第427話 たたら場めし
たたら場の居住区に泊まることになった。
鍛鉄とかは大変危険な仕事なのである。
本来そうなのである。
火花が飛び散るし、焼けた鉄の破片に当たれば失明したり、作業の最中に火傷をしたり腕を失ったりとかする。
まあ、人間ならば、だ。
ドワーフは炎に強いので、そういうのは効かない。
うちの村のブルストは強靱なオーガなので、ダメージが多少あってもすぐ再生したり、そもそも通用しなかったりする。
勇者村にいると、鍛冶の危険性が全く分からなくなるな!
ということで、居住区には、体のあちこちを失ったりした人がたくさんいた。
そもそも傷病者だったり、障害があったりして集まってきた人たちも多いようだ。
彼らは俺へ、恐ろしいものでも見るような目を向けるのだ。
「何も怖くないぞ。どれ、怪我を治してやろう。スグナオール(俺命名)!!」
これは、身も蓋もない感じで怪我を治す魔法だ。
具体的には、その人の肉体っぽい部位をダークマターから創造して、欠損部位と入れ替える。
やり過ぎるとその人間がダークマターから生まれたよく分からないサムシングになる。
危険な魔法であるが、使い方だ。
速攻でサッと大人数を治すだけならこれでいい。
それ以外の俺の魔法は、欠損部位を治したりが苦手だからな。
一回死なせて復活させれば元通りなので、そうした方が話が早いまである。
だが、殺してしまっては俺がまるで魔王か何かみたいではないか。
「お、俺の目が治った!」
「私の腕が!」
おう、どんどん治ってるな。
「これが宿代だ。お釣りはいらないから取っておくといい。だが気をつけろ。なれないうちは、新しく生まれた目では見えてはいけないものが見えるし、腕なら触れられないはずのモノに触れてしまうからな……。ゆめゆめ注意せよ」
「「「「「「「「「は、はい!」」」」」」」」
ということで。
たたら場の人々からの尊敬を得たのである。
たたら場めしをご馳走になる。
基本的に、山のものを使った鍋料理だな。
「なんでも、味噌と醤油で煮込めば美味くなりますからね」
「味噌味と醤油味になるもんな」
調理担当の男がバリバリ料理を作っており、これを俺は近くで眺めている。
カトリナはたたら場の奥さんたちと談笑しており、マドカはここに住んでいるちびたちと遊んでいる。
ここにも、一つの共同体があるんだなあ。
世代を重ね、鍛冶の仕事を受け継いでいるのだ。
で、作られた銃や鋳物、鍛造物は里に出荷されていく。
ヒノモトは異種族との共存をあまりやっておらず、魔法の才能がある人間も少ない。
なるほど、銃が活躍する世界になるわけだ。
ちなみに本日のメインディッシュはイノシシ。
このたたら場で生まれた銃が仕留めた、大物だ。
こいつを野菜と山菜と合わせてグツグツと煮込む。
お好みで、直接味噌をつけて食ってもいい。
主食は米ではない。
この土地では田が作れない。
ということで、蕎麦を育てて蕎麦がきを主食にしているのだそうだ。
珍味である。
マドカがニコニコしながら蕎麦がきに猪肉を載せてパクパク食べていた。
うちの子は本当に、なんでも美味そうに食うなあ。
「こんな恐ろしそうな人の娘さんなのに可愛いなあ」
「奥さんも鬼だと思ったら優しい鬼なんだなあ」
「うふふ」
カトリナが微笑む。
割りとこの国は保守的で、魔王大戦のころに生まれた偏見みたいなのがずっと残っているのだ。
だから、異種族は山奥に住んでたり、隠れ里みたいなのを作ってそっちに集まっている。
お陰様で、ヒノモトの魔法的な要素は全部そっちに行っちゃっているわけだ。
また、魔王尊みたいな魔将が来たら手も足も出ないだろう。
普通の人間が魔法無しで相手をできるレベルじゃないからな。
「これは……俺がやらねばならんことが見えてきた気がするな」
蕎麦がきに味噌をつけてパクパク食べつつ、俺は呟いた。
「あら、何をするの?」
「ここでも異種族が大手を振って出てこれるようにする。ユイーツ神がせっかく、人間と異種族が簡単に子どもを作れるようにしてくれたんだぞ。色々混ぜていかなくちゃ勿体ない」
血が混ざり合うほどに、その種はどんどん強くなるからな。
人間だけでは対抗できなかった相手とも、戦えるようになることだろう。
銃などという、環境に悪い道具を使わなくても良くなる。
「そうねえ。私一人だったら大変だったと思うなあ」
カトリナも頷く。
「でも、いきなり別の種族の人を連れてきて結婚しろーってやっても、みんないやじゃない?」
「そりゃそうだ。だから、キッカケを探す。絶対にどこかで、人間と異種族が接触してるはずなんだよ。どこかで仲良くしてるんだ。だからそこを探して、支援する。そうすりゃ、俺とカトリナみたいな幸せな夫婦が増えるという算段だ」
「あらあら」
カトリナがニコニコしながら、横にくっついてきた。
むっ、これは……。
今夜は頑張るか……!!
家族計画を開始せねばな。
俺がそんなことを考え始めた頃合いには、飯は終わった。
たたら場で作られた酒も出てきていたが、まあそんなに美味いものじゃなかったので、ちょっとだけいただくに留めておいた。
で、食事後のタイミングにトリマルがやって来たのである。
「ホロホロ」
トリマルの背中におくるみがくっついており、中に収まったシーナがぷうぷうと寝ている。
「子守ご苦労……」
「ホロー」
「ああ。人間はゆっくり大きくなるけど、ちょっと目を離すと案外育ってるもんだろ?」
「ホロー」
全くだ、とでも言いたげなトリマルなのだった。
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