第422話 島国ヒノモトの元勇者一家

「トリマルはいるか」


 ヒノモトで遭遇した最初の人に問う。

 最初は驚いていたヒノモト民だが、俺の姿をよく見たら、自分たちにそっくりだということに気付いたらしい。


「トリマルってえと……。鳥だから……ああ! あのおっそろしい保呂鳥!!」


 ポンと手を打つヒノモト民。


「殿様が自分の部下に召し抱えようとしたんだが、あの鳥は気骨があってなあ」


「だろうな」


「しばらくいたあと、禄を食むことも無く旅立ったそうだ」


「なんと、ここにはもういなかったのか」


「それよりあんた、その身なりに髪と肌の色。ヒノモトの民だろう? なんで空を飛んできたんだ」


「話せば長くなるが、俺はヒノモト民ではなく勇者だった男でな」


「な、なにぃーっ!? ゆ、勇者ーっ!?」


 飛び上がって驚くヒノモト民なのだ。

 ここには俺は立ち寄っていないはずだが、俺の名は知れ渡っていたらしい。


 どうやら、セントラル帝国から来た商人たちと、船に乗っていた吟遊詩人が俺のことを伝えて回ったらしい。

 魔王マドレノースによる混乱はヒノモトにもあり、魔将がヒノモト内の豪族たちを煽って内紛を引き起こしていたとか。

 だが、大陸の魔将が一掃されたことで、ヒノモトの魔将は慌てて身を潜めたらしい。


 まだどこかにいるな、これは。

 トリマルも、それを感じ取って探し出す旅に出たのかもしれんな。


「よーし、じゃあ今日はこの辺りで一泊して、観光しちゃおう」


「やったあ! 地元の美味しいもの食べましょう!」


「たべるーたべるー!」


「んまおー!」


 カトリナとマドカがはしゃいだので、シーナも真似をして手をブンブン振り回した。

 はっはっは、みんなカワイイなあ。


 ちなみにこの地方、タイザン家という豪族が収める土地で、海産物を都に納めているのだそうだ。

 この先には、ヒノモトの神、ヒノカミを祀る大きな社があるんだそうで、そこを目指してヒノモト中の人々が旅してくるのだとか。


 なので、タイザンの土地には宿場町があった。

 俺たち一行は、ここで宿を取った。


「鬼だ! 鬼がおる!」


「なんぞカトリナを指さして鬼だと言っているな。そう言えば、ずっといっしょに過ごしてたから忘れてたが、カトリナには角があるんだった」


「そうだよー。オーガは本来は結構怖がられる種族なんだからね」


「こんな可愛いものを怖がる気持ちが分からないなあ」


「ええー? じゃあお父さんは? なかなか怖いと思わない?」


「ブルスト、一見すると迫力があるが、中身は結構可愛いよな」


「そうなのー? あはははは」


 村の子どもたちが出てきて、カトリナを指して鬼だ鬼だと言っている。

 そうか、ヒノモトはあまりオーガが多くないんだな。


 なお、これに対してマドカが抗議する。


「ちあうよー! おかたんはまおのおかたんだもん!!」


「えっ、おまえのかあちゃん、おになんか!」


 地元のちびどもの中に飛び込んだマドカ。

 でかいガキンチョが、目を丸くした。

 その後、ふんっと鼻を鳴らす。


「だったらおまえもおにだな! えいっ!」


 あっ、マドカに向けて棒を叩きつけてきた!

 なんたるガキンチョか。


「つあーっ!」


「うぐわーっ!」


 おっと、マドカが衝撃魔法で迎え撃ったな。

 ガキンチョが20mくらいぶっ飛んでいった。

 マドカ、残心を決める。


 周囲のガキども、顔からスーッと余裕が消えて、何か恐ろしいものを見るような目をマドカに向けた。


「おかたんはおかたんだよ! わかった!?」


 こくこく頷く、ガキンチョどもなのだった。

 やはり暴力は全てを解決するな。

 俺の場合、本当に何もかも解決できてしまうが相手の心もポッキリ折れてしまうので、なるべく行使しないようにしているのだ。


 さて、タイザンの野山や家並みを、家族とともに眺めながら歩く。

 何故かマドカが、地元のガキンチョどもを率いて歩いている。


 ここに到着して数分でガキどもの頂点に立ってしまったのだな。

 ヒノモトは、外の世界の強い子どもの存在を初めて知ったに違いない。


「お、おんなのくせになんでそんなにつよいんだ」


「まおはねー、おとたんが、ゆーちゃだったんだって」


「ゆーちゃ……ゆ、ゆーしゃ!? お、お、おまえ、ゆーしゃのこどもかよ!」


「ふえええ、すごい」


「つよいはずだよう」


 あっ、マドカが尊敬されだした。

 この光景も、見てて楽しいもんだな。

 そして、タイザンの家並みも楽しい。


 とても古い時代の、日本の風景みたいだ。

 屋根はどれもこれも、藁を束ねたようなもの。

 木造に壁は土を塗っており、宿場を少し離れると、一面の田畑が広がっている。


「勇者村とはちょっと違う感じだねえ」


「ああ。こっちは季節の変わり目がはっきりしてて、春から秋にかけてしか米を作れないんだ」


「あ、寒くなるんだ。寒いのはいやだねえ」


「だよなー。勇者村はずっと温暖とか灼熱だから、暑さに慣れてしまうよな」


 一休みして茶と弁当を食っている人に、挨拶して回ったりなどする。

 ここは海が近く、土地が塩を含んでるんだそうだ。

 だから、育つ米は特別なもので、ちょっと塩味があるのだとか。


 そりゃあ美味そうだ。

 握り飯にしたら、そのままで味が付いてるんだもんな。

 これを勇者村に導入したいが、これこそ塩の出る土地でなければ育たないものだ。


 きっと今夜の食事で出てくるだろうから、地のものとして楽しむことにしようではないか。

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