第420話 ショータの小冒険

 ショータがトコトコと歩いていた。

 おいおい。

 まだ一歳だろ。


 なんで一人で歩いてるんだ。

 ニーゲルもポチーナも忙しい。

 ということは、二人が目を離した隙をついて飛び出したのだろう。


 まだ一歳ちょっとなので、歩きもトコトコと可愛らしいものだ。

 ただ、妙に体幹がしっかりしている。

 やはりフィジカルエリートではないか。


『これはこれはショータさん』


「おっと、二等兵とショータが出会ってしまった」


 二等兵は、地球で言うお掃除ロボそっくりなお喋りロボットである。

 宇宙船村の由来となった、俺が落としたオーバーロードの船に搭載されていたのだ。


 今ではすっかり、勇者村のお掃除役である。

 結局地球の似た外見のロボと同じ役割をしてるじゃないか。


『おや村長まで。どうされたんですか』


「実はな、ショータが一人でトコトコ歩いてたんだ」


『去年のダリアさんと一緒ですね』


「そう言えばそんな事があった……」


『一昨年はバインさんでした』


「そう言えばそんな事があったな! なんだ、うちの村の赤ちゃんたちは冒険をするならわしがあるのか? ビンもマドカも冒険してたもんな」


「うおー?」


 俺と二等兵が積もる話をし始めたので、ショータが間でキョロキョロした。


「ショータ、一人でちょろちょろ歩くのは危ないから、村長の俺が一緒に行ってやろう」


「あむあ!」


『なんだか納得したみたいですね。案外言葉が通じるものなんですねえ』


「フィーリングだ、フィーリング。ほら、ショータが歩き始めたぞ。危ないことにならないように見守ってやらないとな」


 普通、子どもは無茶をやってすぐに死んだりするものだ。

 うちの村の子どもは、例外的に超絶タフだが。


 ちなみにショータは、バインやダリアと違うところがある。

 それは……。


『ワタクシに乗らずに普通に歩いてますねえ』


「己の肉体だけを信頼しているのかもしれない。独立心旺盛だぞ」


 てくてくと歩く一歳児。

 これくらいの年頃だと、恐れというものを知らんからな。


「もがー」


「あわー!」


「おお、アリたろうまでやって来た」


「めえめえ」


「ガラドンもか!」


「あうわー」


 ついにショータは、俺と二等兵とアリたろうとガラドンを従え、村を練り歩くことになった。

 なんだなんだ、どういう集まりなんだ。


 田んぼの間の畦道を、ご機嫌で歩くショータ。

 一歳児としては恐ろしく行動範囲が広いぞ。

 つるんと滑って田んぼに落ちそうになると……。


『ふおおおーっ!』


 二等兵が走っていって支えた。

 今度は逆方向に落っこちそうになると……。


「もがーっ!!」


 アリたろうが走っていって、ショータをキャッチした。


「キャッキャッ」


「喜んでいるな」


『大変心臓に悪いですねえ』


「まあ、俺にあやかった名前の赤ん坊だ。生半可なことでは大事にはならないと思うが……」


「めえめえ」


「ガラドンはスパルタでやるべきだと言っている」


「ばうー」


「めえ!?」


 おっと、ショータが今度はガラドンに興味を持ったぞ。

 毛とかヒゲを引っ張っている。


 ガラドンは嫌がって、ぶんぶん頭を振る。

 これは普通の赤ちゃんであれば吹っ飛ばされてしまうだろう。

 だが相手はショータだ。


「キャッキャッ!」


 ぶんぶん振り回されながらも、ガラドンにしがみついている。

 凄い腕力と体幹コントロールだ。

 一歳児のそれではない。


「でも危ないな。ショータ、こっちだこっちだ」


「あーうー」


 俺に掴まれてガラドンから離されたショータ。

 手足をブンブン振り回している。

 おお、元気元気。


 これを地面に下ろしたら、またトコトコーっと歩き始めた。


「おーい、村長、何やってるんだ」


「アキム! 午前の仕事が終わったのに午後も畑にいるのか」


 砂漠の王国出身のアキムが、麦畑の中からこちらにやって来る。


「いやな、たまには昼過ぎの麦を見てやろうかと思ってなあ。うちのガキどもさ、もどんどん大きくなって手が掛からなくなって、こう、手持ち無沙汰で」


「子どもが成長すると、親のやることも変わってくるもんだものなあ」


「全くだよ……。あれ? そこにいるのはニーゲルとポチーナの子どもか。ショータだったよな」


「そうそう」


「おーいショータ。お散歩か。麦畑入ってみるか?」


「お?」


「来い来い」


「あーいー!」


 ショータは甲高い声をあげると、アキムが立つ麦畑に降りていった。

 畦とは違う、柔らかな土の上をペタペタ歩いている。


 足の下の感触が楽しいらしい。

 振り返ってはニコニコする。


 相変わらず、俺と二等兵とアリたろうとガラドンがついてきているので、なんとも不思議な組み合わせになっている。

 結局、ショータが満足するまで、彼が畑を歩き回るのを追いかけることになったのだった。


 一時間ほど掛かっただろうか?

 ショータはすっかり満足したようで、畑の中心にぺたんと座り込んだ。


「これくらいが一番手が掛かるんだが、それがまた可愛いんだよな」


 子ども三人を育てた男の言葉は深みがあるな。


「ほら、ショータ。ママが迎えに来たぞ」


「おうー?」


 ショータが首を傾げる。

 俺はショータをひょいっと担ぎ上げて肩車した。


「キャアーハー!」


 急に高い高い状態になり、歓声をあげるショータ。

 その目に、向こうからトテトテと小走りでやってくるポチーナが見えたようだ。


「あわー!」


 一際大きな声で、ポチーナを呼んだ。


「あー、良かったですー! ショータいたー!」


「ちょっとした冒険だったぞ。だが俺たちが見守っていた」


『そうですそうです』


「もがもが」


「めぇめぇ」


 俺たちが大人数だったので、ポチーナは目を丸くした。

 そしてすぐに微笑む。


「みんなに遊んでもらったですねえ、ショータ!」


「あう!」


 俺からポチーナに受け渡され、満足げなショータ。

 我々、小冒険のおともたちに向けて、両手をぶんぶん振るのだった。


 あれは大物になりそうだ。


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