第418話 シーナ、ハイハイする
シーナが生まれてから、それなりに経ったなあと思うのである。
床の上で、ぷうぷうと寝息を立てて眠っているうちの次女は、かなり大きくなってきているのが分かる。
まあ、マドカよりは育ちっぷりがおとなしい。
肉体的には俺の性能を受け継いだな?
マドカは俺とカトリナの才能の一番尖ったところを全部受け継いだっぽいが、シーナは普通な感じだ。
まあ、まだ一歳になってないしな。
しゃがみ込んで、じーっと見ていたら、シーナの鼻がひくひく動いた。
パチっと目が開く。
俺に見つめられている事に気づき、シーナはじーっと見つめ返してくるのだ。
「おっきしてしまったか。よく寝る子だなシーナ。どんどん育てよ」
「うばー」
お、何か赤ちゃん語で言っている。
「う」
シーナはちょっと勢いをつけて、くるんとうつ伏せにひっくり返った。
寝返りが上手い。
天才かも知れない。
そしてその後、動くモチベーションを失ったようで、またぷうぷうと寝息を立て始めた。
まだ寝るのか。
寝るのだろうな。
「寝返り打てるようになったから、ハイハイまでもう少しだねえ」
カトリナがやって来てニコニコした。
「マドカは凄い速度で寝返りからハイハイ、そして歩行まで行った気がするな」
「あの子は早く大きくなりたいっていうモチベーションが凄かったもの! 誰かさんが、食いしん坊に育てたからかな?」
「ハハハ、確かに生まれた頃からずっと食いしん坊だった」
言うなれば、マドカはせっかちさんなのだ。
それに対して、シーナはのんびりしている。
絶対に焦らない。
与えられるものを、口を開けて待っているタイプだ。
そして俺もカトリナも、赤ちゃんに構うのが大好きなので、シーナに食べ物やおもちゃを持ってきてしまうのだ。
これはよろしくないのではないか?
いや、いい。
赤ちゃんである間くらい、怠惰を極めてもいいのだ。
俺は徹底的にシーナを甘やかすぞ。
厳しくするのは物心ついてからでいい……。
そう思っていたらだ。
「シーナ!」
元気でせっかちなお姉さんの登場だ。
バタバタと外から駆け込んできた。
ちなみに我が家は、入り口からちょっと入ると土足厳禁。
だから床にも寝っ転がれるのだ。
俺がいつも魔法で掃除しているぞ。
「マドカ、お靴を脱ぐんだ」
「あい!」
マドカは元気に、靴……というかサンダルをぽいぽーいと脱ぎ捨てた。
そして、寝てるシーナを見つけると「あーっ!!」と叫んだ。
「ねてるー! ねぼすけさん!」
「赤ちゃんは寝るのが仕事だからな」
「おー。シーナねるのおしごとねー。シーナ、あそぼ!!」
話を聞いていないマドカさん。
転がっているシーナを、わしわしと上から揺さぶる。
「あらあら」
カトリナは呑気なものだ。
我が子の頑丈さを信じているのだな。
シーナも俺たちの子なので、間違いなく頑丈だからな。
「ウー」
おっ、目覚めた。
そして、うるさそうに姉を見る。
「シーナ、あそぼ!」
「ウー」
おっ、妹さんは不満げだぞ。
じろっと姉を見た後、なんと、いきなり動きだしたのである。
「ハイハイだ!」
「ハイハイしてる!」
俺とカトリナで大いに驚く。
シーナは、何かに向かうためではなく、うるさい姉から離れるためにハイハイを覚えたのである!
後ろ向きな理由だが、逃げるというのは生物にとって大切な本能だもんな。
「シーナうごいた!」
「うごいたねー。偉いねー」
カトリナが寄ってきて、マドカを回収した。
マドカも結構大きくなってきて、体重もドシッとあるが……。
オーガであるカトリナにとって、その程度の重さは大したことはないのだ。
ひょいっとマドカを軽々抱えあげてしまった。
シーナはハイハイしながら、方向を軽く転換し、こちらを確認していた。
姉が確保されたのを見た後、安心したようにごろりと仰向けになった。
またぷうぷうと寝てしまう。
よく寝る子だ。
そして、だんだんシーナの個性も分かってきたぞ。
この子は、面倒くさがりだ。
面倒くさいことから逃げるためなら、どんな努力でもやるタイプだし、面倒くさいことを退けるために進化するんだろう。
大変気持が分かる。
メンタリティ的には、我が家で一番の面倒くさがりっぽいが。
これをいかにして最低限自分で動くように教育していくかが、今後の課題だろう。
「今日はひとまず、シーナのハイハイ記念日だな。村のみんなに教えてこよう」
爆睡しているシーナを、ベッド代わりのカゴに詰め、外に運んでいった。
おっと、ニーゲルとポチーナの子、ショータがトコトコ歩いてくる。
気付くと歩くようになってたな、この子も!
もう一歳だっけ?
時が経つのは早いなあ。
「ショータ、村長さんに挨拶するですよー」
「わお!」
「おっ、元気な挨拶だ。よう、ショータ! あのな、うちのシーナもハイハイを覚えたんだ」
「おー」
まだ言葉がよく分からないショータ、だが相槌だけは打つ。
コミュ力が高い赤ちゃんだ。
いや、まだ人見知りしてないだけかも知れん……。
「わおわお、凄いです! おめでとうございますですー!」
ポチーナは手を叩いて喜んでくれた。
俺を恩人だと敬愛しているそうなので、我が事にように嬉しいらしい。
「ありがとう、ありがとう。また赤ちゃんたちを一同に会して、どんな感じの個性が出てきてるのか見てみたいよな」
「いいですねえ。賛成です!」
ということで、ポチーナの協力を得て、新しい企画がスタートするのである。
「んおー」
そんなことは露知らず、寝言を言うシーナなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます