第436話 ピアのおめでた
勇者村の若夫婦というと……。
アムトとリタ、フーとピアの二組であろう。
アムトとリタは仲睦まじく、夫は畑に出て、妻は教会の侍祭として仕事に励む。
午後は二人で釣りをしたり、厨房で仕込みをしたり。
そうそう、アムトは積極的に奥様料理チームと協力するのだ。
そしてフーとピアだが、二人ともパワフルに畑仕事に勤しむ。
午後は昼寝したり、狩りをしたり。
そんな二組のフレッシュな夫婦の様子を見ていると、微笑ましさにこちらも顔が綻ぶというものである。
特に、フーとピアはエネルギーが有り余っており、虎人家に夜にお邪魔すると、割りと高確率で励んでいる。
近所の村から連れてきた時は、まだまだ子どもだったのだが……。
大人になったなあ。
もう人妻だし。
そんな事を思っていたらだ。
畑仕事をする俺のところへ、フーが凄い顔で飛び込んできたのだ。
「そそそそそそ、村長ーっ!! 大変だ! ピアが大変だ!!」
「どうしたフー。落ち着け落ち着け」
「ふう、ふう、落ち着く、俺は落ち着く……。村長、ピアが……ピアが大変なんだ」
「ほう、ピアが大変とな。どういう風に大変なんだ? そう言えば今朝は朝食の席にお前もピアもいなかったから、珍しいなーと思ってたが」
「ああ。ピアが朝、吐いてな。気持ち悪くて、ご飯食べられないって言うんだ……!!」
「緊急事態じゃないか!! ……ん? 吐いた? ご飯を食べられない? これはもしや……」
俺、すぐさま仕事を切り上げて、昼飯準備をする奥様チームのところに行くのである。
「かくかくしかじか」
「おめでただね!」
カトリナが即答した。
「うんうん。赤ちゃんできたんだねえ。おめでとう!」
「おめでとうございます」
ミーとスーリヤが微笑み、呆然とするフーに祝福の言葉をかける。
「えっ……? おめでた……? 赤ちゃん……?」
俺はニヤニヤしながら、フーの脇腹を小突いた。
「お前が父親になったってことだよ。やったなこいつ。しばらくピアは激しい仕事できなくなるから、お前が倍くらい頑張らないとなあ」
「お、おお……おおおおおお!!」
フーはやっと状況を理解したようである。
ぶるぶる震えながら、拳を握りしめたかと思うと、それを天高く突き上げながら咆哮した。
ガオーン、と声が上がる。
「そ、そうだ! こうしちゃいられねえ! あの、俺は何をどうしたらいいか分からないんで! 助けてくれ!」
「よしきた」
「任せて」
「みんなでピアを助けに行くわよ」
奥様方がうわーっと盛り上がった。
なんて心強いんだ。
俺は興味本位で後をついていった。
虎人邸に到着した奥様方、さっそくベッドで横になっているピアとお喋りを始めた。
「ええーっ!? う、うち、赤ちゃんできたんですか!? ほわー」
衝撃を受けるピア。
そして、カトリナが差し出した味噌きゅうりを受け取ると、「これならいけそう!」とバリバリ食べ始めた。
「子どもができると、酸っぱいものが食べたくなったり、やたら揚げ物が食べたくなったりするんだよね。でも、食欲がない時はこれ! ほんとにきゅうりを持ってきて良かったわ」
うんうん頷くカトリナ。
「はて、カトリナがそんな調子の悪かった時はなかった気がしたが……」
「オーガ種はもともと、つわりがすごく軽いの。むしろ、すっごくお腹がすく。二人分なのかなー」
ミーとスーリヤが羨ましがる。
人間族はつわり重い人も多いからな。
ちなみに後で賢者ブレインに確認したらだ。
「オーガはですね、毒物への抵抗力が強いのですよ。これは体内に入り込んだ異物に対しても働きます。赤ん坊は異物とみなされて、オーガの抗体に攻撃を受けます。ですが赤ん坊もオーガの血を継いでいるので攻撃に強く、反撃します。体内では激しい攻防戦が行われているのです。ですが……オーガは死ぬ寸前までは元気なので、全く堪えないわけです」
「なんて豪胆な生き物なんだ」
ということである。
結局ピアは不調の原因が明らかになり、スッキリした顔で食堂に顔を出したのである。
ここで俺は、フーの背中をバーンと叩く。
昼食の席である。
「そ、村長!?」
「発表するんだ。お前の仕事だぞ!」
「お、おう!!」
フーは立ち上がった。
「みんな、聞いてくれ!!」
周囲の視線が集まる。
なんだなんだ、と訝しがる風なのは男衆。
女衆はさすが、勘が鋭い。ははーん、と全てを察した顔になった。
「えっ。もしかして!」
中でもリタの反応が大きかった。
目を見開いて、じーっとピアを見る。
ピアがちょっと恥ずかしげに、小さく頷いた。
「ピアの腹に、子どもが宿った! 俺たちの子だ!」
フーは大声で宣言する。
一瞬の静寂。
ちょっと置いてから、みんながうわあーっと盛り上がった。
「おめでとう!!」「おめでとう!!」
もう、おめでとうおめでとうの嵐である。
田舎の村では、誰が生まれたとかおめでたとか、そういうのが一大イベントなのだ。
「やったねピア! きゃーっ!」
リタが駆け寄って、ピアと抱き合って喜ぶ。
ほほえましい光景だ。
うちの村のおチビさんたちは、大人が盛り上がっているのを見てきょとんとしていた。
我が家のマドカも例に漏れず。
「おとたん、なんしたのー?」
「ああ。もう少ししたらな、新しい赤ちゃんが来るぞ!」
「あかちゃん? あかちゃんくるのー? どこからー!?」
マドカが猛烈な勢いでキョロキョロするのだった。
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