度が高いわけだな。


 かくして、刺繍が始まる。

 慣れてくると、色々な糸を使ってカラフルに縫っていくようだが……。

 カトリナは真剣な顔で、ちくちくとやっている。


 スーリヤは奥様方を見て回りながら、都度ごとに指導する。

 アキムの家のスーリヤ、本当になんでも出来る奥様だな。


 カトリナからすると、吸収するべきものがたくさんあることだろう。

 鼻息も荒く、もりもりと縫い進めていくうちの奥さんを眺めつつ、俺は「がんばれよ!」と拳を握りしめるのだった。


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