第421話 トリマルに会いに行く

 そうだ、トリマルに会いに行こう。

 ふと思い立った。


 村の野良仕事も安定しており、赤ちゃん軍団も順調に育っている。

 勇者村全てが仕事と子育てを協力できるチームとして、しっかり連携もできているのだ。

 ちょっと俺が外に行ったくらいではなんともないだろう。


「ということで、俺はちょっとトリマルに会いに」


「そうなの? じゃあ私も行く!」


「まおもまおも!」


「あうあー」


 そういうことになってしまった。

 ショート一家、極東の島国への出発である。


 宇宙船村で金属の大きな板を一枚購入し、これを加工する。

 そして、俺の念動魔法で包み込んで飛翔させるのだ。


 高速移動魔法バビュンの応用だな。

 俺は常に進化しているのだ。


「シーナもいるし、行きはスパッと行っちゃおう」


「はーい。ショート、がんば!」


「おとたんがんばえー!!」


「おう、頑張るぞ。おらあ!! 結界と念動と飛翔さらに高速移動魔法! 名付けてマトメテバビュン!!」


 座席付きの船みたいな形に加工された金属板が空に舞い上がる。

 そして、猛烈な勢いで飛翔を開始した。


 あっという間に音の速度を突破する。

 結界魔法によってその衝撃波抑えられているから、何の衝撃も無いぞ。


「すおいすおい! おかたんみてー! したがびゅーんって! びゅーん!」


「凄いねー。どこまで行っちゃうんだろうねー」


「わうわー!」


 おお、クールな赤ちゃんであるシーナまで反応しているではないか。

 喜んでもらえて何よりだ。


 あっという間にハジメーノ王国を超え、ホホエミ王国に差し掛かった。

 大体マッハ5くらいで飛んでいる。

 すごい速度のはずだが、まだまだヒノモトには到着しない。


 世界は広いなあ。

 ワールディアそのものが、恐らく地球と同じくらいの大きさがあるのではないかと俺は睨んでいる。

 だから、マッハ5でヨーロッパから日本まで飛ぶとしたら……。


「三時間半掛かるな。よーし、みんな、ここでのんびり寝てていいぞ。まだまだ掛かるからな」


「えー! まおねないよー!」


 マドカはいつもそう言うこと言うんだ。

 だが見てろ。

 うちの子は絶対睡魔には抗えない。


「ぷう」


「ほら寝た」


「マドカはよく寝るからねえ。あらあら、お姉ちゃんが寝たら妹も寝ちゃった」


「シーナはまだまだ寝るのが仕事だからな」


 ということで、賑やかな二人がお昼寝モードに入ってしまったので、ここからはまったりだ。

 ホホエミ王国を超え、セントラル帝国に差し掛かる。

 セントラル帝国がとにかく広大な国土を持っているのだ。


 セントラル王国と言えば。


「ハオさんたち元気かなー」


「だよな。ハオさんを思い出すよな」


 勇者村に米をもたらした恩人、セントラル王国の商人であるハオさんだ。

 この間、一族揃って遊びに来たからな。

 大歓待で迎えてやったのだ。


「ハオさんが住んでるのは内陸部だが、もっとあっちだな。ほら、向こうにだんだん海が見えてきてるだろ。そこだ」


「そうなんだねえ……。それにしても、こうやって飛んでると世界が丸いっていうのが分かるねえ。私、世界ってひらたーいものだと思ってたから」


「あ、ということは地平線で世界が途切れてると思ってた?」


「うんうん! だから、海が世界の端からどんどん流れ落ちていってしまうって想像して、怖くて泣いちゃったり!」


「カワイイ」


 小さいカトリナを想像する。

 案外、マドカみたいな子だったのかも知れないな。

 いやいや、もっとおとなしい感じだろうか。


「むにゃむにゃ」


「おっ、うちのお姫様が起きるぞ」


「おなかすいたー」


 目を開いてもぞもぞ起き出してきたマドカ。

 開口一番、何か食べるものを所望してくる。

 きちんと備えてあるぜ。


 俺はアイテムボクースから、丘ヤシの実を取り出した。

 ジューシーで寝起きにピッタリ。


「おはようマドカ。これを食べるんだ」


「おかやしだー!! やったー!!」


 マドカは天に向かって拳を突き上げると、猛烈な勢いで丘ヤシを食べ始めた。

 元気元気。


 うちのお嬢さんの元気っぷりを、夫婦揃ってニコニコ眺めていたらだ。


「おとたん! うみだよ!」


「おっ、ついにヒノモト海に到着したか」


 極東の島国、ヒノモトに続く海。 

 だから俺はヒノモト海と呼んでいる。


 その先で、ながーい島国が見えた。

 ヒノモトだ。


「まとめてバビュン、減速!」


 俺がコントロールすると、金属板の飛翔速度が落ちていった。

 時速50kmくらいまで落とすのだ。


 そして高度も落ちていく。

 着陸する予定だからな。


 海の上には漁民たちがおり、空飛ぶ金属板を指さしてわあわあ叫んでいた。

 裸にふんどし一丁だ。


「こんにちわー!!」


 マドカが海に向かって手を振った。

 飛翔する金属板から、小さい子どもが顔を出して挨拶してきたのだ。

 漁民たちはびっくりしたようだった。


 遅れて、彼らも手を振ってくる。

 人間、手を振られたら思わず振返してしまうものだな。


 かくして、俺たちはヒノモトへと到着。

 金属板を遊覧飛行くらいの速度にしながら、高度1mほどをのんびりと進むことにしたのである。


 ヒノモト観光の始まりだ。

 そう言えばこの世界の日本的な場所、来たこと無かったんだよな。


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