第426話 山神とたたらの民わからせ

「よしトリマル、ちょっと分からせる感じでぶちかまそう」


「ホロホロ!」


「ちょっとこの空飛ぶ地面に力を残していくから、大人しく待っててくれよ」


「はーい」


「まってるー!」


「うばー」


 家族の返答を聞いて、俺は安心して作業に取り掛かるのだ。

 巨大なカモシカが、こちらを睨みつけ、動き始める。


 猛烈な勢いで迫ってきた。

 これは怒っているぞ。


「おい自然の神よ。仮に山の神と呼ぼう。なんでそんなに怒ってるんだ。ちょっと聞かせてみろ」


『もがーっ!!』


 問答無用とばかりに襲いかかる山の神。

 神気とでも言うのか、それが嵐になって俺に襲いかかってくる。

 俺はこいつを、「ていっ!!」とチョップで割った。


『もが!?』


 おお、びっくりしてるびっくりしてる。


「お前は冷静じゃないみたいだから、彼我の格が分からんのだろう。ここは一回ぶっ倒して正気に戻してやろう」


「ホロホロ!」


 まずはトリマルが走る。

 ホロロッホー鳥は飛べない鳥である。

 だから、トリマルは飛べない。


 だが、超越してしまえば飛べなくたって問題はなくなるのだ。

 そう、空を走ればいい。


「ホロー!!」


 空中を掛けるトリマル。

 彼に向かって、山の神は吠えた。

 すると、周囲から極太のつる草みたいなのが大量に発生し、トリマルに襲いかかる。


「ホロホローッ、ホローッ!!」


 トリマル、口を開いてのホロロッ砲を発射。

 これを回転しながら四方八方にぶっ放すことで、拡散ホロロッ砲にしたのだ。

 つる草が次々に焼き切られる。


 そして飛び込んだトリマルの突撃が、山の神の巨体を傾がせた。


『もがーっ!!』


 山の神、怒りの咆哮。

 うんうん、トリマル、やるじゃないか。

 俺はどこで手を出そうか、そう考えていたらばである。


「いいぞー!!」

「やっちまえトリ様ー!!」

「訳の分からん神様なんざやっつけちまえ!」


 おや?

 足元で声がする。

 俺はシューッと降りていった。


 すると、銃を担いだ連中がいるではないか。

 ワールディアにおいて、実は銃がそれなりに普及している。

 だが、重要な戦闘に用いられることはない。


 何故か?

 弱いからだ。

 魔法とは違って、長物を持ち歩かなければならないし、弾も必要だし、火薬を管理しないといけない。


 魔法は才能さえあれば、呪文を覚えるだけ。

 そして唱えればいいのだ。

 使い続けるうちに熟練度が上がり、魔法はどんどん強くなる。


 銃は使い続けると銃身も摩耗してどんどん弱くなる。


 な?

 ちょっと才能があるやつがいるだけで、銃の必要性がなくなるのだ。

 まあ、魔法の才能がない者が銃を使ってもいい。


 だがこの世界、体にも魔力が宿る。

 魔法が使えなかろうが、体に宿る魔力は万人にあるから、体を鍛えて強くなれば銃弾みたいな速度で動けるのだ。

 狙いをつけて撃つより、動いて攻撃したほうが話が早い。


 な?

 銃はニッチなちょっとめんどくさい武器でしかないのだ。

 しかしまあ、ヒノモトではよく使われるのかもしれないな。


 さて、話が戻る。

 降りてきた俺を見て、その連中は「ヒャアー」「空から人が!」「天狗だあ」と驚いた。


「天狗は俺が全滅させたのでもういないぞ。俺は観光にやって来た通りすがりの勇者だ」


「ゆ……勇者様……?」


「そうだぞ。で、お前らはなんだ。トリマルのなんなんだ?」


「お、おらたちはたたらの民だ! 山の木を刈って薪にして、鉄を作って銃をこさえてるだよ」


「ははあ。それで山を丸裸にし、水を汚しているのか」


「そうなるだな」


「そうしたら眠っていた自然神が目覚めて襲いかかってきたわけだな?」


「おお、そうだべ! あんたなんで分かるだか!?」


「お前、そんなん推測していけば分かっちゃうだろ。お前らが悪いんじゃん。鉄作るために山と水を汚すのはやめなさい。お前ら絶対に作る場所間違ってる。ちょっとお前らの頭の中を覗くぞ。かーっ!!」


「ウグワーッ!!」


 たたらの民たちの脳内を覗いた。

 よし、あっちだな。


「トリマル、ちょっと頑張っててくれ。すぐ戻るから」


「ホロー!!」


 俺はたたらの民をまとめて抱え、たたら場に急いだ。


「ヒャアー! そ、空を飛んでる!」


「お前らは空を飛べないから、全体像が把握できないだろうけどな。いいか、こっちの川にたたら場が排水を垂れ流してるだろ。これはいかん。こっちだこっち。で、水を流すのはこっちな。海に垂れ流せ。希釈されてかなりマシになる。あと、切った木は植えろ。はげ山になったら土砂崩れとか起きて最終的にお前らが死ぬぞ」


「そ、そんなことをいきなり言われても……」


「じゃあ俺がやる。ツアーッ!!」


 俺はたたら場を念動魔法で持ち上げ、移動させた。

 作業している人や、たたら場回りに住んでいる人ごと移動だぞ。


「ヒャアー!! な、なんたること!!」


 びっくりしてるびっくりしてる。

 そしてガーンと移動させ、設置して、土台を固めた。


「集まれえ!!」


 大声を張り上げて、たたら場の人たちを全員呼ぶ。

 そして、さっきと同じ感じの話をした。


「いいか、再生可能な事業をやるんだ。一見効率は悪いが、後々環境が悪化しないぶんだけ得をするからな……。あと自然神が復活しない。いいな?」


 たたらの民、こくこくと頷く。

 実に素直でよろしい。

 やはり強大な力を見せるとみんなすぐに納得してくれる!


 俺は彼らに別れを告げ、トリマルのところに戻った。


「ということで山の神よ! 鎮まれ! 正気にもどれパーンチ!!」


 帰還ざま、巨大カモシカの顔面に一撃をお見舞いだ!


『もがーっ!?』


 山の神、ぶっ飛んだ!

 山の上でバウンドし、湖に落下する。

 すご飛沫が上がった。


 俺は彼の目の前まで降りていった。


「どうだ、頭が冷えたか」


『うむう……。あなた様は、どうやらずいぶん格の高い神様ではないかと思います。ご無礼をお許し下さい』


「なに、人間が好き勝手やって山をぶっ壊してたんだから、カッとなるのは分かる。ちょっと破壊規模があんまりだったもんな」


『全くその通りで。わしに向かって鉄の筒をぶっ放してきたので、カッとなりました』


「それは人間が悪い。だが、悪さをしないように言い聞かせてきたからな。安心してくれ」


『ありがたや……!』


 ということで、山の神とは話がついたのだった。

 俺はトリマルを連れて帰還する。


 さて、今夜はたたら場に泊めてもらうとしよう。


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