第431話 勇者一家、極北に降り立つ

 カッパの里を後にし、マドカに雪を見せるべく飛び立った俺たちである。


「ホロホロ」


「ほう、トリマルは一番北の大地にも行ったことがあったのか」」


「ホロー」


「ははは、でかいクマを蹴散らしたか。クマだと相手にならないもんなあ」


「ホロホロー」


 トリマルが極北の大地の話をする。

 ハジメーノ王国近辺はやや南国寄り、勇者村は赤道間近くらいの気候だから、冬や雪なんてものとは無縁なのだ。


 マドカは目をキラキラさせながら、トリマルの話を聞いていた。

 うちの一家、みんなトリマルの言葉が分かるぞ。

 付き合いが長いからな。


「ゆき! まおね、ゆきってさわってみたいなー。ねーおとたん、ゆきどんなのー?」


「うむ、雪というのはな、冷たい……」


「つめたいー?」


 勇者村にいるとよく分からない概念だよな。

 川の水もまあ冷たいが、それでもそれなりの温度だしな。


「実際に行くと分かるだろう。よーし、アイテムボクースからもこもこした服を取り出すぞ。着るんだ着るんだ」


 マドカはもこもこ服が初めてなので、キャーッと歓声をあげて着替えさせてもらっていた。

 うーむ、もっこもこで可愛い。


 カトリナも、自らマドカのお着替えをさせて満足げだ。


「うーん、うちの子はほんと可愛い!」


 俺と同じこと考えてたな。

 夫婦だなあ。


 シーナにももこもこを着せたら、じたばたして嫌がった。

 これから行くところは寒いぞー。

 もしやシーナは薄着派か。


 さて、そんなこんなで細い海峡を渡り、極北の大地に到着した。

 ここをさらに北へ北へ行くと……。


 雪がチラチラと降ってくるではないか。


「おとたん! なんかきたよー!」


「あれが雪だぞー。よし、この辺りで降りるか」


「ゆきー!」


「ホロー!」


 マドカが飛び跳ねて喜ぶので、横でトリマルも一緒にぴょんぴょんジャンプした。

 妹が喜ぶのちょっとうれしくなるよな。


 こうして、俺たちが乗った岩盤は大地に軟着陸した。

 結界が解かれると、マドカがトテトテトテーッと走っていく。


 おっ、足元がザックザクの雪であることに気付いたな。

 ぺたぺた触って。


「おおーっ!!」


 と叫んだ。


「これなあに!」


「雪だよ。んで、その感覚が冷たい、だ」


「おおー!!」


 マドカは雪をうわーっとたくさん集めると、もむっと食べた。


「あー」


「雪の味するだろ。この世界は地球と違って、雪がそんなに汚れてないからな。多少マシだろ。だけどあんまり食べるとお腹痛くなるからなー」


「あーい!」


 マドカは雪の中を走り回る。

 トリマルもそれを追いかける。


 振り返ったマドカは、足跡を発見して「あーっ!」と叫んだ。


「ゆき、あしあとつくねえ」


「ホロホロ」


「といまうのあしあと、ちっちゃいねえ」


「ホロ!」


 マドカの足跡もまだまだ小さいな!

 今度は二人で、足跡をぐるぐるっと回るようにつけて遊び始めた。


 子どもは新しい遊びをすぐに開発するな。

 だが、雪の中の遊び方は色々あるぞ。


「マドカ、雪だるまを作ろう」


「おー? ゆきだるま?」


「そうだ。こうやってな。雪をコロコロと丸めて転がして、だんだん大きくしていく」


「おー!! やるー!」


 マドカはぎゅっぎゅっと雪を玉にすると、それをぽいっと投げ捨てた。

 玉をころころ転がし始める。


「面白そう。お母さんもやっていいかな?」


「おかたんもどーぞ!」


 俺、カトリナ、マドカとトリマルの三つのチームでゴロゴロと雪玉を転がし始める。

 これは雪だるまではないぞ。

 雪団子だ。


 しばらく転がして、俺はまあまあの大きさで止めた。

 カトリナがびっくりするくらい大きな雪玉を作っている。

 さすがオーガのパワーだ。シーナをおんぶひもでくっつけたままで、凄まじい力を発揮した。


 シーナは巨大な雪玉に、目を見開いて口もポカーンと開いている。

 さすがの赤ちゃんも衝撃を受けたか。


 まだ一歳にならないというのに、表情が豊かで面白い。


「そのでかさなら、カトリナが一番下だな。土台だ」


「そうなんだねえ。ちょっと張り切りすぎちゃった」


「いいんじゃないか? 雪なんかカトリナも初めてだろ?」


「うん。こんなに冷たいの初めてだよー」


 二人で笑っていたら、マドカがふんふん鼻息を荒くしながら玉を転がしてきた。

 トリマルも横で翼を使い、玉を押しているな。

 二人の共同作業だ。


 完成したのは、マドカの背丈よりも大きな雪の玉!

 出来上がった中では一番小さいが、マドカから見れば巨大な玉であろう。


「どう!」


「ホロホロ」


「えへへー、まおがんばったでしょー」


 トリマルがマドカを褒めているな。

 いいお兄ちゃんである。

 もちろん、俺たちもマドカを褒めた。

 

 マドカが照れ照れしているところで、それじゃあ雪玉を連ねようじゃないかということになった。


 カトリナの巨大雪玉を最下段に。

 俺のを載せて、マドカのを一番上に。


 そして、地面から掘り起こした土を使って顔を書く。


「おかおついた!」


「ああ、これが雪だるま……改め、雪団子だ。いやあ、でかい」


 8mくらいのでかさになっちゃったな。

 やり過ぎだ。


 その後、日暮れ近くまで雪の中で遊び回った。

 たっぷり楽しんだマドカが、エネルギー切れでコテンと倒れて、ぐうぐう寝始めた。


 潮時である。


「よし、じゃあ勇者村に戻ろうか」


「そうだね。シーナも寝ちゃってるし」


 そういうことになった。

 俺たちはトリマルの今後を聞くことにする。


「どうする、トリマル。一緒に戻るか?」


「ホロホロ」


「ほう、ここから今度は南下して、ずっと南の方まで行こうと? いいんじゃないかいいんじゃないか。いつでも戻ってこいよ。勇者村はずっとあるからな」


「ホロ!」


 トリマルは元気に応えると、走り始めた。

 雪煙を立てて、彼の姿が小さくなっていく。


 あいつの自分探しは続くのだ。

 また会おうな、トリマル!


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