第424話 夕飯時までのRTA
天狗の意識から、魔王尊と言う魔将を探る。
実に簡単である。
魔法には方向性というものがあり、この天狗は魔将に向けてそれを使おうとしていた。
魔法の方向を読めばいい。
その方向にいる。
「マナオイカケール(俺命名)!」
この間作った魔法を使っておいた。
これは、もしもマドカが誰かに向けて魔法を使った時、どっちに魔法が行ったか分かる魔法である。
マドカは強大な力を持つので、コントロールできるようになるまでは世間に迷惑が掛からないようにしなくてはならん。
まさかこれが、魔将を探るために役立つとはなあ。
ちょろっと出てきた俺だが、夕食までには戻らねばならない。
魔将退治はまさにRTA。
「はい、どっちにいるか分かった。じゃあ行ってみよう!」
マナオイカケールのお陰で、魔将への方向が矢印となって目の前に出現している。
大変分かりやすい。
バビュンと飛んでいくと、おどろおどろしい外見の山があった。
結界で包まれているから普通は見えない。俺は見える。
「ツアーッ!」
結界を割った!
現世に魔王尊の山が姿を現す。
慌てて、天狗たちが溢れ出してきた!
「ワールドエンドコキュートス!」
天狗は全て、凍りついて砕け散ったぞ。
『ば……バカな……!? 何が……何が起こった……!?』
震え声が聞こえる。
出てきたな。
立派な山伏っぽい衣装をまとった、真っ赤な顔の天狗が出現した。
まあまあでかい。
小山くらいのサイズの魔将が空に浮かんでいる。
強さとしては、俺が戦った魔将の中では上から数えた方が早いだろう。
さらに、こいつは身を隠す賢さを持っている。
俺がマドレノースを倒したことで、ヤバいと思って悪事のスケールを落としたのだ。
だが、俺がヒノモトに観光に来てしまったのが運の尽きである。
『お前は……お前が、勇者か!! こうなれば、ヒノモトごとお前を葬ってくれよう!! 天地鳴動……破国の術……!!』
「させんぞ。時間も無いからさっさと決めてやろう。ビッグナール!」
俺は魔王尊と同じくらいのでかさまで巨大化する。
そして、やつの魔法が効果を発揮する前に、やつごと宇宙まで運び出した。
『ウグワーッ!? な、なんというパワー!!』
「ツアーッ! 勇者チョップ!」
『ウグワーッ!!』
「勇者パンチ! パンチ! パンチ!」
『ウグワワーッ!!』
宇宙空間で、組み付いて殴る殴る殴る。
『おのれ!! 空間破砕の術!! お前が避ければヒノモトに術が降り注ぐ……!!』
「なんの! 身も蓋もなく終わらせるぞ! デッドエンドインフェルノ……ビーム!!」
俺は腕をクロスした。
両腕が輝き、真っ赤な熱線がぶっ放された。
それが、魔王尊の使った魔法を真っ向からぶち抜き。
『な、な、なんとぉーっ!? ウグワーッ!!』
魔王尊を焼き尽くしたのである。
宇宙だからどんだけやっても問題ないぞ。
ヒノモトから、魔族の気配が消えていく……。
よし、平和になったな。
ここまでのRTA魔族退治は、トリマルにはまだ荷が重かろう。
少なくとも、トリマルの目を誤魔化して悪事を働くレベルの魔族ではあったわけだ。
コツコツ力を溜めて、魔王になろうとしていたのかも知れない。
だが、一切実力を発揮させずに粉砕したからな。
これで夕飯に間に合う……。
俺は元のサイズに戻りながら、大気圏に突入して行った。
空を飛んで帰還すると、カトリナが手を振っているではないか。
「ショート、おかえりー!」
「ただいま! ちょっと面倒事を片付けてきた。ヒノモトはまあ、魔族的な脅威からは解放されるだろう」
降り立つ俺。
ちょっと離れたところでは、マドカが地元のガキンチョどもに何やら指示しているではないか。
ガキンチョ共が「うっす、おやぶん!!」とか言っている。
ガキ大将マドカ。
腕っぷしでマドカに勝てるのはほとんどいないだろうからなあ。
「おとたん帰ってきた!? おとたーん!」
「おー、マドカ!」
ジャンプしてくるマドカをキャッチする。
「まおね、おなかすいたよ! ごはん! ごはん!」
「そうだなー。お父さんもお腹がペコペコだよ。カトリナ、飯にしよう!」
「そうだねえ。みんな揃ったし、ヒノモトの夕飯をいただいちゃおう!」
そういうことになった。
海辺の宿場町なので、基本は魚料理。
焼き魚に、煮魚の鍋。
お漬物の種類が多い。
「海辺だから、育てられる野菜の数が限られるのかもな。だから山から仕入れた野菜を漬物にして食うんだろう」
「へえー。……あ、変わった味がする!」
「うえー、まおこれきらーい」
マドカが顔をしかめた。
そうだな。
酒粕で漬けた感じだ。
子どもにはちょいときつかろう。
「マドカはお魚の鍋をたくさん食べるんだ」
どっさりと鍋の中身をマドカのお椀によそる。
よく煮込まれており、地元で採れるらしき数少ない葉物野菜と一緒にいただくのだ。
俺が真面目な顔で骨を取れば、マドカが端からどんどん食べていく。
この小さい体にどうしてこんなに入るのか。
もりもり食べる。
「たべた! おなかいっぱい!」
「よくできました」
「おなかいっぱいでよかったねー」
「あうまー」
俺とカトリナで手を叩く。
シーナは魚に興味があるようで、カトリナの膝の上で口をパクパクさせていた。
「今度はシーナのために魚の骨を取らないとな! はっはっは、これは魔王尊を相手にするよりも大変だなあ!」
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