第423話 観光ついでに魔将を倒す
海に夕日が沈んでいく様を眺める。
これはこれでとてもオツなものだ。
漁民たちが、俺が勇者だと知ってわいわいとやって来ている。
「勇者様、なんかお話を聞かせてもらえませんか」
「いいだろう。上映会までやってやる」
そういうことになった。
ファンタジー世界というものは基本的に娯楽に乏しい。
トラクタービーム射的なんてものがある、宇宙船村が異常なのである。
無限の魔本図書館がある勇者村も大概だが。
なので、俺が開催した上映会は受けた。
大いに受けた。
漁民の一族全員と、宿場町の町民全員と、旅人も全員来た。
みんなで夕暮れの浜辺で、俺が展開する魔将と対決する映像に、やんややんやと声援を送ったのである。
全て終わった頃にはとっぷり日が暮れていたが、俺に対するタイザン民の信頼度はマックスだ。
物凄い娯楽作品を提供してくれる人間なのだから、まさに特別扱いというやつである。
「行けねえ! 夕餉の準備がまだだ!」
「急げ急げ」
宿場町の人々が慌てて戻っていった。
炊飯の煙が上がり始める。
あと二時間は飯が食えなさそうだな。
「まお、おなかすいたー!」
マドカが主張する。
すると、漁民の人から干し魚をもらえた。
「おさかなすき!」
むしゃむしゃ食うマドカなのだ。
好き嫌いなく、干し魚を頭から骨までガツガツ食べるマドカ。
漁民の人はニコニコしながらこれを見ていた。
「気持ちのいい食べっぷりだねえ!」
「マドカはなんでも美味しく食べるのよ」
「そりゃあ一番大切なことだね! あんた、いい教育してるねえ」
カトリナが漁民の奥様方と打ち解けているではないか。
勇者が連れているオーガなので、これはいいオーガなのだなとすぐに納得したらしい。
それに、カトリナは温和な外見だし、背丈も大きくないし、オーガにあるような威圧感を全く持ち合わせていないからな。
俺は俺で、タイザン民たちに上映のアンコールをされたりしていた。
「娯楽は刺激的だからな。確かに楽しい。だが一気に見たら中毒になって、仕事も手につかなくなるぞ。次回は明日の昼過ぎだ。そしたら俺たちはまた旅立つからな」
「あと一回きりか!」
「こりゃあ楽しみだなあ!」
「絶対に呼んでくれよ!」
わいわいと解散していくタイザン民たちなのだった。
スッキリとして気持ちのいい性格の連中だ。
マドカの手下になったちびっこどもも、目をキラキラさせて俺を見上げている。
「マドカおやぶんのとうちゃんすげえなあ」
「きっと、マドカおやぶんのとうちゃんなら、てんぐとうもやっつけちゃうぜ」
「そうだそうだ、てんぐとうなんかいっぱつだ」
「天狗党とな?」
俺は大変日本的なものを感じ取り、ちびっこどもに尋ねた。
「それは山賊みたいなやつらかね」
「いんにゃ! だいてんぐの、まおうそんっていうんだけどよ、そいつがおっそろしいじんつうりきで、むらひとつをみんなころしちゃうんだ!」
「てんぐとうのてんぐたちが、ころされたくなければみつぎものをだせーって」
「タイザンさまでもはがたたなくて、こまってるんだよな」
「ほろとりさまがいたときはおとなしかったのにな」
ほうほう。
そいつらは恐らく、魔将とその手下だろう。
ヒノモトで暗躍してたヤツの一匹で、俺に感づかれない程度の規模で悪事を働いているに違いない。
まあ確かに、トリマルがいたら身動きできまいな。
「天狗党はどっちにいるんだ? なに? あっち? よし、それだけ聞けば十分だ」
俺はフワリの魔法で舞い上がった。
「と、とんだ!!」
「てんぐといっしょだ!」
「ハハハ、空を飛ぶのはごく初歩的な魔法だぞ。では、夕餉までに天狗党を壊滅させて来る」
「ショート、いってらっしゃーい!」
「おとたんがんばえー!」
「だうー!」
家族の声援を受けながら、俺は猛スピードで山の方向に飛んでいくのである。
ちびっこやタイザン民たちは、ポカーンとしてこれを見上げていた。
さて、山をざっと攻撃して魔族をあぶり出すとしよう。
「ツアーッ!!」
山全体に衝撃波を放った。
ちょっと衝撃波に指向性を持たせており、対象の魔力がでかいほどダメージがでかくなるのである。
周囲の鳥たちがびっくりして散り散りに逃げた。鳥は魔力が無いからダメージは少ない。
獣たちも逃げ去っていく。
魔獣は泡を吹いて倒れた。あれは魔猪だな。
魔力を持っているから大ダメージを喰らうのだ。
そして……。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」
27体ほどの人影が、あちこちの木の上から落っこちていった。
あれは天狗だな。
ヒノモトの魔族だ。
どうやらこの国、自生の異種族としてオーガやカッパはいるが、天狗は存在しないらしい。
だから、天狗は不自然な存在。
魔王の息が掛かった手下である。
「な……何者……」
意識がある天狗が、息も絶え絶えに俺に問う。
「勇者だ」
「ゆっ……勇者……!! な、なぜヒノモトに勇者が!!」
「観光に来たのだ」
「なんということ……!! 魔王尊にお伝えせねば……!!」
天狗は何やら呪文を唱えた。
「ていっ」
「ウグワーッ!?」
……ので、呪文の二言目が出る前にチョップで頭を割っておいたぞ。
だが、魔法がどっちに向けて放たれたかは把握した。
魔王尊はあっちね。
俺は再び飛び始めるのである。
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