第425話 北の地へ

「トリ様かい? 今は北のマロウドの地で活躍してるそうだぜ」


 旅人からトリマルっぽい情報を聞いた。

 トリ様なんて呼ばれる鳥はトリマルくらいのものだろう。


「いたな。間違いなくトリマルだ」


「といまういたー? どこー?」


「ずーっと北の方だぞ」


「きたー?」


「まうー?」


 マドカが体ごと首を傾げたら、カトリナに抱っこ紐でくくりつけられているシーナも首を傾げた。

 もうお姉ちゃんの真似っこをするようになったのか。

 成長したなあ。


「わー、シーナは色々できるようになったねえ」


 カトリナが喜ぶ。


「まおも! まおもいろいろできるよ! じゃない! えっと、えっと、おとたん! きたってなーに」


「おお、本題に戻ってくることを覚えたな。マドカもどんどん成長している」


「えっへん」


 褒められたことが分かったマドカが胸を張る。

 おお可愛い。

 宇宙一可愛い。


「マドカ。北ってのはあっちだ。あっち。進むとどんどん寒くなる」


「さむく~? さむくってなにー?」


「南国である勇者村でばかり暮らしてたもんなあ。寒いっていうのはな、体験してみれば分かるだろうな。雪とかあるぞ。行ってみようじゃないか」


「おー? おー!!」


「雪は私も久しぶりだなあ。行こう行こう」


 そういうことになった。


「行くぞ。掘り起こされろ、大地! マトメテバビュン!!」


 俺たちが立つ地面が、ボコッと浮かび上がった。

 周囲には宿場町の人々がいたのだが、彼らが全員、「ヒャア」と叫んで腰を抜かした。

 びっくりさせてすまんな。


「や……やっぱりとんでもないお方だったんだ……」


「おーい! タゴが向こうで、天狗が大量に木に引っかかって死んでるのを見つけたそうだ! あの数じゃ、天狗党は全滅だ!」


「なんだって!?」


「じゃ、じゃああの御方は……」


 詳しい話はせずに俺たちは去るのだ。

 だが、浮かび上がった俺たちに駆け寄ってくる者たちがいる。


 マドカの子分になったちびっこどもだ。


「おやぶん! も、もしかしてこれはおやぶんが……」


 マドカは振り返り、バーンを胸を張った。


「まおだよ!」


 よく分からないけどとりあえず名乗っただけだな、今のは。

 だが、これはちびっこどもに別の意味で理解されたのだった。


 ちびたちの目がキラキラ輝く。


「す……すげえええええ!! おやぶんすげええええ!」


 この驚きは、宿場町の人々にも波及していく。

 流石にもうすぐ三歳児のマドカが天狗を倒したとは思わないから、注目が集まるのは俺だ。

 一声で大地をえぐり、空を飛んだ俺である。


「ありがとうございます!」


「このご恩は忘れません!!」


 口々に叫ぶ人々に、俺は返答した。


「うまいメシといい宿だった! ほんのお返しだよ。理不尽な恐怖を感じずに暮らしてくれ!」


「ごちそうさまでしたー!」


 こうして俺たちは宿場町を離れた。

 目指すは北。

 ヒノモトは縦にとても長い国なので、北に北に行くだけで気候がぜんぜん変わる。


 季節的に、今は秋だろうか?

 俺たちが上陸した辺りが九州みたいなところだとすると、北なら東北か。


「あっ! しろいおやま!」


「前々から思ってたが、ワールディアの地形は本当に地球にそっくりだよな。富士山まである」


「おっきいねー」


 そしてブイーンと空を飛ぶ。

 ばかでかい平野が見えてきた。

 この世界でも、こっちにヒノモトのミカドという一番偉いのがいるんだな。


 かなりの規模の城が見えた。


「私、あの大きい街にも降りてみたいなあ」


「カトリナ、あれはヒノモトの首都だな。この国の連中はみんな、似たような種族なのでカトリナは大変目立つと思う」


「そっかあー」


 宿場町の方で、鬼だと言われたのを思い出したらしい。

 ヒノモトは保守的なのだ。


「カトリナが何か言われたら、俺はヒノモトを焼き尽くしてしまうからな……」


「ショートを魔王にするわけにはいかないもんねえ……」


 そういうことだ。

 気を抜くと魔王になっちゃうからな!

 こうして、首都をスルーして北部へ向かうのだ。


 秋口だから、流石に雪は見られなかった。

 残念。


 ここは、日本で言うなら東北辺り。

 さて、トリマルの魔力反応を探してみよう。


 おお、凄いのがある。

 山の中で、小山ほどの巨大なカモシカみたいなのが暴れている。

 角が空に向かって伸び、世界樹のような姿に変容しつつあるな。


 おっと、カモシカが何かに当たって跳ね飛ばされた。

 山を転げ落ちていくぞ。


 あれは蹴られたな。

 こんな巨大な化け物を蹴り飛ばすようなやつは……ヒノモトには一人、いや一羽しかおるまい。


「トリマル!」


「ホロ!?」


 名を呼ぶと、返答があった。

 俺はマトメテバビュンの速度をぐんと落とす。

 

「ホロホロー!!」


 真っ青な鳥が、大事を蹴って飛び上がってきた。

 俺は結界を解除して出迎える。


「トリマル! 久しぶりだなあ!」


「ホロロー!」


 再会の抱擁である。


「といまう! といまうだー!!」


 マドカもトリマルをペタペタ触る。

 トリマルもホロホロ言いながら、マドカをペタペタ足で触るのだった。


 ところで、向こうで巨大なカモシカが起き上がっている。


「トリマル、ありゃあなんだ」


「ホロ、ホロホロホロ、ホロホロー」


「ほうほう、古代の荒ぶる自然神か。こっちにはそう言うのもいるんだなあ。なんで戦ってたの」


「ホロホロホロ」


「人間が愚かなことをして、森を切り開いてその奥にあった鎮魂の石碑を破壊した? そうしたらアレが出てきたわけか。あー、人間は愚かだもんなあ」


「ホロホロ」


「むこうはいきり立ってる? 話が通じない感じ? よし、じゃあ久々に二人で一緒にやるか! 自然神には頭を冷やしてもらって、その後で人間にも反省してもらおうじゃないか」


「ホロー!」


 かくして、俺とトリマルの共同作業開始なのだ。


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