第419話 赤ちゃんたち、集う

「あいおー!」


「わおー!」


 赤ちゃんカゴに入ったシーナが登場すると、先に広場で日向ぼっこしていたギアが手を上げて返事した。

 ギアもついにハイハイをマスターしたのだ。

 草の上にシーナを放つと、ハイハイしながらギアに接近する。


 おお、何やらわちゃわちゃと赤ちゃん語で会話をし始めた。

 明らかに二人共、生後八ヶ月くらいの赤ちゃんの挙動では無いのではないか……。


「やっぱ、勇者村に生まれるとなんか特別な赤ちゃんになっちゃうのかも知れないなあ」


 俺はウームと唸る。

 そこへ、トコトコトコトコっとやって来るのはショータ。

 新生赤ちゃん軍団で最年長である。


 ダリアは最近、サーラを姉と慕って一緒に遊んでることが多いな。赤ちゃん軍団卒業であろう。

 マドカは赤ちゃん軍団にお姉ちゃんぶろうとしているが、うちの長女はちょいちょい男前だからなあ。

 兄貴扱いされている気がする。


「わうわうわー、あうわう」


「うわー」


「あわー」


 赤ちゃんが三人揃ってしまったな。

 みんなで、地面をトコトコ走る虫を眺め始めた。


 虫をみだりに殺さないのは偉いぞ。


「最近、お互いの家の子どもはどうよ」


 赤ちゃん報告会が始まる。

 シーナと俺。

 ギアとフック。

 ショータとポチーナ。


 カトリナとミーは、本日のお料理当番だ。

 村はみんなで子どもを育てる。

 ということで、お互いの赤ちゃんの調子を聞いておくのはとても重要である。


「ギアはこう、ビンと比べると色々のんびりだ。思えば、ビンがちょっと変わってたんだな。何もかもすごくしっかりしてたよ。だから今は、毎日が勉強みたいなもんだ」


 フックがそう言いながら笑う。


「だな。ビンは特別製だ。だが、そこにも特別な赤ちゃんがいるぞ」


「村長の名前をもらったらなあ……。特別になっちゃうよな」


 二人でショータを見る。

 すぐ近くに座っていたポチーナが、首を傾げた。


「ショータが特別です?」


「普通に名付けただけじゃ特別にならないだろうが、ここは勇者村で、俺が近いところにいるからな。俺がこう……神様っぽくなってきている。お陰で俺っぽい名前を付けると加護が流れ込むみたいなんだ」


「厄介だなあ……」


「特別になるですかー。私もニーゲルも全然特別じゃないですからねー」


 逆方向に首を傾げるポチーナ。


「特別な人間なんてそんなにいなくていいのだ。世界は普通の人が運営するもんだからな。特別担当はちょっとでいい、ちょっとでな。問題は勇者村に特別担当が集中しすぎてることだ」


 ショータは虫さんの行く先を見届けた後、うんうん頷いていた。

 さて、この子の適性はっと。


 俺が見るところ、多分魔法の才能は無い。

 どう育つかは分からないが、獣人の血を受け継いだこの子は、戦士向きだろう。


 カールくんが勇者として、ビンが魔法使い……ヒーロー……? だとすると、戦士担当が誕生したか。

 俺の肉体的能力を受け継ぐ戦士か。

 ある意味一番チートだぞ。


 こいつに色々教えてあげないとなあ。


「なあショータ」


「お?」


 呼びかけると、キョトンとして顔を上げるショータだ。

 まだまだ普通の赤ちゃんである。

 才能が戦士だとすると、まだまだそれを発揮することはない。


 ある程度成長してからの真価発揮だな。

 未来から来たビンの時代に、ショータはいなかった。

 あれは間違いなく、俺がさっさと神様になっちまった世界だ。


 俺が少しでも長くここにいてちびたちを育てれば、ああいう未来は回避できるってわけだな。

 頑張らねばならん。


「あいあいおーうえーあー」


「おっ、どうしたシーナ!」


「わうわうわー、う、うわ、うわぎゃー!」


「むむむ!!」


 泣き出した!

 赤ちゃんだから仕方ない。

 だが、何故泣き出したのか。


「くんくん……。これはおしっこのにおいです! おしめが濡れたですよー!」


「そうだったかー」


 犬の獣人ポチーナの鼻はとても役立つ。

 あらかじめここに、予備のおしめも準備してきたのだ。


 サッと用意し、てきぱきとおしめ交換を終わらせる。


「おー、手際いいもんだなあ! 俺も上手くなったけど、そんなに早くないや」


「俺の場合、おしめ交換に持てる能力をつぎ込んでるからな。こいつはちょっと特別だ」


 おしめ交換について、みんなでわいわいと言っていると、ギアがほわほわとあくびをした。

 これは寝てしまうところだ。


「あらあらまあまあ」


 ポチーナが目を細めた。

 すっかりママの顔ではないか。

 落ち着いたものだ。


 ギアを抱っこした彼女が、子守唄みたいなのを口ずさんだ。

 そしてギアをの背中をポンポンと叩く。

 そういしていると、おねむだったギアは完全にすぴすぴと寝てしまったではないか。


 お見事である。

 ところで、うちのシーナの寝る音がぷうぷうで、ギアがすぴすぴはどうなっているのだ。


「なあシーナ」


「お?」


 おしめを替えられ、すっかりご機嫌なシーナだ。

 何のことですか? みたいな顔しているな。


「まあーま!」


 おっ、ショータが怒った。

 ママの懐を別の赤ちゃんに占領された嫉妬だな!


「はいはい。ごめんですよショータ。おいでおいで」


「まま!」


 走ってきたショータが、ポチーナのもう片方の腕の中に飛び込んだ。


「ごめんごめん! ギアはこっちで受け取るよ! 悪かったなあショータ」


 フック、ギアを抱っこして笑う。


「寝るとこいつ、ポカポカしてるんだよなあ」


「だよな。赤ちゃんは寝ちゃうとめちゃくちゃあったかくなる」


「うまおー!!」


 おっと、シーナも抱っこされたがっている。

 うちの次女を回収すると、これで三人とも抱っこされた状態だ。


 赤ちゃんの成長具合の報告会も終わったし、今日のところは……。


「これにて解散!」


 そういうことになった。


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